第107話 ウルリッヒ連隊
インストスでの暴動への対処のため近衛騎士団は2つに分けられ派遣される事となった。
先発隊として準備が進んでいたウルリッヒ連隊約1000名(騎士400 補助兵・兵站関連兵600)
マチルダと共に向かう後発隊としてテレンツィオ連隊約1000名
1連隊の騎士は約80名の5個中隊。1中隊は20人の4小隊で構成されている。
小隊長以上は全て爵位持ちであるので 一連隊にはざっと騎士爵(もしくは男爵)だけで20人はいることになる。
連隊の半分以上は補助兵で、貴族の子息ではない平民はほとんどはこちらに配属される。
近衛騎士団は規模が大きいため、皇国各地の貴族の子息から騎士を目指す者を集めているが、平民でも補助兵として優秀だと認められれば騎士へ取り立てられることも多々ある。
ウルリッヒ連隊で中隊長を任されるアレクシスも平民上がりであったが、働きが認められて騎士爵を得ていた。
「連隊長。ご報告です。先遣小隊が帰ってまいりました。やはり街の各所で煙が上がっており、街は暴徒で混沌としているとの事。代官城まで街中を進むと戦闘は避けられないと思われます。」
「そうか。ご苦労。引き続き頼む」
ウルリッヒ連隊長と馬を並べる副連隊長のリーゼルは、アレクシスの報告を聞きそう労いの言葉をかける。
「連隊長、如何さないますか?」
「まずは子爵に会うしかあるまい。マチルダ副団長からは後続隊が来るまでは無駄な戦闘は避けるよう仰せつかっている。街を突っ切るが逃げるものは追わなくて良い。」
ウルリッヒは赤茶の頭髪と尻尾を持ち、46歳になった今でも筋肉は衰えず今が全盛といった迫力をもつ半狼人族の男性で、アルムガルト伯傘下のヴァッリ子爵の3男である。
彼が近衛騎士団を選んだ理由は単純に仲のよくない次男である兄がアルムガルド伯の抱えるゲブルト騎士団に入ったので、兄とは違う近衛騎士を選んだと言う単純なものではあったが、剣と槍の腕、そして何よりその判断力と統率力が認められ、今では連隊長というポジションまで登り詰めていた。
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「これは酷いありさまだな・・。」
夕方、日の入り間近にインストスの街に入ったウルリッヒは想像以上の惨状に唖然とする。
街の至る所で炎と煙が上がっており、さまざまなものが道には散乱し中には死体も転がっている。
暴徒の多くはその手には武器になるようなものを持っているが、ほとんどは騎士団を見るなり走って逃げ出した。
「もうすぐ日暮だ。今日は代官城周辺で一泊するぞ。戦闘は出来る限り避ける。逃げるものは無視しろ。」
ウルリッヒ連隊は薄暗くなりつつある街を西に向けて進軍するが、抵抗に遭うことはなく、ほとんどの暴徒はそれを見て身を隠すだけであった。
****
ウルリッヒが代官城の屋敷に入ると、その屋敷の主人たるルマイン子爵が近衛騎士団がくるのを今か今かと待ち構えていた。
「駆けつけてくださりありがとうございます!!!」
「失礼致します。近衛騎士団連隊長のウルリッヒと申します。」
「本当にどうしていいものか分からず、ウルリッヒ殿が来てくれて本当に助かりました。
ああ、私はこの街を預かっておりますエイドリル-ルマインです。街の様子はご覧になられましたでしょうか?」
「もちろん。至る所で火の手が上がっていました。酷い有様ですね。」
「私の兵は少なくこの暴動を抑えることはできませんでした。いや暴動を止めようものならこの城にまで押し寄せてきたでしょう。近衛騎士の皆様には早速動いていただけるのしょうか?」
「私は先発隊としてまずは子爵の身の安全を第一にと申しつかってきました。まずはこの城の近辺の治安を回復しましょう。
もう日が暮れましたので暴動を鎮圧するのは後発隊が来てからとさせていただきます。
我が兵の拠点をこの城にさせていただいてよろしいでしょうか? もちろん全ては無理ですので兵站拠点と指揮所を置かせていただきたいと思います。」
「この城は皇帝陛下の城でございます。当然ご自由にお使いくださいませ。エトワス。騎士団の要望を聞いて手配しろ。」
「かしこまりました」
「暴動の鎮圧なのですが、実はインストス大聖堂が賊に占拠されてしまいまして、ダニエル司祭より早急に取り戻してほしいと要望が来ております。
インストス大聖堂はこの街の信仰の礎であり宝です。今から奪還いただくわけにはまいりませんでしょうか?どうかお願い致します。」
そういうとルマイン子爵は深々と頭を下げる。
「ルマイン卿、頭をお上げください。真聖教を守るのも我が騎士団の役目です。大聖堂が焼かれるようなことになれば神罰があるやもしれません。では後発隊を待たずに奪還いたしましょう。」
「ありがとうございます。よろしくお願い致します。」
「リーゼル!!騎士3個中隊と補助兵2個中隊を準備しろ、今から大聖堂を奪還する。残りは子爵邸付近の治安維持と警備だ。」
「了解しました。すぐ準備に入ります。」
*********
「カイト!!起きろ!!近衛騎士団のマチルダ副団長が俺たちを呼んでるぞ!!」
ドアの向こうからウインライトの声が聞こえて、僕は目を覚ます。
ベッドの上で寝ていた僕の肌はずいんぶん汗ばんでいた。どのくらい寝ただろう。
窓の外はまだ明るいが少し赤みがかっているのでそろそろ夕方くらいだろうか?
僕は早朝に近衛騎士団に押しかけた後、寮に戻って爆睡していたのだ。
「わかった。すぐ着替えていくよ。」
「早くしろよ!武装もしてこい!インストスが大変なことになってるらしいからな!」
インストスが大変なこと・・・。そういや僕たちはインストスから逃げるように馬車を走らせて帰ってきた。そのあとどうなったかはわからない。
もしかすると魚人と住民で殺し合いでも起きているのだろうか?そこまで魚人がいるとも思えないけど・・。
急いで支度をし、寮のエントランスまで来るとウインライトとカトリーヌの姿が見えるが、その前に美しい白銀の鎧を身にまとったマチルダ副団長と2名の騎士が真剣な表情で僕を出迎えてくれた。
「カイト君、寝ていたところすまないね。ウインライト君から聞いたと思うがインストスで暴動が起こった。我々は急ぎ鎮圧に向かわねばならないが、それに君たちも同行してほしい。」
「暴動!?インストスで暴動が起きたのですか?」
「ああ。どうやら魚人が街に現れてな、それが暴動に繋がったと言う話だ。」
「そんな事が起こるなんて・・。もちろんご一緒します。そのために装備は整えてきました。」
「ありがとう。もちろん、君たちは魔法学園の大切な生徒だ。危険なことをさせるつもりはないが、魚人や悪魔崇拝がこの騒動に関わっているとすれば真相解明に知恵を借りたい」
「お兄様は?」
「ゲイル君ももちろん来てくれている。アビー君とリオニー君には声をかけていないが、どうする?」
「いえ、彼女達も疲れているでしょうし、今回は僕とウインライトだけでいいでしょう。
カトリーヌ。後のことはたのんだよ。寮にいるリオニーに伝えておいてくれる?」
「かしこまりました。カイト様。お気をつけて。」
「うん。じゃあ行ってくるよ。」
「カトリーヌ。カイトのことは任せてくれ。俺がついてるから」
ウインライトがカトリーヌの肩にポンと触れる。
「あっ。はい。お願い致します・・。ウインライト様もお気をつけください。」
うちの侍女を呼び捨てですか!?
ウインライトさんなんだか馴れ馴れしいんですけど〜!!
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