第132話 相談2
ドレイン方伯である父ヴァルターは明日リブストンに帰る。
今日はゲイル兄様も一緒に親子3人水入らずの夕食となった。
まあ、僕は偽物なんですけども・・。兄ゲイルも転生者だからか最近はすっかり罪悪感もないし、本物の親子を演じるのが楽しいくらいだ。
「ドレイン家の繁栄に」
父ヴァルターがワイングラスを持ち上げる。
「ドレイン家の繁栄に」
「ドレイン家の繁栄に」
僕達も同じようにワイングラスを持ち上げると、注がれている赤ワインを少し口に含む。
やっぱり渋い。
エールは大好きだが赤ワインはまだ苦手だ。
「カイト、魔法の勉学はしっかり励むのだぞ。今はその事だけを考えろ。そのための手形だからな」
「もちろんですお父様。魔法具の購入費用の件はありがとうございます」
「うむ。近衛騎士団と共にインストスに向かった件はゲイルから詳しく聞いた。お前はゲイルをしっかり支えたと聞いたぞ。偉いぞカイト」
父ヴァルターが優しい顔をする。なんだかんだ言ってこの人は子煩悩なんだよね。もっと恐ろしい人かと最初はビビっていたけど実際に親子になるとそんなに悪い人ではないんだ。
「当然の事をしただけですよお父様。お兄様のお役に立てたのならよかったです」
「私からも礼を言う。お前が来てくれて助かった」
ゲイル兄様が僕にお礼を言ってくれる。とても嬉しい。
2人に褒められるとなんだか本当の親子3人のような気がしてくるから不思議だ。
「ハハッ。ちょっと照れますね」
「そこでだインストスの報告はゲイルから聞いたが、お前からも報告してくれ」
「わかりました。ではインストスに向かう事になった理由から」
僕はインストスで魚人が打ち上げられていた事から説明していく。
ただし、大聖堂に忍び込んだ事やクトゥルフの事はゲイル兄様の指示で話していない。
既にゲイルから聞いていたからなのか、父ヴァルターは食事をしながら平然と魚人やダゴンの話を聞いていた。
「ゲイルから聞いた話と同じだな。未だに信じられんが、本当なのだろう。
メルシュ商会は恐ろしい悪魔を呼び寄せたものだな」
「そうですね。皇国に危機が迫っているのかも知れません」
「それで、その悪魔の崇拝にパオロが携わっている可能性があると思うか?」
「私はパオロが何らかの関係があると思いますが」
「そうかわかった。リブストンに帰ったらパオロと会って話をしよう。
だが、今、パオロを切る事は出来ない」
「お父様が判断される事ですので。
ただパオロ大司教には気をつけた方が良いとは思います」
「それはわかっている。奴が神へ近づきたいと願っている事は何度か神についての話を聞かされたので知っている。しかし、悪魔崇拝とはどういう事だ?
とりあえず奴が何を考え望んでいるのか、それを知らねばならん。
その結果、もし奴を切るとしても今ではないと言うことだ」
「お父様。パオロと話をする時に私やカイトの名前を出さないようにお願いします」
ゲイル兄様が大事な事を言ってくれた。確かに僕たちの名前が出てくると何かしてくる可能性もある。シャルロットの事もあるしね。
「わかっている。近衛騎士団からの情報として真意を探るだけだ」
「エリザベス皇女殿下拉致の実行犯として、先日、カイトのクラスメイトであるカミーユが近衛騎士団に捕まりました。近衛騎士団はカミーユがパオロ傘下の孤児院出身だった事からパオロが裏にいると睨んでいます」
「近衛騎士団が動いたか。そこからパオロが割り出されるという事はあるか?」
「それはないでしょう。パオロがそう簡単に尻尾を見せるとは思えません」
「そうか。それなら良い。その件もリブストンで奴と話をする」
「お父様、もう一つ。捕まったカミーユと同じ孤児院出身の者がもう1人います。女なのですが、いまカイトに執拗に迫っているそうです」
お兄様言っちゃったよ!!言っちゃって良いの??
「なに??もう1人いるのか?!
しかもカイトを狙っていると言うのか?」
「カイトが誘拐されるような事はないでしょう。パオロもお父様の息子に手を出せばどうなるかはわかっているでしょうから。
その女を使って魔法の天才の素養を見せているカイトを自分の手駒にしたいと思っているのだと思います」
「もし、おかしなところがあるのであれば、トルキンにその女を消すよう命じる」
えっ?シャルロットが消されちゃう!?ダメだよ!シャルロットは良い子だから。
僕はちょっと焦る。
そうだ。ドレイン方伯は諜報計略組織を持っていて、障がいになる者をあっさり殺っちゃう人だった。その辺は黒い部分も持ち合わせているんだよね。
「いえ、その女のクラスメイトは泳がせます。カイトに本気の様ですので、逆に利用できるでしょう」
ホッ。ゲイル兄様がフォローしてくれた。
でもなんだか悪い顔になっているよ!!
「流石はゲイル。私の息子だ。確かにその手があるな。何か判れば手紙をよこせ。
あと、この屋敷にもトルキンの部下を常駐させよう。
カイトもその女を取り込むのは良いが、取り込まれる事は断じてないようにな」
「は、はい・・・」
父ヴァルターも悪い顔になっている気がする。やはり本物の親子だ。
**********
その夜僕はドレイン家の馬車で寮に戻ってきた。
ゲイル兄様から言われた事が頭に残っている。シャルロットと体の関係になり僕がシャルロットを籠絡すれば良いと言う。
シャルロットと体を重ねたい。僕は疼いている。
しかしそうなった後の不安が大きいんだよね。ゲイル兄様が言うように僕がシャルロットを良いように操れるのだろうか?
いや、僕はそんな都合よく操るなんて事は出来ないし、そもそもラノベのヒロインであるアビーとの関係進展を望んでいるんだ。
シャルロットとはデートに行くとは返事をしてしまった。
デートではシャルロットの事をもっと知ることが大事だと思う。
シャルロットが何を考え何故僕と結ばれる事が神の意思だと思うのか?
本当に洗脳されているなら、シャルロットをその洗脳から解き放つにはどうしたら良いのか?
教会はまずい気がするので、カトリーヌに良いところがないか調べてもらう事にするか。
そんな事を考えていると、なかなか寝付けなかった。
*****
次の日は寝坊してしまった。
ルークが朝食後に僕の部屋に来て起こしてくれた。
「カイトが寝坊するなんて珍しいな」
ルークは僕のボサボサの髪を見て遅刻確定と思ったようだ。
「ありがとうルーク。最近色々あって疲れてるのかも」
「シャルロットとキスしたんだって?二年生の生徒が見たと言ってたぞ」
マジか!!見られてた?!
「ハハハッ 見られちゃったか・・。ほ、ほんの出来心です・・」
「何だよ。シャルロットとは本気ではないってことか?結構不純な奴なんだな」
ルークはちょっと不機嫌そうに僕の方を見る。ルークは真面目なので遊びで女の子に手をだすのは良いと思ってないんだよね。
真面目だからエリザベス殿下と結ばれた今はアビーとも距離をとっているんだと思う。
「ハハハ・・。カミーユの事を聞こうと思っただけだったのにね」
「それで、キスをしたのか?」
「僕からと言うか。シャルロットから・・・」
「お前にならアビーを任せても良いと思ったのに残念だな」
「いいの?アビーの事は?」
「俺はエリザベスを守るって誓ってるんだ。だからアビーは守ってやれない」
「じゃあアビーには僕から話すよ。僕もアビーには嘘はつきたくないし。でもシャルロットと付き合うとかそう言うのではないんだ。それをわかって欲しくて」
「じゃあシャルロットどうするんだよ?」
「シャルロットは助けたいと思ってる」
「助けるってなんだ?付き合うって事じゃないのか?」
「この事はゲイル兄さんや方伯にも相談したんだけど、シャルロットは真聖教のとある大物に操られてる可能性があるんだ」
「シャルロットが操られてる?ってどう言う事だよ」
「カミーユが何故エリザベス殿下誘拐に加担したと思う?」
「冤罪じゃなかったのか?」
「ゲイル兄さんの考えでは冤罪ではないんだ。僕も冤罪ではないと思ってる。
シャルロットがカミーユは神の御心に従っただけだって言った時に確信した」
「神の御心に従っただけ??どう言うことだよ? あっ授業に遅れる!!
いや、でもこの話の方が大事だな。一緒に遅刻してやる。だから詳しく教えてくれ」
僕はルークにも相談する事にした。ルークはエリザベス殿下の恋人だ。知っていて欲しかったってのもある。
そして、結果、何故かエリザベス皇女殿下も交えてダブルデートをする事になった。
(エリザベスがOKならばだけど)
シャルロットとチョメチョメしたい!という欲望を抑えることも出来て一石二鳥だと言うのと、ルークが話を聞いてシャルロットを助けたいと思う僕の気持ちを理解してくれたからだろう。
さて、シャルロットはそれで納得してくれるだろうか?
**********
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