第114話 代官城攻防戦2

ドーーン。


ド ドド


城内に大きな音が響き渡り、床が揺れテーブルがビリビリと震える。


「なんだ!?海の怪物の襲撃か!?」


「先ほどもこのような音と地響きの後に魚人が城に入ってきました。状況を確認しろ!」


「はっ!」




「報告!!!城の東側の壁が崩れました!」


「今度は東側だと!?守備兵に損害は?」

リーゼルが慌てた声で聞き返す。


「建物ごと大きく崩れたようです。何名かは巻き込まれたかもしれません」


「建物ごとだと?そこから魚人は??」

「今はわかりません!ただ、敷地に直接侵入可能だとおもわれます!」


「庭にいる我らの隊に対処させろ」

「はっ」


「リーゼル、東側の建物が崩れたのか?」

「そのようです。東側は塀と食糧庫を兼ねた部分です。この場所のような大きさはありませんので弱い部分ではあります」


「まずい状況か?」


「いえ、建物が崩れても城は崖の上ですので、一気に魚人が押し寄せる事はできないでしょう」


「一撃で城壁を崩すとは。やはり、ダゴンという海の怪物がやったのかもしれんな」

「その報告もすぐにくるでしょう」


ドーーーン!


ドド ドドドド


さらにもう一度大きな音が響き渡ると、先ほどより大きく床が揺れる。


「またか!?」

「今度は大きい。近い場所がやられましたね。確認急げ!」



「報告!!巨大な怪物がまた現れました!!!城の中央南側が大きく崩れたという事です!!」


「何!? 私も物見櫓へ行く!!

副団長はここでお待ちください!見てまいります」

「いや、私も状況を確認する必要がある。同行しよう」


「ですが副団長には全軍を指揮する使命があります。もしかすると物見櫓が倒れる危険性もありますのでここで」


「その時はテレンツィオがいる。まずは確認したい」

「わかりました」


ドドドドド 

先ほどの影響だろうかさらに何かが崩れる音が響く。



代官城の海側の物見櫓(塔)は東、中央、西の三箇所あり、中央の物見櫓は城の屋上の上に飛び出すように立っている、、はずであったが、屋上に出た2人の前には櫓の姿は無く崩れた屋上と海が広がっていた。


「櫓は崩れたのか!?」

「え!?・・・先程まではあったのですが、、仲間・・・アロウドの姿もありません!」

同行した守備兵は驚いた声を上げた。


「まずいな。団長戻りますか?」

「リーゼル。この屋上からでも状況は確認できるだろう? そこの端に行って様子を伺うぞ」


「危険です。いつ崩れるかもわかりません」

「崩れているところに近寄らなければ大丈夫だ」


城の屋上の端まで進むと、対岸と三角錐の間に広がる海が一望できる。

城の真下を覗くと海から顔を出す魚人達、何体かは岩肌にとりつき崖を登る姿もある。

しかし水中にいる魚人達はここからではわからない。いったどの程度いるのだろうか?


「リーゼル。どう思う?守り切れるか?」


「2個連隊が揃うのであれば、数では我々が圧倒的に有利ですが、奴らはしぶとい。

戦闘は長引くと考えます。問題は夜でしょうか。

もし巨大な化け物が地上に上がってくるのであれば、城は放棄するしかないでしょう。」


「ダゴンか。その化け物がどんな奴かを知る必要があるな。

夜は交代で防衛させるしかあるまい」


海の中にいる魚人達を殲滅する方法はない。夜になれば相手が海からどう動いてくるのかもわからなくなるだろう。


夜襲への対処に頭をめぐらせていると、急に眼下の海面の一部が波立った。


「!? 何かいる?」


目を凝らして海を見つめると、うっすらと海面に黒いシミが広がって大きな影のようになる。


「でかいな」


影は巨大で何十メートルもある生き物のように動いていた。

そして影はそのまま流れるように城に近づいたかと思うと、その影の動きに合わせて大きな波が起こり城の建つ崖に押し寄せて大きな水飛沫があたりに広がる。


しかし、その巨大な影はは海面から姿を現す事なくすぐに城から外洋の方に方向を変えて去っていった。


「なんだあれは!?怪物の影なのか?とてつもなく大きいぞ!!」


「20マルト〜30マルトくらいはありそうな大きさでした。この城の壁を崩したのはあれでしょうか?」(※20マルト=約32m。※30マルト=約48m)


「姿はわからんが、恐らくはあいつの仕業だろう。

しかし、あれだけの巨体だ。足があったとしても陸ではそこまで早くは歩けまい。いや、そう信じたいな」


「動きが遅くとも陸に来れば撤退するしかないでしょう」


「リーゼル。伝令を頼む。港に兵站のための陣を引いたが、もし港から奴が上陸してくれば大きな被害が出る。

急ぎ陣をメルシュ家の邸宅に移すよう伝令を出してくれ。」


「畏まりました。では城内に戻りましょう」


*******


「ギー!!!」「ギーーー!!」


「うわ〜〜!!!」

「魚人が2階からも入って来たぞ!!!」


マチルダとリーゼル達が屋上から中央の階段を降りている時に騒ぎが起こった。


その騒ぎの声がする通路から鉄の胸当てと革の鎧を着込んだ子爵家の兵士が酷く慌てて逃げてくる。


「おちつけ!!どうした!!」

マチルダが走り込んでくる兵士の肩を掴むと、子爵家の兵士はマチルダの鎧を見て姿勢を正す。


「魚人が2階から入って来ました。先ほど崩れたところからです!!」


「ぎゃあ!!!」

通路の奥から断末魔のような声が響くと、その後すぐに、ペチャペチャという足音とともに薄暗い通路に魚人が2体姿を現した。


「応援を呼べ。ここは私が対処する。」

リーゼルは部下にそう命令し剣を抜く。

マチルダも同じく腰に掛けている杖を一本取り出し魚人に向けた。


「ギーー!」

魚人はこちらの動きに気づくとすぐに勢い良く向かってくるが、


シュン!!

マチルダの持つ杖が青白く輝く。瞬時に射出された水が凍りつき氷の槍となって魚人を貫くと、魚人は足を止めてその場に倒れ込んだ。


シュン!!


先頭の魚人が倒れた直後に立て続けに氷の槍が放たれると正確に2体目の頭を氷の槍が貫き、あたりに中身をぶちまけた。


「す、すごいです。さすがはマチルダ副団長」


「油断するな。外した場合は隙が大きい。君の剣を頼りにしているよ」


「私も雷魔法の杖を持って来てはいるのですが・・距離が近くないと使えないのでもっぱら剣を振るうようにしています」


「そうだな。今は剣の方がありがたいが、魚人には雷も有効だ。剣は他に任せて魔法を使った方が良いかもしれない」


「ギーーー!!」「ギーーー!!」


「そらおいでなすったぞ」


通路の先にはまたしても魚人が2体現れるが、倒れている魚人を見て警戒しているのだろう。先ほどのように突っ込んでくる気配はない。


「副連隊長!応援が来ました!」


「よし、2階を制圧しろ。3階4階も兵を手厚く」

「はっ!」



******


魚人もそこまで数がいるわけではないのだろう。

小康状態のまま日が暮れ、城内の庭や至る所に松明が灯る。


あれから巨大な怪物が城に来る事はなく、マチルダは籠城を継続する事としたが、城の海側はかなり警戒が必要だと多くの兵を集中配置する事になった。


「テレンツィオは副司令官に任ずる。陸側の防衛は君の騎士隊に一任する。リーゼルには敷地内、特に城に侵入ルートができてしまった海側の防衛を任せる。

長い夜になるぞ。食事を終えたら各隊は6時間づつ3交代で睡眠をとれ。」


「わかりました。それにしても敷地がごった返していますな。寝る場所を確保するのが大変です。」


城の庭は人と馬とでごった返している。木はもちろん観賞用の草花は根こそぎ刈り取られ、そこにテントが張られている。


マチルダより5つほど年上のテレンツィオ-ヴァッリはおどけた表情を見せながらそんな現状を揶揄した。


「城の外で休むわけにはいかないだろう?しっかり休ませろよ。もちろん君は副司令官だ。私が休む時は君は起きていたまえよ。」


「副団長が先に休んでください。私は騎士達の状況把握が必要ですのでね」


「ではその言葉に甘えて先に休む。何かあったらすぐ起こせ」



********


夜がふけて夜空に黄色く輝く半月が海に落ち、赤く輝くもう一つの月がようやく北の空に登ってくるまでの漆黒の時間帯・・・。

300体を超える魚人が水面に顔を出して漂っていた。月明かりもない暗闇の海の出来事に城の物見の兵が気づく事はない。


そして魚人達が崖を一斉に登り始める・・・・。


********



「魚人の夜襲だ〜〜〜〜!!!」

「夜襲だ〜〜〜!!!」


城内に響く大声でマチルダは目を覚ました。




******************


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