第109話 インストス大聖堂の悪魔

インストス大聖堂の賊の制圧は拍子抜けするほど簡単であった。


それもそのはず、賊達はウルリッヒ連隊が大聖堂を包囲するや否や地下通路を使って逃げ出していたのだ。

残って討伐されたり捕まった賊は、宝物や魔法具を盗み出そうと必死になっていたり、修道女をレイプしていて騎士団がきた事に気ずかない馬鹿者どもだけであった。


捕らえた賊の話では、バース家の金の製錬所の火災がひと段落したあと、製錬所にあるはずの金塊を奪おうと押しかけた連中が地下通路を見つけた。

そして地下通路の先・・大聖堂の地下礼拝所で金塊を発見し、それが呼水となってさらに金の亡者達が集まり最終的には大聖堂襲撃に繋がったという事だった。


連隊長のウルリッヒは副連隊長のリーゼルに代官城の部隊を任せて大聖堂制圧を指揮し、今は第一中隊の中隊長に案内されて強烈な異臭が漂う地下礼拝所にきている。


礼拝所にはかなりの数の蝋燭があり、地下だと言うのにかなり明るい。

しかし、その明かりによってこの場所で行われた惨たらしい戦闘の跡が視界に入ってきた。


土の地面は賊の死体が4体そして、魚人の死体2体の体液にまみれ赤黒く輝いている。


そしてその奥にはその血まみれの死体を眺めるかのように異形の悪魔の像が祭壇に鎮座していた。


この礼拝所を礼拝所たらしめる異形の像がまるでこの血まみれの部屋を生み出したかのようである。


「連隊長、ここがその現場です。魚人と賊が争ったものと思われます。」


「そのようだな。魚人が二体か。賊の死に方の方が酷いな。腕がちぎれ、顔が後ろを向いている奴がいる。魚人はかなりの怪力の持ち主なのだろう。」


「賊はここにあった金塊を運び出しています。魚人は金塊を守っていたのでしょうか?」


「どうだろうな。ここは礼拝所だろう?そこの悪魔のな。」


「修道士の話ではここの地下礼拝所は10年ほど前に使われなくなっていたとのことです。

10年前からこの得体の知れない像があったのかは不明です。」


「使われないのに祭壇にこれだけの蝋燭があるのかね? それにこの異臭はなんだ。

明らかに最近まで人がいた気配があるぞ。」


「ご指摘の通りです。別の部屋には芋や干し肉、パンが残されていました。賊が持ち込んだものではなく、やはりここには人がいたと思われます。」


「悪魔崇拝が魚人達によって行われていたのかはわからんが、今でもここで儀式が行われていたのだろう。

何故真聖教の大聖堂の地下にそれがあるのか?また、金塊がここにあった理由も謎だな。」


「金塊は賊によって持ち出されてしまいましたので今はありませんが、この祭壇の悪魔の像の横に積まれていたそうです。

この場所がそこの扉からバース家の金の製錬所と地下道で繋がっていた事は確認できております」


「金の製錬所でこしらえた金塊をこの地下の悪魔礼拝所に持ち込んでいたのか?」


「いえ、それが、どうやらそうでもないようです。」


「ん?それはどう言う事だ。」


「金の製錬所には製錬設備はなかったとの報告がありました。ただの倉庫を製錬所と呼んでいたと思われます。」


「では、ここにあったと言う金塊はどこで作られたと言うのだ?」


「全くわかりません。

バース家の人間に聞けばわかるかも知れませんが、暴動でバース家の屋敷は今も燃えています。」


「魚人に、謎の金塊。大聖堂の地下の悪魔の礼拝所。何なのだこの街は!?

とりあえず、そこの気持ち悪い異形の像を大聖堂の広間に持っていけ。

司祭に話を聞くしかあるまい。」



**********



「この様な悪魔の像が地下礼拝所にあったと、、、、。」


大聖堂が奪還されたと聞き、歓び大聖堂に戻って来た司祭であったが、恐ろしい形相をする奇怪な悪魔の像を前に呆然としてそう答えた。


大聖堂地下にこの様なものがあるとは全く想像していなかったと言う顔である。


「地下礼拝所にはこの悪魔の像と共に魚人の死体が2つ残されていました。恐らく大聖堂の襲撃者と争って殺されたのかと思われます。」


「タラント君、地下は10年前に閉鎖されたと言っていたね?どう言う事なんだ。」


「私はその様に聞いただけですので、地下にこんな像があるとは、、。」


タラントと呼ばれた従者は怯えた表情でそう答える。


「君は私が来る前から修道院からここに移っていたと思うが??」


「ま、マーク助司祭様がこの扉の鍵を管理していましたので、、。私は何も。」



「歯切れが悪いな。何か隠しているのか?」


ウルリッヒはこの従者の表情が怯えているのが引っかかった。


「いや、な、何も隠しておりません。」


司祭「マークはどこに行った!?あいつに聞かなければならぬ」


「マーク様は襲撃の時から消息不明です。族に殺されたのかも知れません」


「その様な死体は見つかっていないがな。教会関係者は1人の死体もなかったはずだ

10年前からこの大聖堂にいるものは他に誰がいる?」


この大聖堂には秘密がある。ウルリッヒはそれを突き止める必要性を感じていた。


「メリーヌ、マナ、タシケントと言うものが古くからこの大聖堂で勤めております。」


「中隊長!保護した教会関係者にメリーヌ、マナ、タシケント、あとマーク助司祭がいないか、確認したまえ。」


「了解しました。」


「この地下礼拝所には秘密の通路があって、バース家の金の製錬所に繋がっていた。それは知ってたのだろう?」


司祭「大聖堂の地下と製錬所が繋がっているだと?!タラント!!どう言う事だ!」


タラント「製錬所と地下礼拝所が、、。いえ、そ、そんな事は知りません。」


ウルリッヒ「10年前の地下礼拝所は見た事があるね?そこには何があった?」


「は、はい。このような像はありませんでした」

タラントは明らかに動揺している。


「何があったかと聞いたのだが? そもそも大聖堂は神とその使徒アーノルドを礼拝する為の聖堂だ。それとは別に薄暗い地下で何を礼拝すると言うのだね。」


「・・・・・。

こ、この地は古より海の神の信仰がありました。その海の神を礼拝するのが地下礼拝所です。」


「やはり知っていたか。この悪魔の像が海の神だと、、、。 そう言う事だな?」


「・・・私は詳しくは知りません。」


「では知っている事から話してもらおうか?」



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