第110話 魚人の群れ
近衛騎士団テレンツィオ連隊が早朝に野営地を後にして1時間ほど経っただろうか。
空を黒く染めている街が視界に入る。
インストスの街で火災が発生しているのだろう。
その街の方角からこちらに向かって駆けてくる2頭の騎馬があった。
「伝令〜〜〜!」「伝令〜〜〜!」
どうやら先に街に入っていたウルリッヒ連隊の伝令のようだ。
伝令の騎士はユニコーンに騎乗するマチルダ副団長を見つけるとまっすぐ駆け寄る。
「私はウルリッヒ連隊第三騎士中隊所属のアルバンです!魚人の群れが大聖堂から湧き出し、街を襲っています!!!急ぎ商業港まで急行願います!」
「なに!!?魚人が群れで現れたのか?! 状況を詳しく教えろ!」
「奴らは突然大聖堂から現れ、我々も奇襲を受けました。第二騎士中隊・第三騎士中隊はインストスの商業港まで撤退しそこで防戦中です。現在連隊長とは連絡が取れていません」
「ウルリッヒと連絡が取れないとはどう言う事だ。第一中隊や他の隊はどうした?」
「第一騎士中隊と連隊長は共に大聖堂内で就寝していたはずですが、その大聖堂から魚人が湧き出したのです。
補助兵と我々は大聖堂の外の敷地で陣を張って休んでいたのですが、、。
魚人は恐ろしいほど強靭でその勢いを止めることはできず大聖堂から撤退いたしました」
「ウルリッヒと第一中隊は大聖堂の中で魚人にやられたか。」
「魚人の奇襲で我々もかなり消耗しています。第一中隊がどうなったのかは私にもわかりません」
「まずいな。代官城はどうなっている?」
「代官城ではリーゼル副連隊長が指揮をとっているはずです。大聖堂の向こう側ですので連絡は取れておりません。」
「よしわかった。ご苦労。第三中隊が守る港まで案内してくれ。急ぐぞ!」
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「バリケードを破られるな〜〜!!」
「ギ〜〜〜!!」
「弓隊を前へ!!」
「クソッタレがあ!!」
「騎士隊は再突撃準備!!!」
マチルダが港エリアに到着すると、魚人とウルリッヒ連隊との激しい戦闘が行われていた。
騎士の補助兵である歩兵部隊は港に散乱する木箱などで港前の広場のような場所にバリケードを築き、魚人の猛攻を防いでいる。弓を持つ部隊はバリケード越しに弓を放っているが、魚人にどれほど効くかはわからない。その後ろでは騎士たちが馬に跨り突入の準備をしていた。
バリケードの向こうには魚人がウヨウヨとしていて100体くらいはいるのではないだろうか?
今まさにバリケードを飛び越えた魚人が槍を持つ歩兵を殴り倒している。さらにバリケードを超えてくる魚人の姿もあった。
放っておけばこのまま雪崩れ込まれてしまいそうだ。
「テレンツィオ!突撃して蹴散らせ!」
「はっ!! テレンツィオ連隊突撃!!」
マチルダは迷いなく突撃を命令する。
「第一中隊突撃!!」「第二中隊突撃!!」「第三中隊突撃!!」
その号令に合わせて騎士隊400の2/3ほどが次々に魚人の群れに突撃していく。
魚人は皆口々に奇声を上げるが、馬の数と勢いは鋭く魚人達を翻弄する。
騎士は馬の上から槍を突き、剣を振るい駆け抜ける。中にはゲイルの助言が伝わったのか雷魔法を馬上から放つものもいた。
魚人は棒切れや中には奪った剣でそれに対応するが、騎乗の騎士には大した脅威ではない。
ただ、これだけの数の差がありながらも魚人達を駆逐出来るわけではなかった。
逆に馬が魚人とぶつかり何頭か引き倒されるとそこに魚人たちが群がっていく。
「倒れたものを守れ〜〜〜!!」
魚人の群れを突き抜けた中隊はそのまま建物の角を曲がりつつ再度魚人の群れがいる港前の大通りに戻り突撃を仕掛ける。
そしてまた引き倒された馬に魚人が群がっていく。
何度か突撃を繰り返すうちに魚人と騎士、馬の死体が増えていき、馬の勢いは衰え乱戦模様になっていった。
ただ、数の優位性は圧倒的で魚人が一体また一体と倒れていく。
数的不利を悟った魚人が徐々に逃げ始めると、そこから瓦解は早く魚人達が散り散りになっていく。
ある魚人は細い路地へ。ある魚人は大聖堂方面へ大通りを走り去ろうとする。またある魚人は建物内部へ逃げ込んだ。
この辺りの建物は暴徒によって荒らされたり燃やされて燻っていたりと荒れ放題のため侵入するのは容易い。
しかしそうなると街の建物は騎士にとって戦い辛い場所になる。
細い路地や建物の中に入られると馬が役にたたない。騎士隊の多くは大通りをまっすぐ大聖堂側へ追撃を始める。
「蹴散らしたか。歩兵隊の一部を建物に逃げ込んだ魚人の追撃にまわせ。ただし深追いはするな。
それと大聖堂に追撃に向かった騎士隊を呼び戻せ。
一旦この港に陣を敷く。先に治療部隊を設営させて負傷したものを治療部隊へ運べ。
伝令を代官城に。港にて陣を敷くことを伝えろ。魚人には捕まらないように遠回りさせろよ。
騎士隊が追撃から戻ったらウルリッヒの騎士中隊の中隊長と合わせて司令所に呼ぶんだ。ゲイルたちも同席させてくれ。」
「かしこまりました。聞いたな。すぐに手配しろ。君は騎士隊を呼び戻しに行け。」
「はっ!直ちに呼び戻しに参ります。」
マチルダの指示にテレンツィオ連隊長がすぐさま答えた。
********
「副団長!申し訳ございません。奴らは何処から入ったのか、大聖堂内から急襲を受けたものでこの有様です。」
簡易司令所にウルリッヒ連隊第三騎兵中隊長が部下と共に現れる。第二騎士中隊長は負傷のため参加していない。
「いや、大聖堂内から魚人に襲われるとは想像もできないだろう。これは仕方がない事だ、気に病むな。それよりもなぜ連隊を二つに分けたのか?我々が到着するまで討伐行動は控える様に言っていたのだが。」
「それは私にはわかりません。大聖堂が暴徒に襲われたのでそれを奪回せよと命じられたのが我々でした。賊自体はほとんど抵抗もなく大聖堂から駆逐できたのですが・・。」
「そうか。ゲイル君。何が起こったかわかるか? 君たちの意見を聞かせてくれ」
「大聖堂の地下礼拝所はバース家の製錬所と海に繋がっている。賊はおそらく製錬所から地下礼拝所に行き大聖堂に入ったのだろう。そして騎士団が来ると地下から逃げた。」
名前を呼ばれたゲイルは淡々と見てもいない出来事を想像で語る。
「そ、その通りです。なぜそれを!? 副団長、この少年は何者です?」
「彼はゲイル-ドレイン君だ。その横はカイト-ドレイン君、そしてウインライト-カーティス君。彼らは魚人の脅威をいち早く我々に伝えてくれた。それで今回同行してもらっている。」
「ど、ドレイン方伯のご子息ですか!? でも何故ドレイン家の方がインストス大聖堂の事、そして魚人の事を知っているのです!?」
「彼らは魚人の事を知って、密かにインストスの街を調べていたそうだ。
それで?魚人もその大聖堂の地下礼拝所と繋がっている海からやって来たと言うのかね?」
「地下礼拝所が海と繋がっているのは魚人が常にそこから出入りするためだ。
そのために大聖堂を海の側のあの位置に建てたのかもしれん。」
「確かにその通りかもしれません。地下礼拝所の通路の先に海の水が溜まる池があったそうです。
また悪魔の像と魚人の死体もあったので、死体の方は代官城に運ばれていきました。」
「悪魔の像は何処に運んだ?あれこそ悪魔崇拝の確固たる証拠になる。」
「なんだその悪魔の像というのは?」
「私は直接は見ていませんが、地下の礼拝所の祭壇には悪魔の形をした奇怪な像があったそうです。」
「なるほど。悪魔崇拝か・・。ゲイル君の言うことは全て本当と言うことか。パオロ大司教が絡んでいると言うのも本当かもしれんな。」
「それを明らかにするには証人が必要だ。ダムラス-メルシュ・・いやメルシュ家やバース家、ウイリス家の人間を捕えて欲しい。奴らは変態前の魚人、もしくは魚人の血が流れているはずだ。」
「わかった。この事態だ。その3家の人間は全て見つけ次第捕らえよう。テレンツィオ、そのように皆に伝えてくれ。
中隊長、メルシュ邸はどうなっている?」
「メルシュ邸は賊が占拠していると聞いています。商会長のダムラスがどうなったのかはわかりません。」
「そうかわかった。
騎士団本部に伝令、魚人と交戦のため至急増援を要請だ。あと3個連隊送ってほしいと伝えろ。
ウルリッヒ連隊はリーゼルに指揮を任せたいが、リーゼルと合流するまではテレンツィオ連隊の傘下とする。」
「3個連隊を呼ぶとなると、皇都が手薄になりますが・・。」
「ここは皇都から近い。魚人を放置する方が皇都の脅威になろう。最終判断は団長が下す事だ。もちろん皇帝陛下の許しをもらわなければ動かせないだろう。少し時間がかかるかも知れない。
それまで大聖堂奪還は後回しだ。」
「ウルリッヒ連隊長は、、。」
「恐らく手遅れだろう。
そもそも魚人がどれほどいるのか?代官城の状況もわからん。
まずは、代官城と街の状況確認が必要だ。
港付近の街に散った魚人の駆除と治安回復を優先する。
我々はメルシュ家のある地区に向かうぞ。
ウルリッヒ隊はここの防衛を。テレンツィオ連隊は3個中隊ほど一緒に連れて来てくれ。」
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主人公のカイトやウインライトの出番がありませんね・・・。
知識チートのゲイル兄貴独壇場です・・。汗
BY、作者
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