魔法学園1年生2学期前編
第121話 侍女とビアンカ
「お帰りなさいませカイト様」
近衛騎士団の馬車を降り、重い足どりで学園寮に辿り着いた僕をカトリーヌが出迎えてくれた。
近衛騎士団の馬車が来るのを部屋の窓から見たのだろうか?
「カトリーヌ。出迎えてくれるなんて、帰って来たってよくわかったね」
「カイト様の侍女ですので、当然のことです。
それにしても、そのお顔、頬がこけておりますよ。夜遊びはほどほどにされた方が良いかと存じます」
僕はそんな冗談なのか本気なのかわからない言葉に安堵した。
そして何故か涙が瞳に溜まり、それを隠すためなのか自分でも判らないがカトリーヌを抱き寄せた。
カトリーヌは驚いた顔をしているかも知れない。でもしっかり抱きついているので表情はわからない。もちろんカトリーヌから僕の涙もわからないだろう。
「疲れたよ。カトリーヌ」
「カイト様が無事で何よりです。インストスの暴動は大丈夫でしたか?」
「インストスは本当に大変だったよ」
「ゲイル様にいじめられましたか?」
「違うよ魚人が沢山現れたんだ」
「あの海辺に死体があったと言う魚人ですか?」
「そうだよ。どうにか近衛騎士団が海に追い返したけど、海に入ったらもう手が出せないから、いつまた上陸してくるかわからない。
あっ、でも魚人の事は口外しない様に言われてるから。内緒にしておいてね」
「わかりました。しかし人の口に戸は建てられないと言います。すぐに噂は広まると思いますが」
「そうだね。ジャニー◯みたいに、みんな知ってるのに都市伝説的になるんだろうな」
「ジャニー◯?? 都市伝説とは伝説とどう違うのでしょう?」
そんな会話をしていると、さっきまでの涙がどうにか治まってきた。
僕はカトリーヌの肩を持って距離をとると、彼女の顔をマジマジと見るが、赤らんでるとか嫌がってる様な表情ではなかった。いつもの冷静なカトリーヌだ。
少しくらい照れても良いんだけどなぁ。
「ごめんごめん。ある筋の隠語だよ。噂は事実ではなくあくまで噂で抑えておこうって事だね」
「ある筋・・。情報統制ですね。魚人はまた襲ってくるのですか?」
「ゲイル兄さんはしばらくは大掛かりな事はしてこないっていってたけど。
もしそうなってもカトリーヌとビアンカは僕が守るからね!」
「フフッ どうしたのですか?急に。カイト様は随分お疲れなのですね。
では改めて、
ご主人様おかえりなさいませ。お風呂にしますか?お食事にしますか?」
学園寮なので食事やお風呂の時間は決まっている筈だけど??
そういや既に二学期は始まっていて今は授業中の筈だ。
今日を含めて7日も授業をサボってしまっている。
「食事にしようかな??」
「では、夜までお待ちください」
今出てこないの!?
「じゃあお風呂で」
「フフッ カイト様に言ってみたかっただけです。この学園では言う機会がありませんので。」
「ええ?そう言う事?おかしいなと思ったんだよ。カトリーヌは面白いね」
「カイト様ほどではありません。先日見つけた焼き菓子を持ってきています。そこのベンチで召し上がりますか?」
「ありがとう!!ちょうど小腹が減っていたんだ。疲れた時は甘いものに限るし」
学園寮の前はちょっとした庭園になっていて、美しい赤い花が咲く花壇近くにあるベンチに2人で腰をかけると、カトリーヌは持っていたポーチから焼き菓子の入った包み紙を取り出してくれた。
「カイト様、ゲイル様とは仲良く出来ましたでしょうか?」
「ゲイル兄様はすごい人だったよ。近衛騎士団の人たちの命をたくさん救った英雄さ」
「ゲイル様がですか??街の女性を手籠にしたとかではなく?」
おいおい。
そんな事するわけ、、いや過去のゲイルなら??ありえる?
「ゲイルお兄様はそんな事しないよ。インストスの人達を救うために尽力したんだぞ」
「そ、そうですか。人は変わるのですね」
カトリーヌとゲイルに何があったのかわからないけど、もう昔のゲイルとは違うんだよね。
「だからカトリーヌもゲイル兄様の事は少し見直してあげて欲しいな」
「エマ、、いえ、ゲイル様の侍女と海水浴の時に少し話をしました。ゲイル様に酷い事をされているのではと思いましたが、ゲイル様は変わられたと言っていました」
「そうだよ。ゲイル兄様は変わったんだ」
「カイト様はゲイル様とはここで初めて会ったはずですが??」
「あっ。そ、そうだよ。実は僕もある情報筋からゲイル兄様が変わったって聞いたんだ」
「ある情報筋!? あの?」
「うんうん。あの。あの??」
「そうでしたか。ところで焼き菓子のお味はいかがですか??」
「美味しいよ!!オレンジピールが入ってて香りがいい! 紅茶が飲みたくなるね」
「喉が乾きましたでしょうか?ではお水を食堂でいただいてきますね」
「頼むよ。ありがとうカトリーヌ!」
「いいえ、カイト様のお側に置いて頂いているのですから当然です」
カトリーヌは珍しく可愛らしい笑顔を見せた。
*****
「カイト〜〜!!」
児童寮を訪ねるとビアンカが僕の名前を呼びながら走ってやってくる。
そのままガシッと僕の腰のあたりを掴んで見上げる笑顔がニヤリとしていて小悪魔のようだ。もちろん良い意味だよ。
「旅行に行ってたってカトリーヌから聞いたよ。お土産は??」
「えっ、と、もちろんあるよ。カトリーヌ焼き菓子を出して」
「あれで最後ですが?」
いや、いや、無くてもそれを言っちゃーダメでしょう。
「えっ!カイトお土産食べちゃったの!?」
「ふふふっ。そんなわけないだろ。ビアンカにはとっておきのお土産があるんだけど、ビアンカが良い子にしてたらあげるよ」
「ビアンカはそんな子供騙しに騙されないの。カイトの食いしん坊!」
げっ、いつものビアンカと違う!!
僕はカトリーヌに目配せするが、カトリーヌは惚けた顔をするだけだ。
「お土産は、ぼ、僕だよ!」
「えっ。カイトは私のあいじんなんだよ。プレゼントじゃないよ?もうあいじん3号に格下げだね」
ガーン!!
愛人2号は誰なんだ!!
「だから、僕が今度美味しい料理屋さんに連れてって上げるって事だよ!
そうだ!それとユニコーンも見せてあげるぞ!」
「えっ!美味しい料理たべる!!それとユニコーン見る!!
ユニコーンってあのケイヌロン王子が乗ってた一角獣だよね!
見れるの!?やったーー!!すごい!カイト大好き!!あいじん第一号に格上げだね!」
じゃあ僕はやはり第二号だったのかな?アクセルさんと張り合うつもりはないから良いんだけど。
「カイト様、師匠と愛人を取り合うのはどうかと思います」
取り合ってないから〜!!
「じゃあ次の休みの日に近衛騎士団城にデートに行こう」
僕はビアンカの頭をなでなでした。
「やったー!!ユニコーン!!美味しい料理!!」
「よかったですね。ビアンカ様」
ここに帰ってくるまでインストスでの出来事、特に怪獣ダゴンと魚人の群れが頭から離れなかった。
でも、カトリーヌとビアンカに会って心が穏やかになっていくのがわかる。
そして同時に2人を守るんだ!という勇気が湧いてくる気がする。
ダゴンは大いなる神とイエルルが地上に現れた時にこの国を滅ぼすと言った。
あの魚人達のボス・・怪獣みたいな奴が念話でそう言ったんだ。
ゲイル兄さんはその事について、「あいつらの気は長い。だから気にする必要は無い」と言っていたが、ダゴンの恐ろしい念話が僕の頭から離れない。
だから僕はみんなを守る術を身につけたいんだ。
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