第112話 暴動者
成人したばかりの小僧達に酒を奢ってもらうなんて妙なことがあった次の日の朝、街は大騒ぎになっていた。
夜にバース家の
それを聞いた俺は真っ先に門番をしている同郷の友人ガーディルの事が気になった。
昨日は非番で結局夜までガーディルと酒を酌み交わしていたんだから事件に巻き込まれる事はないはずだが、今の街は異様な雰囲気がある。
俺は心配になって慌ててガーディルの家に向かった。
だが、通りには多くの住民が集まっていてまともに進めやしない。
その人混みの中央で剣を掲げた男が木箱の上に立って何か叫んでいる。
「魚人達が現れて我々を襲った!!バースの製錬所から出て来てな!!
魚人をのさばらしていていいのか!?
今こそ魚人に呪われたメルシュ家やバース家をこの街から追い出す時だ!!」
「魚人を始末しろ!!」
「メルシュ家は魚人の家系だ!!」
「魚人に支配されてたまるか!!」
木箱の上で演説する男達の声に賛同するかのような声が次々に上がる。
「メルシュ家を追い出せ!!!」
「金塊なんかを溜め込みやがって!!!」
「魚人のメルシュ家は皆殺しだ!!!」
ついにこう言う事態になったかと、そう感じる。
俺もメルシュ家は魚人の家系だと思うぜ。あいつらは見るからに魚顔だしな。それに実際に魚人に変態するところを俺も見たんだ。
しかし、今はガーディルと合流する方が先だ。
どうにか、人混みを抜けて友人宅にたどり着いたが、ガーディルはいなかった。奥さんの話によると「まずいことになった」と言って装備を身につけて飛び出していったそうだ。
これはやばいぞ。
今、メルシュ家と繋がりが深いバース家を守るような動きをしてみろ。仲間だと思われてリンチにされちまう。今は家に籠るのが一番だっていうのに。
俺は燃えたというバースの製錬所に向かう事にした。
製錬所に向かう途中にバース家の屋敷があるのだが、その門の前では剣や棒、スコップなどを持った奴らが怒声をあげている。
どうやら屋敷の門番と揉み合っているようだ。
『ガーディルかもしれない』そう思って近づこうとするが、人混みで前に進めない。
そのうち住民達が門をこじ開けたのだろう。一斉に集まっていた連中がバース家の屋敷の中に雪崩れ込んでいく。
人混みに押されて俺も一緒に雪崩れ込みそうになったが、暴徒にリンチにあっている警備の男の顔を見てガーディルではない事を確認すると、立ち去る事にした。
リンチを止める事は出来ない。止めればこっちまで仲間と思われちまう。
製錬所に到着すると、門に吊るされた魚人が二体目に入る。俺が昔見た魚人より大きくそして肌や鱗の色が緑黒くグロい。人がこんな化け物になるという現実に吐き気を覚える。
また、門の横の壁には「魚人のメルシュ家、バース家を許すな!」と赤黒い塗料で殴り書きされている。もしかすると血で書かれたのではないだろうか。なにか恐ろしさを感じる文字であった。
門を潜った先の製錬所は見る影もなく焼失していた。真っ黒に焦げた柱が何本かまだ直立はしているが、完全に火が消えたわけではないのだろう。至る所から煙が上がっていて、その匂いがこっちまでやってくる。
驚く事にそんなまだ火が燻る製錬所跡で何人もの人が棒やスコップを使って燃える瓦礫を取り除いていたのだ。
もしかするとバースの関係者かと思ったが、会話の内容からどうやら金塊を探しているのだとわかった。
金塊を探す男達の中にガーディルは見当たらない。
「おい。ロッキーじゃないか。お前もメルシュの金塊目当てか??」
仕方がなく引き返そうとした時、薪割り斧を持った荷運び仲間が声をかけてきた。
「おお。クックじゃねえか。こんなところに来るって事は製錬所の金塊を探してるのか?」
「そう思ったんだかな。ここが金の製錬所なんて嘘だな。製錬設備なんてないんだぜ。」
「確かに。こりゃただの倉庫だ。しかし、ガーディルは確かにここから金塊を運ぶところを見たって言ってたんだが。」
「ガーディル?お前の同郷の友達だったな。そういやあいつここの警備兵やってたって言ってたよな。あいつはどうした?」
「昨日は非番で俺と飲んでたんだ。今日はどっか行っちまって探している。この火事には関係ないと思うが。」
「俺も見てないな。しかし街の奴ら相当頭に血が昇っている。バース家の関係者だと思われねえ方がいいぞ。」
「ああ、さっきバースの屋敷の前を通ったが、大変な事になっていた。」
「そこに居なければいいんだがな」
「確かにその可能性もある。おれはバース家に戻るぜ!金塊探しもほどほどにな!」
「おお。気をつけろよ。メルシュやバースの味方だけはするなよ」
******
バース家の屋敷は酷い有様だった。まるで略奪が目的の賊に襲われたかように至るところがほじくり返され、今も金品になるものを抱えた奴らが部屋を荒らしている。
そして中にいたバース家の人間は暴行されたのだろう、血を流しぐったりした様子で全員が縄で縛られて大広間に集められていた。
その中にガーディルがいた。
腕を後ろ手に縛られ頭から血を流しているが、どうやら生きているようだ。
「お前ら、魚人なのはわかってんだ!!魚人が人間のふりをして俺たちを支配するつもりなんだろ?!」
暴徒のリーダー格の男がメルシュ家と思われる男の首元に剣の先を突きつける。
「こんな事してどうなっても知らんぞ」
棒で突かれた50すぎの男は問いには答えず、逆に脅し文句を吐いた。
「どうなるってんだよ!」
「うがっ!」
周囲の男達が口答えする男に容赦なく棒を叩きつける。
このままではガーディルも殺されてしまう。
どうにか助け出さないと。
「おい。お前がリーダーか?」
「なんだお前? ん?どこかで見た事がある顔だな。」
「港で荷運びやってるロッキーってんだ。お前が革命のリーダーか?」
「革命?? 確かに革命かもな。魚人の支配から逃れる革命だ。だがリーダーなんかいねえ。みんなコイツら魚人どもに危機を感じて立ち上がっただけだ。
荷運びしてるならメルシュ家やバース家がどれだけこの街で幅を利かせていたか知ってるだろ?!それとコイツらが魚人だって事も!」
「そうか。確かにメルシュ家やバース家は魚人と関係があるだろうな。俺も目の前で魚人になった奴を殴り殺した事があるからな。」
「魚人に変態する奴を見たのか? 俺もだぜ。そいつはこのバース家の男だった!」
「俺はインストス生まれじゃねぇ。もうこんな魚人の街とはおさらばしたいと思ってたところなんだ。」
「よそから出稼ぎはよくある話さ。で、そのよそもんがなんの用だ。バース家やメルシュ家を追い出そうって訳でもないのだろ」
「いや、俺と同郷のやつがここにいるから引き取りに来た。そいつはバースも魚人も関係ねえ」
ロッキーは縄で縛られてぐったりしているガーディルを指差す。
「コイツはこの家にいて、最初に抵抗しやがったやつだぞ。バース家の手下だろうが。」
「こいつはバースの製錬所で門番をやってただけだ。やんちゃな奴だが俺たちと同じ村のもんだ。助けてくれよ。」
「じゃあ金塊のありかを知ってるだろ?バース家の奴らは金塊など無いと抜かしやがる。」
「よし俺が聞き出してやるから、助けると約束してくれ。殺されたらこいつの両親に顔向け出来ねぇ」
「金塊のありかを吐くのなら助けてもいいぞ。聞き出してくれ。」
「おい起きろ、ガーディル。助けに来た」
頭を垂れるガーディルの頬を軽く叩くと、ガーディルの目が開く。
「ろ、ロッキーか。ここの奴らはみんな狂ってやがるな・・。ハハッ」
「こいつらは魚人を成敗するらしいぜ。お前は魚人には何にも関係ない。一緒に村に戻ろうや」
「たすかる・・のか・・?」
「それはお前次第のようだ。バース家もメルシュ家ももう終わりだ。気兼ねなくあいつらの悪事を語っていいんだぜ。
で、そのバース家の金塊がどこにあるのか知ってるか?」
「お、おまえ、金塊を狙ってるのか?」
「俺じゃない。バース家が許せないコイツらが欲しいんだとさ。もうバース家に気兼ねなんてはすることない。知ってる事教えてやれ。」
「話せば解放してやる!!この家に金塊を隠してるんじゃないのか?!金塊はどこにあるんだ!」
「俺が知るわけないだろが・・・。よそ者だぞ。ただ門の警備をやってただけだ。」
「だ、そうだ。ただの雇われのよそ者にそんな事教えるはずなんてねえ。俺のダチなんだ助けてくれよ。」
「バースに従ってた奴を簡単には助けられねえ!」
「魚人はメルシュやバースだけだろうが!働いてるだけでこんな事されるなら俺らもおんなじだろ!!
お前も顔を見たことがあるぜ。お前、メルシュ商会のところの船乗りだろうが!! お前もおんなじじゃねぇか!!」
「そ、そうだ。俺はメルシュ商会に雇われてた。船の上で魚人になったバースの奴を始末したら、インストスに帰ってからバースの用心棒みたいなやつにリンチされて殺されかけたってんだ。そんで魚人の事を他人に話すと殺すって脅してきやがった。
しかも、全てはメルシュ商会の指示だと抜かしやがる。
ここにいる何人かは同じ目に遭ってる。
メルシュとバースの奴らは魚人と繋がってやがったんだ。
いや、魚人が人のふりをしてるんだ!!魚人に支配されてたまるかってんだ!!
そうだろ!?」
「俺だって魚人は糞食らえだ。友達を助けてくれるなら仲間になってもいいぜ!それでどうだ?」
「・・・よし、わかった!!
ただし、メルシュやバースの家の奴らを残しておけばこの街は魚人に支配されちまう。
仲間になるって言うんなら、ここにいるバース家の奴らに油をかけて火をつけて燃やせ!それでお前達は俺たちの仲間だ。」
「助けてくれ!!」
「いやー!!死にたくない!!」
「この悪魔ーーーー!!!」
「お前達は全員呪われて死ぬぞ〜!!!」
それを聞いたバース家の面々は次々に狂気じみだ大声を上げる。
生きたまま燃やされるというのだ、当然である。
「・・・・。わ、わかった。ツレを解放してくれ。」
「おい。そいつを解放しろ。」
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