第124話 悪魔の証明

二学期の初めての学園は7日遅れの登園になった。


夏合宿と夏休み、インストスでの魚人との戦いと目まぐるしい時間を過ごしたので、机に座って歴史の授業を聞くと平和な日常が帰って来たんだとつくづく思う。


今日の歴史の授業では皇都ロンドアダマスの前身であるイハリアがどうやって生まれたのか?を教えている。

でもその前にイハリアは大陸中南部のポタミアと言う都市国家からの移住者が作った都市なのでポタミアの説明が必要になる。


ポタミアは今も健在の都市国家で後発のタロス、グラビア、コロネイア、アタヴィソスと言う他の都市国家よりも歴史が古く、大陸中南部の都市国家群の盟主としての地位にある。


このポタミアはノーブル大陸にやって来た人間族が建国した初期の王国であるイスパタ王国から分裂して出来た国で、戦乱の中、紆余曲折の後に共和政都市国家として成立した。


後から周辺に出来た都市国家はさらに戦乱を通じてこのポタミアの王を持たない共和制度が広がったものである。


都市国家群は互いに争ってはいるが、属領は作ってもそこまで領土拡大には積極的ではなく、強者としての統一大国が現れる事がなかった。

しかし北方などからの侵略に対しては都市国家同士が団結する事でそれを防ぎ、これほど長い期間生きながらえて来たと言える。


行ってみたいんだよなぁポタミア。

青い海に、白い建物!照りつける太陽!ポタミアでバカンスしたいなあ。


授業を受けながらそんな事を考えていた。


学園にある教会の金が3回鳴る。授業終了の合図だ。


「カイト!飯いこうぜ!」


白銀の美しい髪と尻尾を靡かせるイケメン半狼人族のウインライトが早速昼食の誘いをかけてくる。ウインライトも今日が2学期初登園のはずだ。

「もちろん!一緒に食べよう」


「カイトとウインライト!!私も一緒よ。

ちゃんとインストスの話は聞かせてもらうわよ」


Bクラスのアイドルで赤茶髪の美女アビーもすかさずやってくる。


「そやで!!男だけで行くとかずるいで。雷撃の出番やったのに」


灰色の尻尾を振りながら、関西弁(チック)な話かたも可愛いければ顔も可愛いリオニー。


「ハハハッ そうだね。じゃあ食べながら」


「カイト…私も一緒がいい…」

焦茶色の艶のある髪、少し童顔で可愛いらしいシャルロットが僕の袖を掴んで来るのはいつもの通りだ。


「もちろん。みんなで行こう」


結局マーガレットや他の生徒も一緒なのはいつもの通りで、2つのテーブルに分かれて座ることになる。



**********


「えっ!?魚人が何百体も襲って来たの!?

私はいかなくて良かったかも」


私を置いていったと拗ねていたアビーだったけど魚人が集団で襲撃して来たと知ると、行かなくて正解だと納得したようだ。


「魚人との戦争だったからね。本当に」


「魚人はもういらないわ。大聖堂の地下で魚人と戦った時も死ぬかと思ったもの」


「うわー。魚人が何百体とか気持ち悪いわー。雷撃もそんなには打てへん」


とはいえリオニーが来たら活躍できたかも知れないけどね。


「カイトばっかり近衛騎士団と一緒に戦うんだぜ!ほんとドレイン方伯の息子は得だよなー」


ウインライトは魚人と戦えなかった事をあれから延々とボヤいている。

色男なのにもったいないぞ。爽やかにいこうよ爽やかに。


「ドレイン方伯の息子は関係ないよ。火魔法が暗闇で役に立つから後方支援で僕と兄さんが灯りを用意しただけだって。

一回も魚人とは戦ってないし(ゲイルは戦ったけどね)」


「ゲイルが大活躍したってマチルダ副団長もベタ褒めだったじゃないか。俺だって一緒に戦っていれば活躍出来たはずだぜ」


ウインライトは近衛騎士団を目指してるからな。良いところを見せたかったんだろうね。


「それで、魚人はまた襲ってくるの?」


「いや、ゲイル兄さんはインストスの街の事は諦めたんじゃないかって言ってたよ。当分は大掛かりなことはないはずだってさ。僕は兄さんの言葉を信じてるから」


「だったら良いんだけど」


「うちの実家は漁港の街にあるんやけど、なんか心配になるなあ」


リオニーの心配はわかる気がする。海神信仰と魚人繁殖が結びつきやすいようだし。魚人の繁殖は密かに進行する。


「心配してもしょうがない。僕は自分をもっと磨いてみんなを守れるようになりたいんだ。だから今度また魔法具店に行こうかと思っている」


「私もついていっていいかしら?」


「もちろんアビーの魔法具も水だけじゃ心もとないしね」


「私は水魔法のエキスパート目指してるから他の魔法具は必要ないわよ?」


「動魔法も使えるし複合魔法も考えてもいいと思うよ」



「そうや!雷撃の杖をゲイルに返さなあかんねん。寮に取りに帰ろかな」


そういやリオニーはゲイルから雷撃の魔法具を借りていたけど、まだ返してなかったのか。


「あの雷撃の魔法具はヨハンナのためにゲイル兄さんが買ったものだからね。返さないとまずいよ。

代わりに僕が雷撃の魔法具をプレゼントしようかな」


「えっ!雷撃の魔法具なんてめちゃくちゃ高いんやで!!カイトは何が目的なん!?

うちの体狙ってるんか!?」


「狙ってないよ!!」


「狙ってへんのかい!!そこは嘘でも狙ってる!言うとかな!」


「狙ってます。。。」


「カイトーー!そんな事を言わされてどうするのよ」アビー


「私も狙っていいの」シャルロット


「よしよし。それで良いんやで。狙ってるならありがたく雷撃の魔法具プレゼントされとくわ!

でもそんな大金あるんかいな?」


「フフフッ。もちろん僕の金じゃない。

お父様の財布で買うんだ。フフフッ」


「なんか悪い奴の顔になってるでぇ」


「実は今度、僕も手形取引できるように手配してくれるらしいんだ。魔法具は買い放題なはず」


「魔法具買い放題って、、。」

一同は唖然とした顔になっている。


「それに僕も雷撃の魔法を練習したいしね。って言っても学園では授業以外での魔法の使用は禁止だけど。

あれ?みんなどうしたの?」


ウインライト「どんだけ金持ちなんだよドレイン家は!良いよな方伯様の息子は」


アビー「今日のカイトはちょっとおかしいわよ。成金みたい」


リオニー「体だけやなくて、お嫁さんにしてもええんやで」


アビー「もうリオニー何言ってるのよ!」


ルーク「成金のカイトは見たくなかったな」


ルークは会話がきこえたのか、横のテーブルから割り込んで来た。


「ご、ごめん。みんな魔法で強くなれたらもし魚人が来ても戦えると思っただけなんだよ。成金のつもりはなかったんだ」


「まあな。その気持ちはわかる。魚人を相手にするなら魔法具がなけりゃ俺たちに勝ち目はない」


ウインライトは大聖堂地下の激闘を思い出したのだろう。納得してくれた。


「じゃあウインライトも魔法具店に一緒に行こう」


「なに!?俺にも買ってくれるのか!?」


「でも内緒だよ。お父様には僕が使うと言う事で購入許可を貰ってるんだし」


「やったぜ!!ドレイン家さまさまだな!!」


やっとウインライトが拗ねモードから立ち直ってくれたようだ。イケメンはやっぱりこうじゃなきゃ勿体ないよね。


「ルークも来る?」


「俺はいいや。皇帝陛下から金一封ていう大金貰ったからもう魔法具は揃えたんだ」


「そっか。今は男爵様だもんね」


「カイト…私も欲しいの」


「もちろんシャルロットも必要だね。一緒に行こう」


アビー「そういえば、カミーユの事は聞いた?」


「ああ、昨日の夜に聞いたよ」


カミーユの事は正直驚いている。なにか証拠でも見つかったのだろうか?



「カミーユの事って何だ?そういや今日はカミーユ来てないけど何かあったのか?」


「ウインライトは知らんかったんや。カミーユは近衛騎士団に捕まったんやで」


「ええっ!!?カミーユが捕まった?本当なのか!?」


「エリザベス殿下誘拐の容疑よ。エリザベス殿下が食べた鍋に睡眠薬を入れたとされているわ」


「あいつがそんな大それた事出来るか!?」


「僕は濡れ衣だと思ってるけど、次の休みの日に別用でマチルダ副団長に会う約束をしているから、その時に事情を聞いてみるよ」


「カイト!マチルダ副団長と会うのかよ!いつの間にそんなに仲良くなったんだ??」


「仲良くなんてないよ。ルーベッド-メルシュの日記を持っていくだけだし」


「ああ、あの日記の事か。それなら仕方がないな。

それでカミーユはどうなる?」


「もし、実行犯と認定されれば当然死罪ね」


アビーが恐ろしい事をさらりと言うが、皇女殿下の拉致だからね。有罪となれば必ず死刑にされるだろう。


「死罪やろな。カミーユ助けなあかんのちゃう?」


「どうやって助けるんだ?近衛騎士団がやる事に口出しなんて出来る訳ないぞ」


「そうだね。カミーユがエリザベス殿下と一緒に食事をした事はわかっている。

そしてその時のもう1人、ケンロック先生は殺された。

この状況で、無罪である証拠なんて在る訳ないし、カミーユの無罪を証明するなんて悪魔の証明だよ」


「悪魔の証明!?死者を蘇らせて、真犯人の名を聞くと言う事??」


アビーは劇で見た聖ビルクスの逸話を思い出したようだ。確かに悪魔の証明かもしれない。


「死者ってケンロック先生の事?? そんな事出来る訳ないよ。死者の蘇生魔法が実際にあるのかどうかもわからないし。ビルクスの行いは死者への冒涜だと感じる」


「じゃあどうして助けるんだよ」


「まずはマチルダさんと話してみる。それからだね」



**********

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