第116話 ルーベッドの日記2
とんでもない日記を見つけてしまった・・。
ルーベッド・メルシュ商会を立ち上げたルーベッド・メルシュは、ダゴン神と出会っていたんだよ。
ルーベッド自身はダゴン神に呼ばれたと書いていたけど、偶然なのか本当にダゴン神の意思で会うことになったのかはわからない。
ダゴン神は声を出さなくても相手に意思を伝える方法を持っているようなのでそれで呼び寄せたと考えられなくも無い。
そして、ルーベッドはダゴン神と契約をした。ダゴン神の眷属である深きものを繁殖させるという契約を。
それがインストスに魚人がいる秘密だったのだ。
とんでもない秘密だねえ。
ダゴン神が大いなる神と言っていることから大いなる神はダゴン神ではない。
大いなる神とは・・旧教にあるク・リトルリトルなのかゲイルの言うクトゥルフなのか、それとも旧教にある同名の『大いなる神』のことなのかはわからない。
わかるのはダゴン神は大いなる神のために動いていると言うことだ。
日本から魔法が存在するラノベ世界に転生した自分を持つ僕だから、「なるほど」とすんなり受け入れてしまえるけど・・。
ウインライトやアビー達はこんな話を聞いて信じられるのだろうか??
ウインライトに今知り得た情報を話してみたところ、「ダゴン神??真聖教の神様の方が上に決まっている。魚人の親玉なんてそいつは悪魔なんじゃねぇか?」と返ってきた。
まあ、当たってるかも。
そうだ、ゲイルはこの世界の生みの親?の一人。
ゲイルはこの事実を知っていたのではないだろうか?だから今回もこう言ったことが起こる事を予期してインストスに誘った可能性もある。
いやいや、ラノベでは1年生の時にこんな大イベント無かったんだけど・・早まったのかな?
とりあえずもう少し日記を読み進めよう。
そうして読み進めた日記には、ルーベッドにとって大事な出来事について記されていた。
まず、船に残っていたマッドはルーベッド達に殺されたようだ。
でもルーベッドと残った船員はそれが使命だと思ったみたい。狂ってるね。完全に。
帰りの船は魚人も同行していたようだ。船員がほとんどいないのに無事にインストスに戻れた理由はわからない。
日記にはその時の話として魚人は人間族よりも遥かに体も知能も優れていると絶賛しているだけだ。
いや、しかしそれはどうだろうか?
体は優れてるかもしれないけど、それで知能が優れていたら人間なんて風前の灯火だと思うのだが。
そして、インストスに帰ったルーベッドは、海岸近くの土地を買い屋敷を建てたらしい。そこに大いなる神の像を運びこみ儀式として自分の妻と魚人を交配させた事が書かれていた。
うん。狂っとる。
魚人からは定期的に宝石と金塊がもたらされることになったが、金塊はいったいどこからきたのか?そもそも新しい屋敷がなんのためにあるのか?その近くで魚人が度々目撃された事でメルシュ家が怪しまれるようになったことも書かれている。
だから金塊の出元を調べられられないために、バース家に屋敷を売ったことにして、金の製錬所という名目で屋敷を倉庫様式に建て替えさせた。
実態は何も変わらず儀式と称する魚人と人間の女を交わらすための場所だったようだ。
妻に子供が生まれたことも書かれている。
最初の一人は男の子で、ローレントと言うらしい。後に失踪したローレント会長だね。
次は娘が生まれた。男ではなかった事にルーベッドが落ち込んでいる事が文面から伝わってくる。
理由はどうやら女は魚人に成体しないからなんだとか。
しかし、男であっても深きものの血が薄いと魚人になる確率は少ない事を知り、後になってルーベッドは生まれた娘に良い魚人の子を産む事をとても期待するようになった。
この日記では後にバース家やウイリス家の女性も連れてきて、魚人の子を産ませたことがわかる。
そして生まれた娘はメルシュ家、バース家、ウイリス家にそれぞれ嫁がせ、3家で秘密を共有するようになった。
魚人の種で生まれた娘達がまた魚人の子を産みそれは広がっていく・・。
2世代目になってくると魚人に変態する男子達が出てきて、ルーベッドが涙を流して喜んだ事も日記に書かれていた。
・・・・・・・・。
***************
まだ、全ての書物を確認した訳ではないけど、この大発見を一旦ゲイルお兄様と共有しよう。
僕はウインライトと一緒にゲイルのいる書斎を訪ねた。
ダムラスが使っていたと言う書斎も魚人との激しい争いがあったのか、ガラスは割れ、カーテンは破れ、挙句、血溜まりや血が飛び散った跡が残されていて、かなりスプラッター系お化け屋敷の雰囲気になっていた。
そのお化け屋敷のような凄惨な部屋の中で一人椅子に腰をかけて本を貪り読む美男子がゲイルなのだが、似合うのは何故なのだろう?
スプラッターと美男子。写真をSNSに投稿したくなるな。そんなものないけど。
「ゲイルお兄様。面白い本を見つけましたよ。ルーベッドの日記です。それとインストスの歴史が書かれた本も」
「ルーベッドの日記か?ローレントやダムラスの日記はないのか?」
あれ?お兄様の反応が今ひとつだ。やはりゲーム制作者としてルーベッドの設定を知っていると言う事なのだろうか?
ローレントやダムラスの日誌の方が興味あるのだろう。
あっ!!
もしそれがあればパオロやパオロの父アウリオのことが書かれているはずだ!!
その証拠でパオロを追い落とすことが出来れば悪魔召喚も行われず世界は安泰なのである。
僕はゲイルのモテモテな部分だけ見て師匠と崇め女の子とのウハウハばかり考えているのに、ゲイルは世界平和を真剣に考えていたんだ。ちょっと恥ずかしい。
「まだ全部見たわけではありませんので、後で探してみます。」
「もう肩が凝って仕方がないぜ。ちょっと休憩にしようぜ〜〜」
「休憩は好きにすればいい。で?何がわかった? かいつまんで話せ」
「魚人がなぜインストスにいるのか?メルシュ家が何故魚人の家系なのか?それがわかりました。全てはルーベッドから始まったようです」
「ほう。それは興味深い。ルーベッドが魚人と取引したか?」
ゲイルはわかってニアミスの発言をしているのだろう。
「いえ、ダゴンと言う海の神と契約を結んだ事が書かれていました。
その契約こそがメルシュ家の贖罪だと書いています」
「贖罪?? どう言う事だ?」
あれ?贖罪に食いついた。こう言う設定はゲームにはなかったのかもしれないね。
「インストスに最初に村をつくったもの達は、アーブル大陸からダゴン神に導かれて海を越えて来た民族だったそうです」
「大海を越えてインストスに移住したというのか。ダゴン神に導かれて・・・」
「そうです。トラブゾン諸島を渡ってきたのではなく、大海を越えたそうです。
そして、メルシュ家の祖先はそのアーブル大陸から渡ってきた漁民と対立してどうやら追い払ったか滅ぼしたのでしょう。
どちらにしろ、ただの漁師だったメルシュ家の祖先はインストスの漁業の差配ができる親分になったのです。」
「なるほど、それで贖罪と言う訳か」
「ダゴン神曰く、大いなる神の意思に背いた罪という事です。
だからこそ贖罪のために深きものの子をなして繁殖させる道を選んだのです」
「ダゴンの描写はあったか?」
「そう言えばないですね。とにかく巨大だろうとは想像できます。ダゴンは言葉は話さない代わりにテレパシーで意思を伝えることができるようです。」
「テレパシー・・・。確かにテレパシーでもなければ魚人をこれだけ集める事はできないだろうな」
「なんだそのテレパシーってのは???」
ウインライトが疑問の声を上げる。ウインライトが知らないのは当然だ。この世界には無い概念だろうからね。
「言葉を使わず意思を直接頭に伝える魔法の事をそう言うんだよ。学園ではまだ教わってないけどね」
「へえ。そんなことができるのか。やっぱ魔法はすごいな」
よし。なんとか誤魔化せた!
少しだけ安堵していると庭から騒がしい音が聞こえてくる。
何事かと窓に近づき庭を眺めると白銀の鎧を身にまとい騎乗する騎士の一団が整列してズンズンと屋敷に近づいてきていた。
「マチルダ副団長ではなさそうですね。」
*****
そろそろ日が暮れてきた現在、騎士達の後に入ってきた荷馬車と歩兵部隊がテント設営やなんだと慌ただしく作業を行なっている。
騎士達から話を聞くと代官城に海から巨大な大怪獣が現れて城壁の一部を破壊したという怪獣映画のような話が出てきた。その海の大怪獣に襲われる事を防ぐために慌てて港の陣地をこっちに移動させるということらしい。
そして僕たちのいる邸宅は司令本部になる。
「海から巨大な怪物って・・・ダゴン神のことですかねお兄様」
「足のついた蛇のような怪物だったと言う表現は言葉不足だが、ダゴンの事を指していると見て間違いない。やはりダゴンが動き出したか・・・」
やはり?ダゴン神が動くのも想定通りという事? なんだかズルい話だな。
「なんだよゲイル!その怪物の事をしっているのかよ!?」
ウインライトの指摘はごもっとも。知ってるんだってさ。
「ああ、文献で読んだからな。
奴に人間ごときが勝つ事は不可能だ。そう言う意味で港の陣地を引き払ったのは正解だが、海岸の城はまだ放棄していないのは失敗だ。このままではまずいことになるぞ」
「確かに30mもある怪物には勝てっこ無いな。俺なら逃げるぜ」
「ルーベッドの日記でも人間が何人も一瞬で食われたと書いてありました。海の近くは危険でしょうね。」
「城が崩れて建物の中に侵入を許したとの話もあった。建物の中では数の有利を活かせない」
「確かにそうですね」
「夜の建物はさらに危険だ。
私たちは火魔法のおかげで灯りを確保できたが、普通の兵士にはそんなものはないからな。松明など水魔法ですぐに消されてしまう」
「確かにそうですね。僕たちもゲイル兄様の火魔法がなければ視界を失っていました。魚人は夜目が効くのですか?」
「それくらい想像できるだろう?魚人の呼び名はなんだ?」
「深きもの・・・。光がほとんど無い深海で活動できる!?」
「そうだカイト。日本の知識は活かす事だな」
「なんだニホンって? 海の国か?」
「ドレイン家の隠語だよ。諜報機関のことを日本って言うんだよ」
「諜報機関??またわからない言葉が出てきたな。それも隠語か?まっいいか」
「そんな事はどうでもいい。魚人は夜目が効く。ダゴンもいるとなれば、おそらく海岸沿いの代官城には確実に夜襲を仕掛けてくるだろう。
私はそれを警告しに代官城へ向かうことにする。カイトとウインライントはこのまま証拠を集めてくれ」
「いえ、証拠は逃げません。僕も行きます」
「やったぜ!!これでダルい本漁りから解放されるぜ!!」
僕だけでなくウインライトもお兄様と代官城が心配なのだろう。ゲイルだけに行かせるわけにはいかない。
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