第117話 嵐の夜
「代官城に向かう事は許可できません」
「私が動くのに近衛騎士団の許可は必要ない」
ゲイルは代官城へ行くための馬を用意して欲しいと、行動を共にしている歩兵部隊長に話をしたが、反応は芳しくない。
「我々はドレイン卿の子息をお守りするようにと仰せつかっておりますので」
「私は今回の件に協力してくれと呼ばれただけだ。君たちの命令は受けない」
「そうですが、、。では副連隊長に相談してみます」
「そうしてくれ。事は急を要する」
*****
すぐに副連隊長のアート-ウォールから呼び出しがあり、急遽司令所になった屋敷の応接間で面会することとなった。
「代官城が危ないとはどういう事でしょう?」
「代官城にこだわるのはまずいという事だ。魚人の特性は知っているか?」
「ある程度はわかっています。今日だけで何度も戦っていますので。それがどうしたというのです?」
「夜に戦ったわけではないだろう。奴らは夜目が効く。そして、おそらくほとんどの魚人が水魔法を使える」
「水魔法を使う魚人がいる事は昨日の夜お聞きしましたが…。
!?確かにまずいですね!」
「松明など水魔法の前では役に立たないからな。特に建物内は暗闇になる」
「わかりました。すぐに伝令を走らせましょう」
「我々も行こう。火魔法の使い手は多い方が良いだろう?」
「いえ、客人を前線に送るわけには参りませんので」
「海からくる巨大な怪物の情報もある。私が行った方が良い」
「ダゴンと呼ばれる巨大怪物のことですか?
いや、ダメです。団長よりあなた方を守るよう指示を受けておりますので」
「では、我々は勝手に動かせてもらおう。近衛騎士団の指図は受けない」
「既に夜です。魚人は夜目が効くのでしょう?襲撃があるかもしれませんので陣地から出るのはやめてください」
「指図は受けんと言ったはずだ。好きにさせてもらおう。行くぞカイト、ウインライト」
「いや、待ってください。
・・・・・わかりました一小隊つけましょう。
馬は一頭だけお貸しします。代官城まではゲイル殿のみでお願いします」
「馬一頭か。一頭あれば2人乗れるな。カイト私の腰に掴まれ」
「えっ!いいんですか!?」
やったよ!ゲイル兄様の腰に捕まって馬に2人乗りだよ!!なぜかドキドキするんだけど!
「えっー!?なんでカイトだけなんだよ。俺はどうなるんだ!?」
ウインライトはものすごく不満そうである。
「お前は火魔法が使えん。カイトの方が役に立つ。ウインライトは頭を使ってメルシュの蔵書を調べて欲しい」
ゲイル兄様に役に立つとか言われちゃったよ!!悪いねウインライト!
「また本を読むのかよ!!!!俺は本を読みにここに来たわけじゃないぞ!!
でもまあ、わかった。騎士について徒歩で行くわけにもいかないしな。
俺は火魔法が使えないからな。 いいぜ。無茶はするなよ!」
*****
騎士達に囲まれてゲイルお兄様の駆る馬が代官城へ向かう。
夜でもインストスの街には至る所で武器を持った住民が集まり火が炊かれている。
魚人から街を守る自警団と称する人たちらしい。この街は今緊急事態なのだ。
僕はそんな夜のインストスの街をお兄様の腰に捕まって眺める。
なんだか自分がお姫様になったような気分だ。
えっ!?僕にBL要素あるの?
いや。ないない!ないけど、なんだろうね。この感覚。
それにしても風が強い。
昼と打って変わってインストスの街を吹き抜ける風音が耳に突き刺さるようだ。
もしかすると雨になるのかもしれない。
*****
「風が強いな もしかして雨が来るのか?」
「そうかもしれませんね。雨が降れば魚人には有利かもしれません。気を引き締めないと」
マチルダの代わりに指揮を取るテレンツィオは海からの風に何か不気味なものを感じていた。
「今夜来ると思うか?」
「間違いなく来るでしょう。城の一部が崩れておりますのでそこからかと」
「城の中はお前のウルリッヒ隊と子爵兵に任せているが大丈夫か?」
「万全です。奴らの猛攻があっても耐えられるだけの人数は揃えています」
リーゼルは自信を持って答えた。
テレンツィオは城の防衛に一抹の不安を感じるが、十分な防衛体制を敷いているのも確かだ。
そこにウルリッヒ隊の騎士と思われるものが入ってきた。
「ウルリッヒ連隊第四騎士中隊所属マードックです!マチルダ副団長はいらっしゃいますか?」
「マチルダ副団長は今ご就寝だ。
その間私が指揮を預かっている。ウルリッヒの騎士隊だと?ここにリーゼル副連隊長がいるが、君たちはメルシュ邸陣地の守備を任されたはずだろう?」
「リーゼル副連隊長。ご無事で何よりです」
「マードックか。無事でよかった」リーゼルの顔が少しだけ緩む。
「・・・? 何故ドレイン卿のご子息を連れてきた?」
テレンツィオはマードックの後ろにゲイルとカイトが控えているのに気づいてそう尋ねた。
「それが、急ぎ伝えなければならない事があるとの事でして。ゲイル殿お話ください。」
騎士の後ろに控えて居たゲイルは前に出て軽いお辞儀をした後、
「突然の訪問すまない。魚人が深きものと呼ばれているのは知っているか?」
そう切り出した。
「いや、知らないな。それがどうした?」
「深きものというのは奴らが深い海の底で活動しているという意味でつけられた名だ。
深い海の底は光が届かない。闇の中で暮らす奴らだという事だ」
「夜目が効くという事か」
「そうだ。そして奴らは水魔法の使い手だ」
「その報告は昨晩聞いたが?」
「松明は水に弱い。奴らはその事を知っている」
「!? 松明は多少の雨では消えたりしないが、、。水魔法で狙われればひとたまりもないかもしれん。まずいな」
「城の中で水魔法を使われればこちらはなすすべがない。暗闇では戦えないからな」
「どうすれば良い!?」
「それは私が決めることではないだろう。しかし進言はする。城の外で戦うしか手はない」
バリバリバリ!ドーーーーン!!!
突然、城の外から雷の音が聞こえる。
「なんの音だ!」
「近くに雷が落ちたようです!」
「被害は!?」
「わかりませんが、雨です。大粒の雨が降ってきました!!」
「雨がきたか。松明が消えぬよう気をつけろ!
私では撤退の判断はできん。マチルダ副団長を起こしてくれ!緊急の要件だとな!!」
「嵐になるかもしれないな。ダゴンは気象を操ることも出来るのか?? まさかな」
ゲイル兄様がそんな突拍子もない事を呟く。しかし・・ルーベッドの日記の事を考えると突拍子でもないのかもしれない。
「お兄様、ルーベッドの日記ではダゴン神の島に辿り着く際に嵐にあったと書かれていました。しかし、そんな事が意図的に出来るものなのでしょうか?」
「そこまではわからない。神と呼ばれる怪物だからな。もちろん偶然かもしれん」
「魚人の襲撃だーー!!多いぞ!!南東から侵入!!」
「やはりきたか」
*****
私は魚人の襲撃だと聞きすぐに武具と魔法具を身につけ部屋を出た。白銀の鎧は司令所にしている大広間にある。
「松明を消されたぞーー」
「何も見えん!!」
「灯りをつけろ!!」
「うわ〜!」
「ぎゃあ〜〜!」
「やばい皆逃げろ!!」
3階の部屋を飛び出すと既に奥の通路で戦闘が行われている声が聞こえたが、その声はパニックそのものだった。
「助けてくれーーーー!!」
1人の守備兵がこちらに走ってやってくる。
「どうした!!持ち場に戻れ!!」
「灯りを!灯りを消されてみんなやられました!!」
「ど、どういうことだ」
「ギー!!!!」「ギーー!!!」
「副団長も一緒にお逃げください!!」
「その方が良さそうだな」
マチルダが階段を降りたその直後、魚人達の水魔法のシャワーがその場に降り注ぎ辺りを照らしていた松明の火が消え暗闇になった。
*****
「すぐ撤退だ!!!」
「マチルダ副団長!!!ご無事でしたか!」
勢いよく司令所に入ってきたマチルダをテレンツィオとリーゼルが立ち上がり出迎えた。
「テレンツィオ、リーゼル!現状はどうなっている」
「城内はパニックになっています。東の城の壁が崩された場所からも大量の魚人が侵入してきています」
「すぐに撤退するぞ!!私の鎧の着用を手伝ってくれ。
それで、何故ゲイル君とカイト君がここにいる?」
「この城を放棄するのを進言するためだ。間に合わなかったがな」
「魚人は水魔法で松明を消して視界を奪っているようだ。迂闊だった」
「加えて今、外は嵐ときた。すぐ城は捨てた方が良い」
「何!? 松明は大丈夫か?」
「わかりません。撤退を急ぎましょう」
*****
城の庭のパニックはさらに激しいものだった。
強い風と大粒の雨の中、多くの松明はまだどうにか灯っているものの、魚人が押し寄せている城の南側で灯る松明は無く、暗闇での戦闘が行われていたからだ。
「うわー!!!」
「誰か火を持って来い!!」
「ギーー!!!」
「来るな来るなーー!!」
否、戦闘と呼べるものではなく完全に城を守る兵士達は崩壊していた。
怒涛のように押し寄せる魚人達。
「テレンツィオ騎士隊を先に城の外へ!!外の安全を確保しろ!
撤退だ!!撤退するぞー!!!」
「撤退だ!! 撤退だー!!」
「ギーーー!!」「ギーー!!」
魚人は素早く兵士を狩っていくと同時に水魔法で松明を消していく。
城の庭の松明が魚人が進むほどに消えていき、さらにパニックを増大させる。
だが、その時一際大きな炎が天に向かって伸び、辺りを明るく照らす。
そこにはゲイルが魔法具の杖を天高く掲げる姿があった。
「ゲイル兄様!すごい!」
まるで映画の中で英雄が炎を噴き出す剣を掲げているシーンのようであり、風に吹かれて炎が左右に振られてまるで炎の龍を操っているようにも見える。
ゲイル兄様かっこいい。。。
その眩しいほどの炎の光によって、辺りの視界が確保され嵐の中のパニックはようやく少し落ち着きを取り戻しはじめた。
このゲイルの掲げた炎を見た騎士達の中にも同じように馬上から炎の魔法を天に向かって伸ばす者が何名も現れた。
そして、僕もゲイルに習って頭上に杖を振り上げ炎を掲げた。
光を取り戻した兵士達が魚人を食い止め始める。
「私の隊が
「わかった任せる。無茶はするなリーゼル!城の外には騎士達が待っている!」
「はいわかりました!!」
「私とカイトは
お兄様はなんてかっこいいのだろう。ここで
でも僕も
かなり怖いのだけど・・。
「ウルリッヒ隊は男を見せろ!!魚人を防ぐぞ!!!!」
リーゼルの勇猛で美しい声が城に響き渡った。
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