第120話 ダゴン

インストスの市街地に侵入した魚人達と近衛騎士団、武装した住民達との戦闘が続いていた。


市街地に紛れ込んだ魚人は騎士団が来ると建物の影に隠れてしまう。

そうなると馬を駆る騎士では対応出来ないため、歩兵か住民が組織する自警団が対応するしかないが、歩兵は陣地の守備にも必要で広い市街地をカバーするのは難しい。


現状ではやはり、自警団に期待するしかなかった。



しかし次の日、その状況は変わる。

皇都から増援の近衛騎士団二個連隊が到着したのだ。


夜襲によって多くの兵を失ったとは言え、合わせて4個連隊総勢3500名ほどの精鋭達が集まった事になる。


騎士隊とは違い身軽な歩兵達と自警団が隠れた魚人達を炙り出し、騎士隊が建物から通りに出てきたところを狩る。それをローラー作戦のように行なっていく。

4連隊に増えたことで出来ることが一気に増えた。


魚人達は海から集まっているので、実際どの程度の兵が必要かは未知数ではあったが、結局1日で市街地に入り込んだほとんどの魚人達を駆逐する事ができた。


魚人達は夜に夜襲を仕掛けてくるので、夜は防戦になるが、魚人の方が被害は大きかっただろう。


インストスの夜明けは近い。



*****



援軍到着後の2日目にはまず代官城の攻略が行なわれたが、ほとんど抵抗に合う事はなくあっけなく城を取り戻す事に成功した。


魚人達は飛び道具を持たない。

門をたやすく開けたあとに騎士達が突入すると魚人達は海へ逃げ去ってしまったのだ。


そして残された大聖堂の攻略が始まる。


大聖堂への突入のルートは二つ。

地上の建物攻略を主力とし、バース製錬所跡から地下に侵入するルートがサブ突入部隊となる。

火魔法が使える騎士を中心とした騎士隊と歩兵達の混成で水魔法対策も考えられている。


「全軍突撃!!!」

マチルダの号令に合わせて大聖堂の三箇所の扉から一気に兵達がなだれ込む。


それに呼応するように、バース製錬所跡の地下通路にも部隊が突入していく。


その地下通路突入部隊の中にカイトとゲイルもいた。火魔法で加勢したいとゲイルが志願したからなのだが、騎士団員でもない魔法学園の生徒が危険な突入に加われたのは、ゲイルの強い意志に加え、マチルダがそれだけ彼等を高く買っていたからだろう。

(ウインライトも参加したいと志願したが、却下され、ちょっとしょげていた)



地下突入部隊はなんの抵抗もないまま地下礼拝所まで到達すると、そこにいた5体の魚人達との戦闘になった。

しかし精鋭達が何十名も突入したのだ。魚人に抵抗する術はなくものの数分で蹴りがついた。


ちなみに1体は出会い頭にゲイルが火魔法で焼き殺した。


「お兄様さすがですね」


「流石はドレイン家の天才と呼ばれるゲイル君ですね。さて、ここには魚人が5体しかいないと言う事は、ほとんどは大聖堂にいるのでしょうか?それとももう海の中なのか?」


地下突入部隊を指揮するリーゼルが兵士たちの間から顔を覗かせる。


「油断はするな。この地下は海に繋がっている。今の騒ぎで海から奴らが上がってくるかもしれん」


「確かにゲイル君の言う通りですね。皆油断をするな!この地下は海に繋がっている。いつ魚人が襲ってくるのかわからないぞ!!」


「お兄様、悪魔の像はやはりありませんね」


「ここに残されているのではと期待したのだがな。ハズレだ」


この地下礼拝所に配置されていたクトゥルフの像は一度運び出すのに失敗しているが、ゲイルはその後ここに戻されているのではと期待していたのだ。

それが突入部隊に志願した大きな理由の一つでもある。



ザブン!!

ザザーーーーーーー!!!


礼拝所を調べようとした時、通路の方から大きな水の音が聞こえて来る。


ゴーーー

そして、そのあと地鳴りのような何かの音が聞こえるが、その音は徐々に大きくなっている。


魚人などの足音ではなくもっと低い音だ。

閉塞した地下空間であるはずの通路から礼拝所に向かって風が吹く。

何かが迫っているのは間違いない。


リーゼル副連隊長と兵達の表情が固くなり、迫り来る何かに身構えた。




ゴーーー!!


その音がひときわ大きくなったかと思うと、礼拝所に大量の水が流れ込んできた。 


腰の高さくらいはあるだろうかそんな水が僕たちを飲み込む。


「うわーーー」

流される!!


一瞬で僕等と兵士達は水に飲み込まれるが、すぐに水は引いていく。


水に飲み込まれている僕は海に繋がる通路の方へ吸い込まれそうになるが、

通路の入り口近くの壁を背になんとか立っていた兵士の1人が槍を入り口につっかえる形で流されるのを防いでくれた。


兵士さんありがとう。助かった!!

僕は水が引いた後にゆっくりと立ち上がる。


重い鎧をつけた騎士団メンバーは流される事はなかったようだ。


「お兄様大丈夫ですか?」

「ああ。どうにかな」


「今のは一体なんでしょう?凄い量の水の魔法かな?」


「水魔法ではない。これだけの水を出す水魔法など考えられない。恐らくだが、ダゴンだ。ダゴンが来たのだろう」


「ダゴン神がここに!?まさか!!」


「ダゴンだって?!!!どう言う事!!」


リーゼルもゲイルの言葉を聞いて驚いて声をあげる。


「私の直感だ。そう感じる。通路の先、海に繋がっている地下空洞。そこにダゴンがいる。

ダゴンが現れた衝撃で波が押し寄せたのだろう」


「お兄様がそう言うなら僕は信じますが、リーゼル副連隊長!部隊を撤退をされた方が良いのでは!?」


「確かに。ダゴンの影をみたが、あいつはとてつもなく大きい。我々では勝てないでしょうね」


「カイト、まて。リーゼル副連隊長も落ち着いてくれ。

確かに奴を倒す事は人間などに出来るはずもない。しかし、奴は人間を倒しにこの地下空洞に現れたわけではない筈だ。

私はダゴンに会ってみようと思う」


「ゲイルお兄様!!それは危険ですよ。ルーベッドの日記でも気に食わない奴はダゴンに一瞬で食われています!」


「そうです。それは危険すぎます。ゲイル君。それは許可できません」


「近衛騎士団の許可など必要ない。私はゲイル-ドレインだ。好きにさせてもらう。

ついてくるのは構いはしない」


「では僕もお供します」


「わかりました。ですが、私も共に行きましょう」

リーゼルも真剣な眼差しでそう答える。


「突入部隊はこの周辺の捜索をしておけ。すぐ戻る!」



*****



地下礼拝所から続く通路の先、海の水が満たされる暗闇の空洞の中にそいつダゴンはいた。

巨大な頭を少しだけ水面から覗かせている。

松明の火でそいつダゴンの輪郭と目だけがわかった。


そいつダゴンはまさに怪獣のような頭をしていた。

そして大きく巨大な目がこちらを見つめている。


その目に見つめられると、自身がちっぽけな存在だと思い知らされるようで、心の奥から恐怖が湧き上がってくる。


こ、この怪獣がダゴンなのか、神?いや悪魔?


僕の足がガクガク震えてもうこれ以上前には進めなくなるが、ゲイル兄様は僕より平常心なのだろう。足取りが鈍ることもなくさらに前に歩み出た。


『人間どもめ。よく聞け』


突然僕の脳に言葉のようなものが投げかけられる。


『お前達は主たる大いなる神のご意志に逆らう逆賊だ。

お前達の王に伝えよ!

主のご意志に逆らったものがどうなるかを。主とイエルルがこの大地に戻る時がお前達の最後だ。

この国を、王を、逆らう人間を全て喰らい尽くしてやろう。心しておけ』


怪物ダゴンが言葉を喋ったのではない。

この怪物ダゴンはテレパシーで僕たちの頭に直接話しかけてきたのだ。


怪物ダゴンは伝え終わるといっときの間を置いて、


ドン!!!!!


と言う音と共に一瞬で姿が消えた。そのあと、


ドッバーーーーーン!!!!!!!


ものすごい音と共に水柱が上がり、次に大きな波が押し寄せ僕たちを包んだ。


ゴボゴボ...


ゴボゴボ...


僕は真っ暗な水中を漂った。



***************



※※※※※※

ここまでお読みいただきありがとうございます!!!感謝感謝です。

「インストスの闇」編はこれで終了です。


この話は当初、物語後半に持ってこようと思っていたのですが、伏線ばかり増やしても仕方がないと夏休み編に続いてすぐに消化することにしました。

10話ほどで終わる予定だったのですが、20話を超えてしまいました(;^_^A


書き溜めでもないと言うことで、おかしな文章になっているところも多々あるかと思いますが、誤字脱字わかりにくいところなどあればコメントいただければ幸いです。


パオロたちの秘密結社が少し理解いただけたならここに持ってきた甲斐がありますね。

これからもご贔屓によろしくお願いいたします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る