第104話 近衛騎士団城の3人

近衛騎士団の本部の一室。

騎士団長アルフォンス、副団長のマイケルとマチルダの3人の幹部が丸テーブルの前で神妙な顔をして向き合っている。


「それで?その魚人ってのは本当に存在するのか?」


「団長も後でご覧いただければと思います。魚人は鱗と水かき、エラを持った人族の姿をした化け物です。」


「俺も今年で64だ。いい年まで生きてきたが魚人なんて聞いたことがないぞ。」


「私も聞いたことがありません。しかし死体が持ち込まれたのであれば本当にいるのでしょう。後で私も見せてもらいます。」


今年52歳になる副団長のマイケル-ターラントは栗色の髪と整った容姿をもち、その話し方は紳士そのものだが、子爵家の出から叩き上げで副団長まで上り詰めた剣と雷魔法の使い手の勇士である。


「しかし、インストスの街はロンドアダマスの海の玄関口だ。そんな街で魚人が繁殖しているというのか?信じられん話だな。」


「通報者のゲイルとカイトはエリザベス殿下の襲撃の調査で何度か私自身が取り調べしています。

彼らはドレイン家の人間ですが、その取り調べに対しても協力的で、非常に理路整然としておりました。

私の見解では2人とも信用できる人物と考えています。」


「嘘はついていないと考えている。そう言う事だな。」


「はい。嘘をつく理由も思い浮かびません。」


「魚人族が人間族の女から生まれると言うのも理解できん。人間や半狼人から狼人が生まれる事はない。」


「彼らの話によると、魚人と人間との間に生まれたハーフの女性は魚人の姿にならないとの事です。

ですので秘密裏に街で繁殖が行われていると言っておりますが、これについては実際に調べてみないとなんとも。」


「私はドレイン家が信用できるとは思いませんがね」


マイケル副団長はそもそもドレイン家を信用していない。

と、言うよりも近衛騎士団はドレイン家の権勢を憂慮しているためドレイン家を信用できると思っているものは少数派である。


「確かにドレイン家は信用できねえが、マチルダ。お前さんを俺は信用している。

その2人の話は真実だとしてだな、しかし何故そこまで深入りする?

下手をすれば教会とひと騒動起こす危険を犯して調べたって事だろ?」


「ごもっともです。それは今からお伝えしようと思うのですが、ここでの話は内密にしていただく事を条件にゲイルから理由を聞いています。この場の3人だけの話ということでお願いします。」


「お前さんを信用すると言ったはずだ。お前さんがそう言うなら内密にしよう。ただし皇帝陛下から訊ねられた場合は別だ。まあ皇帝陛下から訊ねられることはないとは思うがね。マイケルもいいな。」


「もちろん。私は口が硬いことが取り柄です。」


「では、彼らがインストス大聖堂を調べた理由ですが、ゲイル達はパオロ大司教がインストスでの魚人の繁殖に関与していると考えているからです。」


「あのパオロ大司教が絡んでるってか?」


「パオロ大司教がなぜ?? そもそもドレイン卿とパオロ大司教は蜜月の仲なのではなかったか?ゲイルがそれを暴く意味がわからない。」


「だからこそ内密にして欲しいのです。

はっきりとは言っていませんがゲイル達の目的はパオロ大司教の失脚だと思われます。」


「パオロの失脚!?大司教を支えているのはドレイン家だと言うのにか?」


「そうです。ゲイルはエリザベス皇女殿下を襲ったのもパオロ大司教だと考えているようで、ドレイン家の関与も疑われかねない状況を憂慮しています。

そしてインストスでの魚人と悪魔崇拝もパオロが関わっているとすれば、将来、次期皇位争いが本格化した時にその事が発覚するとドレイン家にとって大きな痛手になり得ます。」


「なるほど。」

「その前に切りたいと?」


「しかし今は、父のドレイン卿とパオロ大司教は非常に深い関係です。ドレイン卿はパオロの持つ教会の力を必要としているので、この蜜月は維持したいでしょうし、そうやすやすとパオロを切るはずもありません。」


「面白い。父親に大司教を切る材料を提示したいのだな。確かに全て明るみになれば、ドレイン卿は判断を迫られる。陛下や枢機院と対立して擁護するか、切り捨てるかな。」


「ゲイルの狙いはまさにそこでしょうね。

であれば危険を犯してインストス大聖堂を調べる価値はあります。」


「そこまで聞き出すってのは、さすがマチルダだな。お前さんでなければそんな重大な事を敵になり得る近衛騎士に話などできんだろうよ。」


「エリザベス殿下襲撃事件の犯人の一人がパオロ大司教の司教区の孤児院出身だったと聞きいてはいましたが、

ゲイルとカイト・・・ドレイン卿の息子達はパオロ大司教が裏で糸をひいていると?」


副団長のマイケルは驚きを隠せない様子で聞いた。


「そうですね。皇女殿下の件は私もパオロ大司教が怪しいと睨んで調査を進めていまして、その孤児院出身の容疑者は明日にでも身柄を捕える予定です。」


「エリザベス殿下の襲撃の件と今回の魚人の件がパオロで繋がると言うことだな。

よし、マチルダ。この件もお前さんが調べろ。ウルリッヒ連隊を連れて明日インストスに向かえ。枢機院・・チャールズ-ウェッブ枢機卿には私から伝えておく。気にせず大聖堂の地下も調べろ。」


「わかりました。今から準備させましょう。

それと、ゲイル達がその大聖堂の地下で魚人と交わっていた女を証人として連れてきています。その女は魚人と人間のハーフとの話ですが、姿は人間族そのものです。今は意識が混濁している状態ですが意識が戻り次第情報を得る予定です。」


「魚人とのハーフの女を既に確保しているのですか。その女が人間の姿なのであれば、どうやって魚人とのハーフだとわかるのですか?」


「人間族と姿は変わらないのですから、見かけだけではわからないでしょう。本人に聞くしか、、。

あと、魚人とのハーフの男性も生まれた時は人間族と姿は変わらないとの話でして、、。」


「生まれた時は・・と言うことは途中で変わるってことだな。」


「そのようです。ハーフの男性はいつの日か突然魚人に変わると言うのですが・・。にわかには信じられません。どちらにしろ魚人の死体を確保していますので、今から一緒に確認に参りましょう。」



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