第122話 政治の力学
「カイト!なんやまたインストスに行ったって聞いたで。近衛騎士団に連れて行かれたんやろ?」
陽が落ちたら学園寮は夕食の時間だ。
食堂の配膳の列に並ぼうとしたらリオニーが走り寄ってきた。
灰色の尾尻が左右に揺れる。その姿がなんとも可愛らしい。
「リオニー元気そうだね。そうなんだ。ゲイル兄様とウインライトの3人でインストスに行ってきたよ」
「よう!カイトにカトリーヌ。なんだか久しぶりだな。ちょっと窶れたか?そうだ、カイトは近衛騎士団に呼ばれたらしいな」
リオニーに続いてルークがやってきた。
ルークは随分元気になった気がする。恋に夢中になりすぎて思い詰めたような雰囲気が消えていた。
「ルーク!!ルークも元気そうでよかったよ。そうなんだ近衛騎士団のマチルダ副団長がどうしても一緒にインストスについてきて欲しいっていうからさ」
「近衛騎士団に請われるってすごいぞ。カイトは俺のライバルだな。俺も近衛騎士団に入って皇国、そしてエリザベスを守りたいんだ」
なんだかルークがウインライトみたいな事をいっている。2人は向上心があってイケメンなところもそっくりだ。
でもルークの動機は不純なのだ。いや逆か??清純な気もする。
エリザベス殿下のために近衛騎士団に入りたいなんて男としては見習わなければ。
「僕は腕を買われて近衛騎士団に同行したわけじゃないよ。近衛騎士団に入ろうともおもってないし」
「インストスで暴動があった事はエリザベスから聞いたぞ。その暴動を収めるために近衛騎士団に同行したんだろ?」
「カイトが呼ばれたのって、やっぱりあの気持ち悪い魚人が関係があるん??」
リオニーは一緒にインストスにいって魚人と戦った仲間だし、今回の件と魚人が関係がある事はお見通しのようだ。
「魚人??なんだよそれ? 俺とカイトの仲だろ。教えろよ」
「まずはテーブルについてからね」
僕は配膳コーナーで夕食を受け取って空いているテーブルを探す。
「カイト様、あちらの席が空いております」
既に一人の女子学生が座っているテーブルをカトリーヌが指差す。
うーん。空いていると言うよりシャルロットが座って席を確保しているような・・。
シャルロットは食事には手をつけずジーっと僕を見ていた。
「やあシャルロット元気かい??」
「カイトがいなかったから寂しかったの・・・」
「シャルっちはカイトを探しとったもんな。あんなことあったしドレイン家のカイトに相談したいわな」
「あんなこと??」
「ああ、そうだ。カイトは知ってるか?カミーユが近衛騎士団に連れて行かれたんだぞ」
「えっ??インストスにカミーユは来ていなかったけどな?」
「違う違う。そうじゃなくて近衛騎士団に捕えられたんだ。エリザベス誘拐犯の一味の容疑がかかっている。
俺はカミーユがそんな事するはずがないと思っているけど、キャンプに手引きしたやつがいるのは確かだしな」
「シャルロット。カミーユに何か聞いていた?」
「何も知らないの・・。でもカイトに話たかった」
「僕は次の休みに騎士団のマチルダ副団長を訪ねる約束をしているから、事情を聞いてみるよ。大丈夫濡れ衣だよ。カミーユはそんな奴じゃない」
「うん。わかったの。カイト。ごめん」
「シャルロットが謝る事じゃないよ」
「そうやでシャルっち。謝る事やないで。カイトはドレイン方伯様の息子やからなあ。なんとかしてくれるって」
「ドレイン家って言っても僕はただの息子だし、近衛騎士団に口出しする事はできないよ。皇帝陛下の勅命で動いているんだし。
それよりもルークからエリザベス殿下にお願いする方が良いとおもうけどな」
「エリザベスにはもう言ったぞ。でも、騎士団にお願いはできても皇帝陛下の命を受けている事に口出しはできないんだってさ」
「シャルロット。僕達に隠してる事ないかい?」
「隠していることなんてないの。話してないだけなの・・・」
「シャルロットはカミーユと同じ孤児院にいたって聞いたよ」
「うん。そうなの」
「最初はそんな事は言ってなかったよね」
「話してなかっただけなの」
「どこの孤児院にいたんだい?」
「聖ビルクス修道院の孤児院なの・・・」
「聖ビルクスって、あの聖ビルクスなん!?死体を蘇らせた聖人やろ〜〜〜!!
皇立大劇場で演劇見たやん」
「あっ。そういえばそんな演劇見たね。彼の名前を冠した修道院があるのか」
「なんだその聖ビルクスってのは??俺の知らない話ばっかりでてくるな」
「ごめんごめん。ルークは行かなかったけど先日見た演劇の演目が「聖ビルクスの奇跡」って言うお話だったんだよ」
「ふーん。それで、聖ビルクスの修道院の孤児院に二人とも行っていたらなんなんだ?」
「いや、孤児院出身とは聞いてなかったからね。カミーユを助けるにしろカミーユのことを知っていないと何もできないから。
聖ビルクス修道院はヨースランド司教区にあるの?」
「うんそう。リブストンから南に2日ほどのところなの」
「カイトはなんでヨースランド司教区ってわかったんや??ドレイン家のテリトリーやし知ってたんか?」
「知ってたわけじゃないよ。演劇を見た時にそうじゃないかと感じたんだ。真聖教会という意味ではパオロ大司教のテリトリーだけどね」
「またパオロ大司教の名前が出てくるんやな。インストスの大聖堂もパオロ大司教のお父ちゃんが建てたんやろ??」
リオニーは僕と一緒にインストス大聖堂で亡くなった司祭からその話を聞いていたんだったな。
ゲイルがパオロを疑っている事も知っているし。
「パオロ大司教って真聖教の偉いさんだよな?また俺の知らない話ばっかりだ!」
「ルークはエリザベス殿下に熱をあげていたから仕方がないね。
カミーユが捕まった理由は、エリザベス殿下誘拐事件の裏にパオロ大司教がいるのではと騎士団が疑っているからなんだ。
首謀者はまだ健在だから、ルークはエリザベスをちゃんと守ってあげて欲しい。」
「え!どういう事だよ!真聖教の偉いさんが何故エリザベスを狙うんだよ!!」
「声が大きい!!これは内密の話だから大きい声はださないように」
「わ、わかった。で、どうして真聖教がエリザベスを誘拐するんだ?」
「ルークはエリザベス殿下と将来を誓い合ったって言ってたけど・・エリザベス殿下の立ち位置わかってるかい?」
「えええ!!!ルークは殿下と将来を誓い合ったんか!!!すごい特種やん!!結婚すんの?殿下と!?」
「声が大きいぞ!!この話も内密にしてくれ!!」
ルークがリオニーに怒っているw
「そうだね。リオニー。声は控えめに」
「ごめん。衝撃的すぎんねん。殿下と結婚やで・・。」
「で?立ち位置ってなんの話だよ。エリザベスは皇位継承の関係ないお姫様だろ?」
「確かに皇太子ではないけど、今皇国は揺れているんだ。エリザベス殿下が魔法の才を見出されたからね。この国の原則的なルールでは魔法を発現させたものが跡取りになるんだ。絶対ではないけどグローリオン初代皇帝が定めた指針ではそうだ」
「じゃあ、エリザベスが次の皇帝になるっていうのか!?」
「えっほんまに!?エリザベスが皇帝陛下になんのん?!」
「その可能性も大いにあるんだよ。だから今次の皇帝の座を巡って継承権候補が貴族を巻き込んで争っているんだ」
「でも真聖教会が何故エリザベスを狙うんだ?」
「真聖教会内でも勢力争いがあるからだよ。だからルークにはエリザベス殿下を守って欲しいと思っている。もちろんそのために護衛がいるんだけどね。
近衛騎士団の事件調査別室がこの学園に置かれたのはなにも誘拐事件の調査のためだけではなく、より手厚く殿下を守るためなんだ」
「そうだったのか・・・。エリザベスが皇帝に・・・。俺は皇帝の夫に?!」
「そんなはずあらへんがな!もしエリザベス殿下が皇帝になるのなら悪いけどルークは絶対結婚はできへんで」
リオニーは歯に絹は着せないようだ。どストレートに事実をいう。
「なんでだよ!皇帝陛下がやる事を誰が止められるんだ?」
「妾ならあるかもしれんけど、平民を正夫にするような人物を貴族達が支えるはずないやん」
「俺は男爵だ!先日、叙爵されたからな!」
「そうだったね。ルークは今や男爵だよリオニー。
でもリオニーの言う事が正しいと思う。エリザベスが皇帝になるためには貴族の後押しが必要なんだ。その有力貴族を差し置いて土地も持たない平民上がりの男爵を正夫にするのは現実的じゃない」
「男爵では役不足ってか・・。」
「役不足というか、皇帝を支える力がないと言うことだよ」
「カイト!お前なら結婚できるって言っているように聞こえるぞ」
「そうだね。僕と殿下が相思相愛なら出来るかもしれない。それでも絶対できるわけではないよ。政治の世界は難しい力学が働くからね」
「政治か・・・俺ももっと力が欲しい。エリザベスを支えられる力が・・」
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