第123話 ヴァルターへの報告

結局パオロと魚人、邪神信仰とを結びつける手がかりは得られなかった。


インストス大聖堂の司祭は魚人に殺されて亡くなり、助司祭2名のうち1名は死亡が確認されもう1名は行方不明だ。

大聖堂で働いていた他の従者たちも多くは亡くなった。


またメルシュ家やバース家などの人間も多くは殺されたようで、大聖堂地下で何が行われていたのか?パオロはその事にどう関与していたのか?を聞く事が出来るのは今のところ大聖堂地下から連れ出した女だけだが、今は気が触れてしまっていると言う。


あれからもメルシュ家の屋敷を調べたがルーベッド-メルシュの日記以外の有力な情報は手に入らなかった。


「くそッ。パオロに繋がる奴らがことごとく居なくなるとはな」



「ゲイル様。夕食の準備が整いました。今日はヴァルター様がご一緒されるとのことで既にお待ちです」


今日は父から夕食を一緒にとの話が来ている。恐らくインストスの事について報告を求められるのであろう。

さて、どう話したものか。


「エマ。ありがとう。直ぐに行くと伝えてくれ」


「畏まりました」



******



私がダイニングに行くと既に一部の料理が配膳されていて、いつも座る席ではなく父の直ぐそばに席が設けられていた。


「お父様お待たせいたしました」


「ゲイル。来たか。私が皇都に来てから直ぐにお前がインストスに行ってしまったからな。今回ここで食事をするのは2回目だ」


父であるヴァルターは少し不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。


「申し訳ございませんでした」


「それで、何故近衛騎士団に付いてインストスに行ったのか話してくれ」


「インストスで暴動があった事はご承知だとは思いますが、その暴動の原因を聞いていますか?」


「インストスで暴動があり近衛騎士団2個連隊が鎮圧のために動いたのは、皇城の官僚の娘から聞いた。

先に言っておくが、既に近衛騎士団団長を呼びつけて抗議をした。

私に断りもなく嫡男と次男を危険な暴徒鎮圧の兵に加えるなどもってのほかだとな。

もしお前に何かあれば私が兵を挙げるだろう事はお前も覚えておくが良い」


私が近衛騎士団に連れ立たれもし死亡でもすれば、確かに大きな問題になるだろう。

そして父が挙兵する可能性は少なからずある。

パオロを追い落とす手がかりに夢中になり、そこまでは頭が回っていなかった。


「お父様。本当に申し訳ございません」


「ドレイン家の嫡男たるものドレイン家の繁栄を第一に考えて行動しろ。お前は既に成人したのだぞ」


「心得ております。であればこそです。お父様。私はドレイン家のために自分の意思で近衛騎士団との同行を決めました。危険は承知の上でです」


「!!・・・・」

苛立っていた方伯の顔が少し驚きを含み、そして疑問を持つ表情に変わった。


「ドレイン家のために同行しただと?どういう事か説明しろ。

いや、先に乾杯をしようではないかゲイル」


方伯はワインを片手に持ち突き上げる。

ゲイルもそれに応えて手元にあったワインを持ち持ち上げた。


「ドレイン家の繁栄に」

「ドレイン家の繁栄に」


方伯はワインを口に運ぶと半分ほど飲み干し、ゲイルは1/3ほど口にした。


「さて、では理由を聞かせてくれるな」


方伯は前菜に銀色に輝くフォークを伸ばし口に運ぶ。


「インストスで暴動が起こった理由は知っていますか?」


「メルシュ家の横暴に不満を持った住民が暴動を起こしたと聞いたが、違うのか?」


「ある意味正しいですが、その横暴の内容が重要です。彼らは悪魔崇拝者でしたので」


「悪魔崇拝??メルシュ家と言えば近年この皇都でも噂になる商会だぞ。その商会が悪魔を崇拝していたというのか?」


「そうです。暴動の直接の原因はインストスの人間が突然化け物になると言う事件が頻発した事に端を発します」


「化け物になる?人間がか?どのような化け物なのだ」


化け物と言う言葉を聞いた方伯は食べかけた羊肉を皿に戻す。


「魚と人間が組み合わさったような化け物です。住民はそれを魚人と呼び、悪魔崇拝者は「深きもの」と呼んでいます。」


「魚人??そんな人族は聞いた事がない。人間が突然その魚人という化け物になるのか?」


「そうです。魚人は人族ではありません。恐ろしい悪魔の眷属です。

メルシュ家はその悪魔の眷属である魚人と交わり彼ら自身が眷属になっていた事がわかっています」


「噂に聞く大商人のメルシュ家が悪魔の眷属だと? その化け物は人と交わり化け物を産ます事が出来るという事か」


「その通りです。恐ろしい事に魚人の子でも女の見た目は人間そのものです。男も最初は人間です。しかしある日突然魚人に変態する」


「それは本当の話なのか?

本当なら恐ろしい話だが、にわかには信じられん」


「近衛騎士団からは口外しないよう言われておりますが、事実です。

その事を最初に突き止めたのが私とカイトでした。ですので近衛騎士団に同行する事になったのです」


「それが事実として、ドレイン家の跡取りであるお前がインストスに行くことに何のメリットがあるのだ。暴動や化け物など騎士団に任せれば良いのだ」


「いえ、このインストスの悪魔崇拝はドレイン家の将来に大きな影響を与える重要な問題をはらんでいます」


「何故だ。どう我々と関係するというのだ。まさかヨースランドにも魚人達が蔓延しているのか?!」


「ヨースランドに悪魔の眷属がいるかはわかりません。しかし、可能性はゼロではないでしょう。ただ、私が危険を犯してでもインストス行った理由は別にあります。

インストス大聖堂はご存知ですか?」


「ああ、お前の祖父である父に連れられて子供の頃に行った事がある。とても立派な大聖堂であった」


「インストス大聖堂の建立費用の半分は我がドレイン家から出たと聞きましたが?」


「パウロの父であるアウリオ大司教の強い要望があり建立費用を寄付した事は知っている。父はアウリオ大司教に傾倒していたからな。いや、傾倒しすぎていた。危ないほどにな」


「悪魔崇拝がインストス大聖堂の地下で行われていました。そこで人間の女が生殖のための贄とされていたのです」


「まさか!? インストス大聖堂はそのために建てられたというのか?!」


「インストス大聖堂は地下で海と繋がっていました。アウリオ大司教が自分の司教区でもない場所に尽力して大聖堂を建立したのは何故か??

悪魔崇拝の場所に適していた事と、メルシュと言う悪魔の眷属の利害が一致したからに他なりません」


「父はその事を知っていたと言うのか??

いや、その可能性は十分にあるな。晩年の父の様子はおかしかった。このドレイン家の繁栄以外の事に囚われていた」


「私は祖父のことはよく覚えておりませんので、そこはわかりません。しかし我がドレイン家の金が悪魔崇拝に利用されていたのは事実です」


「!!」


「そして、悪魔の眷属である魚人は今回インストスを力で支配するために押し寄せて来たのです。

結局、インストスに赴いた近衛騎士団は暴徒の鎮圧ではなく押し寄せる魚人達と戦う事になりました」


「魚人の群れが押し寄せて来ただと!?」


「インストス城は魚人に落とされ、近衛騎士団は一時撤退。

後に増援を受けて4個連隊で持って撃退はできましたが、インストスの住民と近衛騎士団はかなりの損害を受けています」


「何だと!?インストス城が落ちたと言うのか!?」


「そうです。今は魚人を海に追い返し奪還しておりますが、その事は近衛騎士団も秘密にしたいようです」


「そんな重大な事がインストスで起こっていたとはな。

しかし、魚人とは・・。その魚人はまた襲って来ると思うか?」


「それは何とも言えませんが、まだ話に続きがあります。

インストス大聖堂奪還に加わった私は大聖堂の地下で悪魔と会ったのです」


「悪魔だと!?悪魔は本当にいるというのか?!」


「本当にいます。

その悪魔はとてつもなく大きく、恐らくドラゴンよりも大きい悪魔でした。

そして魚人を従える高い知性を持っています。

悪魔の名前はダゴン。ダゴンは最後に我々にこう言いました。

「将来、皇国を滅ぼす」と」



******************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る