第119話 自警団
「ロッキー!避難民をバースの屋敷に誘導しろ!俺達は魚人を抑える!」
朝から街には魚人が多数現れて人々が逃げ惑っている。
俺は結局バース家で仲間になった連中と自警団を作り魚人達から街を守る事になった。
自警団の頭は俺にバース家の屋敷に火をつける様に命令した奴だが、金目当てではなく単純に魚人から街を守りたいと言う思いで動いていた。今も魚人と戦っている。
俺はバース家の人間を焼き殺す協力をした事を悔いていたが、魚人が目の前に現れ人を殺す所を見た後は何故かそれが正しかったんだと思えた。
魚人は強い。俺たちが5人でかかっても一体倒せるか微妙なところだ。
しかも近衛騎士団が魚人に敗れて代官城から撤退したという噂だ。
それを証明するかの様に、朝から魚人騒ぎが起こって海岸線に近い住人が俺たちの居る北側に逃げ出している。
近衛騎士団は魚人に敗れたあとメルシュ家の屋敷に陣を張ってるとも聞くが、敗残兵で俺たちを守れるのか怪しいものだ。
「あの精強で知られる近衛騎士団が敗れるとか信じられねぇな」
「海から巨大な怪物が出て来たって聞いたぜ。いよいよインストスはやばいかもしれん」
「その時は一緒に村に帰ろうぜ」
「村に帰っても仕事がないだろう。兄貴に頭を下げるのも癪に触る」
ガーディルは農地を継いだ嫡男の兄貴と仲が良くなく、同じく居場所が無い三男だった俺と一緒にインストスに働きに出て来たと言う過去がある。
今更兄貴を頼って村に戻るのは嫌なのだろう。
「せっかく拾った命だ。魚人にやる必要はないだろう?」
「俺には妻も子供もいる。この街を守るしか道はないんだ。魚人から街を守るぞ」
ガーディルは腕っぷしが強い。
その腕っぷしを活かすために傭兵を選んだ。今も鉄の胸当てと革鎧、そしてブロードソードを腰にぶら下げていて俺よりもずっと戦力にはなるが、魚人と正面からでは勝てない。
俺たちの自警団はバース家屋敷があった土地に南側からの避難民を誘導している。
バース家の敷地は広く屋敷は焼けてしまったが、食糧庫はそのまま残っているし、ある程度の人を留め置くことが出来るからだ。
辺りを警戒していると、通りの中央を子供と母親が走ってこちらに向かって逃げる姿が目に入ってきた。
「こっちだー!避難所を作った!案内してやる」
俺は大きな声で親子に声をかける。
しかしその後ろには一体の魚人が迫っている。
「ガーディルあの親子を助けよう」
「もちろんだ!」
俺とガーディルは親子に向かって走り出すが、魚人の方が足が早かった。
魚人は逃げる子供に追いつくと、水かきのついた長い腕で子供を投げ飛ばした。
「きゃーー!!」
子供が地面に叩きつけられるのを見た母親が声を荒げる。
「この野郎〜〜〜!!」
そこに駆けつけたガーディルは剣を魚人に叩きつけるように振るった。
「ギーー!!」
剣は魚人の腕を深く切り裂くが、そこで止まっていた。
ガーディルはすぐに剣を戻すとあらためて魚人に切りかかる。
ガッツ!!
また魚人の長い腕に剣が食い込むが、切り落とすどころか、何か硬いものに当たっているようだ。
「ギーー!!」
今度は魚人が腕を振るってガーディルに襲いかかる。
ガーディルは後ろに下がり魚人の攻撃をかわすと剣を正面に構えた。
その剣-ブロードソードの刃が少し欠けている。
「こいつらの骨は異常に硬いぞ。長い腕が邪魔で攻撃が防がれる」
「じゃあどうすんだ。俺の棍棒じゃろくに戦えねぇだろ」
「挟み撃ちにしよう。俺が回り込むから後ろから頭を狙え!!」
そう言ってガーディルは魚人には相対しながら、魚人の右側に回り込んでいく。
しかし、魚人の狙いはガーディルから俺に変わったようだ。
魚人はガーディルから離れて俺の方に足を踏み出し殴りつけてくる。
「うわー!」
魚人の突っ込みにあわてて棍棒を振り下ろすが、その棒は魚人の左腕によって防がれ代わりに魚人の右腕が俺の肩に叩きつけられる。
その衝撃は俺の体を吹っ飛ばすのに十分だった。
数メートル離れた場所に倒れた俺に飛びかかろうとする魚人。
しかしその後ろからガーディルがブーロードソードを袈裟に切り付けた。
「ウギギギーー」
魚人の肩から赤黒い血が吹き出す。
魚人はガーディルの方へ振り返ったが、その醜い顔にさらにブロードソードが炸裂した。
魚人は倒れ伏せた。
「ロッキー大丈夫か?!」
「いててて。大丈夫なように見えるか?肩が外れちまってる。ガーディル直してくれ」
「わかった。痛いぞ。我慢しろよ」
「ああ。子供は大丈夫だったみたいなのにな、情けねえ」
魚人に投げ飛ばされた子供は母親に支えられて、すでに北に向かって歩いていた。
助かってよかったぜ。
「子供は軽いから転倒とかには強いのさ。俺の倅のマー坊も良く転んで泣くが、怪我一つないぜ」
「ガキは大きくなったか?今いくつだ」
「10歳になった」
「大きくなったな。魚人を追っ払ったら会わせてくれや。」
「そうだな一緒に釣りにでもいくか。それじゃあ肩を治そうか。やるぞ!」
「ギー!」「ギーー!!」
ガーディルが俺の肩に手をかけた時、通りの南側からまた3体の魚人が見えた。
「あいつらやられたのか? また出て来やがったぜ」
ゆっくりと3体の魚人が近寄ってくる。
「やべえな。早く肩を直してくれ」
「いくぞ!」
「うがっ!!!あああ!!!」
ゴキッと肩がなり肩の位置が元通りになるが同時に激痛が走った。
「よし!俺たちも北に逃げるぞ!!走れ!」
「いてぇ!!!肩が痛いのに走れねぇぜ」
「走らなければ死ぬだけだ」
「走るしかないな」
俺たちが走って逃げ出すと、魚人達も追いかけ始める。
魚人の走り方は人のそれとは違い、跳ねるように走る。それがかなりのスピードだった。
追いつかれる!!俺は焦るが、その時魚人が走る音とは違う別の足音、、馬の蹄の音が前から聞こえて来た。
しかもその音はとんでもなく多い。
魚人が走る音がピタリと止まる。
前を見上げるとそこには近衛騎士団の騎士達が大挙して迫っていた。
「近衛騎士団は魚人に敗れて残ってるのは敗残兵だけじゃなかったのか?」
「そんな話だったな。しかしまだこれだけの兵が残っていたんだな。助かったぜ」
「君たちは自警団か!?」
騎士の1人が騎上からガーディルの姿をみてそう訊ねてきた。
「そうだ!仲間が南側で魚人と戦っている!助けてくれ!」
「わかった。君たちも我々に協力して戦ってくれ。馬では建物の中には入れないからな」
「助かる!!魚人をやっつけてくれ!!」
「騎士隊突撃!!」
「おおーーーーーー!!!!」
近衛騎士団100騎がインストスの街を駆ける。
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