第130話 カミーユ

手枷をつけられた腕が痛い。

腕だけではなく背中が焼けるように痛い、でも耐えなくてはならない。


これは神が僕に課した試練なのだから。いや、罰なのかもしれない。


神のご意志に反して兄弟同然のシャルロットに恋をしてしまったのだから。

そして、シャルロットと神に祝福されしカイトが結ばれる事に嫉妬してしまったのだから。



助司祭様より『神に選ばれしエリザベス皇女を神の御心のもとへ導く』との話があった。その計画の重要な役割が僕に与えられたのだ。


その事に僕は安堵を覚えた。

神がこんな僕を必要としてくれている。そしてシャルロットに恋心抱く罪を拭えると思ったから。




「取り調べを行う。この罪人を連れ出せ!」


近衛騎士の調査長と名乗る男が声を上げると、僕はいつもの拷問部屋に連れて行かれる。


そして裸にされ、壁の上から吊り下げられた鎖に両の手枷がつけられると、壁と向き合う形で立たされる。


「皇女殿下の拉致を命じたのは誰だ!!!」


何回も同じ質問がやってくるが僕が答える事はない。

助司祭様の名前を出すわけには行かない。助司祭様は神のご意志を僕に伝えただけなのだから。


そして何よりも僕が口を割ればシャルロットも拷問を受ける事になる。それだけは死んでも避けなければならない。


シャルロットは神に祝福されるべき子なのだから。



バシッ!!!


バシッ!!!


鞭が僕の背中に当たって大きな音を立てる。

と、同時に背中に激痛が走る。


僕は歯を食いしばって痛みに堪えるが、何度もムチを受けるうちに激痛が僕の頭を焼いていく。




**********




「あなたは魔法が使えるの?シャルロットと同じなの?」


僕と同じ歳くらいの茶色い髪の女の子が黒い瞳を輝かせて僕を見ている。その表情は何か不思議そうだ。


「君も魔法が発現して孤児院に入れたんだ?僕と一緒だね。

僕たちは神様に認められたんだよ」


「フフフッ シャルロットと一緒なの。よろしくね」


「僕はカミーユ。シャルロット、仲良くやろうよ」


「カミーユ・・・。綺麗な名前なの。今日からシャルロットとカミーユは友達なの」




僕の両親は貧しさから僕を捨てた。正確には洪水にあって田畑が荒れて収穫が殆どゼロになった年の夏に僕を置いて夜逃げしたのだ。


僕は村の長の計らいで孤児院に連れてこられたけど、孤児院に入れるためには多額の寄付が必要と言われ村の長はそれを断った。

洪水にあった村にそんな余力はなかったんだ。


魔法が発現すれば、寄付が無くても孤児院に入れると言われ僕はそのテストを受けた。


そして僕は魔法を使える事がわかった。

風魔法が発現し孤児院に入る事が出来たけど、孤児院の子供達のほとんどは村や街、もしくは親戚が寄付をして預けられた子達だった。


そんな恵まれた子達と仲良くできるだろうか?僕は引け目を感じて周りと溶け込む事がなかなかできなかった。


でも僕と同じように読み書きも出来ない女の子がいた。僕と同じ歳の女の子、シャルロットだ。

シャルロットは僕と同じように魔法が発現して孤児院に入った子だった。


シャルロットは素朴で不思議な雰囲気を持った可愛いらしい女の子で、僕は彼女に会うたびに惹かれて行った。


僕はシャルロットといつも行動するようになった。歳も同じなので同じ仕事が割り当てられるせいもあったけど、仕事以外でもいつも一緒だった。


僕はとても幸せだった。


孤児院の隣にある修道院の教会で祈る時はいつも、僕とシャルロットを引き合わせ導いて下さった神様に感謝の言葉を伝えた。


13歳になった時、僕とシャルロットは孤児院を監督する助司祭様に呼び出された。


15歳=成人になった時に僕たちを修道院に入れてくれると言うのだ。

通常は貴族や裕福な家の子しか修道院に入る事は出来ない。孤児院とは比べ物にならない金額の寄付が必要だからだ。


でも僕とシャルロットは神に認められた使徒だから特別に修道院に入る事が出来るらしい。


ただし、修道院に入るには読み書きを覚える事と、もう一つ、神の御心を今以上に勉強する必要があるらしい。

僕たちは修道院ではあまり使われていないだろう地下室で神の御心について学ぶことになった。


その勉強会では宇宙と神について、この世界を作った大いなる神とそのしもべ(しもべ)の神々について教わった。

僕が驚いたのは神は全能ではないと言う事だろう。

いや、全知ではあるが全能ではないために、世界を全く理解していない知の乏しい人々を正しい方向に導くためにいつも光をさし示していると言う事だった。

古くは狼人族のウォルベールを導こうとしたが、ウォルベールは道を踏み外し悪魔に飲み込まれてしまった。


そして僕やシャルロットに力を授けたのも神が人々を正しい方向に導くためだと言うのもわかった。


僕たちには神の使徒の末端としての役割が与えられたのだ。


シャルロットと一緒に魔法を授けられ、シャルロットと一緒に神のご意志に沿って生きていける。神は全てを知っていて僕たちを導いてくれている。



そして15歳になり、僕とシャルロットは修道院に入る事になった。またシャルロットといられるよう導いてくれた神に感謝しかない。


しかし、修道院生活は孤児院と違いなかなか多忙だった。シャルロットと一緒にいられる時間もほとんどなくなった。


これが大人になる事だとわかっているのだけど少し寂しかった。




だが、その寂しい生活は20日ほどで終わったのだ。

ある日、シャルロットと一緒に助司祭様から呼び出しを受けた。


シャルロットと僕の2人で皇都の魔法学園に入園するのが神のご意志だと言うのだ。



神様ありがとうございます!!!!

僕は神に何度も感謝の言葉を祈り伝えた。



魔法学園とは神の祝福を受けた使徒が集まる所だと言う。

その中でも特に神が多くの祝福を与えたカイトとゲイル。そして皇帝の娘であるエリザベスの様子を報告する事が求められた。


僕たちは10日に1回皇都の小さな教会へその報告に行く事になったが、僕はシャルロットと一緒に過ごせる事に夢中になり、あまり彼らの報告には意識は向いていなかった。


ある時、僕はシャルロットにキスをした。

シャルロットは抵抗しなかった。それどころかシャルロットは僕を求めてきた。長いキスをした。


僕はシャルロットのことしか考えられなくなっていた。


しかし僕がキスをした後に、シャルロットが賜った神からのご指示は神に祝福されしカイトと結ばれる事であった・・・。


ショックだった。


僕からシャルロットが離れていく運命である事に・・。

同時にシャルロットと結ばれるカイトに嫉妬した。


神は全てを知っているのだ。

僕はシャルロットに夢中になり他のことを疎かにしていた。だから神のご意志に従わない僕からシャルロットを引き離したのだ。


そして僕はエリザベス皇女殿下を神の御心のもとにお連れする計画に参加する事になった。

神がまだ僕を必要として下さる事に感謝した。


でもシャルロットが恋しい。シャルロットと一緒に過ごしたい。そう思ってしまう。


しかし、それは神の御心ではない。


僕の今の状況は神のご意志なのだ。

耐えるんだ。


僕は神の御心に従います。

だから、お願いです。シャルロットには祝福がありますように。



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