第125話 マチルダの帰還

「苦労をかけたな!マチルダ」


「いえ、。ウルリッヒ連隊長をはじめ多くの騎士や兵を失ってしまい申し訳ありません」


この日、近衛騎士団副団長のマチルダは後発の連隊長トムソンをインストス治安部隊の司令官に任命した後、ウルリッヒ連隊、テレンツィオ連隊と共に皇都へ凱旋していた。


しかし、魚人との戦いには勝ったものの、完全に駆逐したわけでもなく、ダゴンと呼ばれる化け物も健在な状態では喜べるはずがない。


「ウルリッヒはいい男だった。出来る奴だったのにな。惜しい人材を亡くした。だがあいつも兵達も無駄死にしたわけではない。皇国を救ったのだからな。

そうだろ??

それにしても魚人は総勢500以上との報告だったが、我が騎士団が4連隊でやっとだとはかなりの脅威だな」


騎士団長のアルフォンスが騎士団の被害の話に鎮痛な面持ちで答える。


「奴らは一体一体が人間を超える力を持っています。しかも海に逃げ込まれれば手の出しようがありません。奴らを街から追い払いましたがまたいつ襲ってくるか」


「俺も魚人なんて今回の件で初めて知ったが、お前さんが手こずるんだからな。しばらくインストスには2個連隊を貼り付けておくしかあるまい」


「魚人を従える巨大な化け物もいますので、海沿いの城は危険です。メルシュ家の邸宅跡を防御に適した砦にしようかと考えております」


「砦の件は上申しよう。

それで、その化け物はダゴンと言うんだったか? 報告ではリーゼルがそのダゴンから脅しの伝言を受け取ったと言うじゃないか。どういう事だ?いったい」


「リーゼルは大聖堂の地下で直接ダゴンを見たそうです。その時に頭に直接声のようなもので話しかけられたそうで。ダゴンは神の意思に逆らう皇国を滅ぼすと言ったそうですが」


「皇国を滅ぼすねぇ。魚人との激戦で疲れて幻を見たんじゃないのか?」


「それが、ダゴンに会ったのはリーゼルだけではなく、ドレイン家の子息2人も一緒に居て同じ事を聞いたとの話です」


「また、ドレイン家の坊ちゃんか!」


アルフォンスはドレイン家の名を聞くと呆れた顔を見せた。


「彼らは非常に優秀です。今回の件も彼らがインストスの異変にいち早く気付き我々に報告してくれました。また、インストス城からの撤退の際も命を賭して我等を救ったと聞いています」


「お坊ちゃんを前線に出したのか?!」


「彼らの意思であり、私も彼らの力を借りたかったので・・」


「まあ功を奏したならいい。もし嫡男に何かあってみろ。あのドレイン方伯だ、俺の首だけじゃ納得しなかっただろうぜ。

インストスにお前さんが坊ちゃんらを連れて行った事にも抗議があってな。ドレイン家の屋敷まで謝りに行ってきたからな」


今やドレイン方伯の力は絶大だ。貴族の中では最大の力を持ち、大義名分があれば皇都に攻め入る事も可能かもしれない勢力を誇る。

そのドレイン方伯の嫡男が死亡でもすれば何が起こるかはわからない。


「大変申し訳ありません」


「いや良いんだ。そもそも俺が連れて行けと言ったんだ。いざとなったらその責任は取る。

だいたい坊ちゃん達の希望だろ?俺たちに止める事はできんし、結局、俺たちの兵が救われたなら上出来だ」


「いえ、私の配慮が足りなかったと感じています」


「それで、その邪教崇拝、今回の事態を引き起こした奴の事はわかったのか?パオロはどう今回の件に関わっている?」


「いえ、それが今回の魚人騒ぎで当のメルシュ家に関わる人間の多くは住民に殺され、かろうじて生き残ったものの中にはそのあたりを詳しく知るものはおりませんでした。

ただ、メルシュ家やそれに近い家の女性の腹から生まれたものの多くが行方不明や魚人化したと話すものが数多くいまして、その事を他人に話さないようにメルシュ家らが圧力をかけていた事もわかっております」


「メルシュ家は魚人の家だったと言う事なのか?」


「私はそうだと思っていますが、死人に口無しですね」


「インストス大聖堂の人間は知っているのではないのか?」


「インストス大聖堂の人間も多くが亡くなっています。司祭も魚人に殺され、助司祭のうち1人は死亡、もう1人は行方不明です。

また、悪魔崇拝に直接繋がる地下の礼拝所は、アウリオ大司教が失踪する10年前までは使われていたと言う話ですが、実際は我々が突入するその時まで使用されていたことは明らかです」


「アウリオ大司教?パオロの父親か。失踪したときは騒ぎになったので覚えているが、そのアウリオ大司教とインストス大聖堂とどう関係があるんだ?」


「インストス大聖堂はアウリオ大司教の力で建てられたそうで、その地下が悪魔崇拝の礼拝所だったと言う事になりす。」


「パオロと魚人の繋がりが見えてきたな。しかし証拠は何もなしか」


「パオロとは繋がりませんが、メルシュ家の書庫でルーベッド-メルシュの日記をカイト-ドレインが発見いたしまして、明後日、彼がここに届けに来る予定になっております」


「ルーベッドか。商会の創業者だな。いったい何が書いてあったんだ?」


「ルーベッドがダゴンに会い魚人を繁殖させる契約を結んだ事が書かれているとか」


「ダゴンと契約を!?

狼人族の王ウォルベールが悪魔と契約を結び黒い仔山羊の悪魔を呼び出した話が思い出されるな。

ダゴンは悪魔そのものなんじゃねぇか?」


「そうかも知れません。悪魔崇拝とパオロとの関係は引き続き調べます。

もちろんエリザベス皇女殿下の拉致事件も同時に進めなければなりませんね」


「すまんな大変な仕事を丸投げしちまって」


「いえ、事件の真相を調べる事は、皇帝陛下の勅命ですので、喜ばしい事です」


「さて、今からその皇帝陛下に今回の魚人との戦いのご説明に行かなければならんわけだが、その悪魔ダゴンが伝えてきた話はどうするよ」


「それは団長がお決めになることかと。しかし皇帝陛下に隠し事はしないのが団長の信念ではありませんでしたか?」


「悪魔とその軍勢が皇国を滅ぼすなんて話を皇帝陛下にするのは気が憚られてな」


「確かに。お伝え仕方は考えなければなりませんね」


「お前さんは魚人を撃退して凱旋したんだ。皇国を救ったんだからドンと構えていいんだぞ。

まあ、インストスでの報告は任せるがな」


「2個連隊の拠点整備と継続派遣、街の復興支援の話は団長が交渉してくださいね」


「もちろんだ。そんなもんをお前さんに任せられるかよ。

さあ、皇城に向かうぞ」


「そうですね。行きましょう」



*************


※作者でございます。

なんとギフトというものを貰いまして、心優しい方が世の中にはいらっしゃるんですね。


どなたかわからないのですが、ありがとうございます。このページ上でお礼させていただきます。


でもギフトってなんだろう?

カクヨムの事あまり理解してない作者で申し訳ありません。




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