第101話 石像
※※作者です。
お読みいただきありがとうございます。感謝感謝です。
前話もおかしな部分を発見修正しております。
公開する前に直しているつもりなのですが、目も手も節穴だらけでして。
さて、100話でやっと伏線のHPラヴクラフト神話系話が入ってきました。
序盤の「神の呼び声」でそれっぽい伏線を引いてたけど全くその後は音信不通で申し訳ありません。
とは言え、見え隠れする感じで進ませるつもりなので、ガッツリそっちにはいきませんがご了承ください。
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ゲイルの灯す火によって僕たちの目の前には池のように水に満たされた洞窟が映し出されている。
地底に水が溜まっているだけなら鏡のように水面は穏やかなはずだ。しかし、その水面が小さく波打っていることからも海に繋がっていると思って間違いないだろう。
もし海の中に
僕たちは急いで通路を戻り、先ほど女の声が聞こえていた出入り口に入ると、そこは壁に漆喰を用いた広々とした部屋であった。
部屋には粗末ながら火を起こすかまどやテーブル、クローゼットらしきものが備え付けられ、ここが人が住む場所だと言うことがわかる。
だが、磯の匂いが漂う湿気たその部屋の壁の漆喰はところどころ剥がれ落ち、ぬるっと湿った汚い床とどす黒く汚れているベッドは住環境としては最低と思わざるを得ない。
そのどす黒く汚れたベッドの上には浮き出るようなギョロっとした目と黒ずんだ皮膚を持つ醜い女が裸で横たわっていて、入って来た僕たちに怯えた表情を見せていた。
「こ、殺さないで・・」
裸の女が怯えた声を上げる。
「殺すかどうかはお前の態度次第だ。従順に質問に答えるなら殺さないと約束しよう。」
「何でも答えます。答えますので殺さないでください。」
「お前の名前は?」
「ブラウニー・・・ブラウニー-バース・・です。」
「良い返事だ。ではお前の父親と母親の名前は?」
「母はチェリー・・・チェリー-ウイリス、父はトマク-バースです」
「父は魚人か。」
「・・。父は神の使徒たる深きものです」
「お前は今魚人と交わっていたな? 誰だ。」
「トマク-バース・・です。」
「近親交配か・・。」
「深きものは永遠の命を持つ神の使徒です。その子を産むのが私の・・使命・・なのです。」
女が暗い声で答える。
「パオロ大司教は知っているな」
「パオロ大司教様には深きものへ理解くださり私の育ての父もとても感謝しています。」
「そうか、その話を詳しく教えてくれるか?」
「あなた方は・・・? パオロ大司教の配下のものではないのですか?」
「ああもちろんパオロ大司教の配下のものだ。」
「では何故そんな事を聞くのですか?」
「パオロ大司教は魚人が増えすぎていると憂いてらっしゃるぞ。」
「そんなことはありえない・・。パオロ大司教は神の使徒たる深きものの繁栄に力を貸してくれていたはず・・・そんな・・・!?」
「何のためにパオロ大司教が力を貸していたのか?を聞いてるのだ。さっさと言え。
この炎の杖で炭になりたいのか?」
ゲイルは魔法具の杖を女性に向けると、女性の顔が引き攣る。
「ヒッ・・。お許しください。・・ダゴン神の願いを聞き遂げること・・クトゥルフ神の復活・・パオロ大司教はその事に協力してくれていたのではないのですか?」
「よし、今から皇都にお前を連れていく。そこでお前が正直に全てに答えると言うなら命は助ける事を約束しよう。そうでなければ先ほどの魚人のように処刑される事になる」
「お願いです。なんでも話します!命だけは助けてください。」
「では服を着ろ」
「あ、ありがとうございます!」
「この女は大事な証人だ。連れて帰るぞ。
ウインライトは女が服を着るのを手伝え。私と一緒に彼女を連れていくぞ。」
ゲイルは薄汚れたシーツをベッドから引き剥がすと剣で切り裂き紐状にしていく。
「カイトとアビーは先に反対側の入り口の祭壇に向え。祭壇にあるクトゥルフ神の石像を運ぶんだ。石像は重要な証拠になる。」
「わかりました。」
「彼女を保護するのかしら?」
「保護ではない。証人だ。」
「わかったわ。」
僕はアビーと共に通路を挟んだもう一つの入り口に入った。
中は広い洞窟になっていていて、かなりの数の蝋燭が灯っている。
ただ、その洞窟には何かが腐ったような匂いが漂い、吐き気を催すような気味悪さがあった。
広間の左右にはいくつかの扉があり、正面の奥には異国の祭壇のようなものがある。
祭壇のような場所に蝋燭の多くが集まり、中央の石像を照らしている。
また、その石像の左右には金色に輝く金属の棒が積み重ねられていた。
おそらく金塊なのであろう。バース製錬所で金塊になったものなのか、それとも・・・。
いや、金塊はこの際どうでもいい。
ゲイルが「クトゥルフ神の石像」と言っていたものを運び出す必要がある。
石像は真四角の台座に屈んで立つ悪魔ような生き物で、高さは50cm〜60cmほどのさして大きくはない像ではあった。しかし、その存在感たるやこの広い洞窟を恐怖で支配するかのような何か得体のしれない威圧感を感じる。
また、その石の色だが、黒緑色だろうか?蝋燭の灯りで色までははっきりとわからないが漆黒とは違う黒々ととした色をしていて、台座に刻まれた文字や像の目や筋などの切れ目が金色に輝いている。更によく見ると石全体に細かな金色の斑点が無数に散らばっているのがわかる。
そして像そのものは人のそれに近い四肢を持つ形をしているのだが、頭は蛸にそっくりで、その頭には鋭く凶悪さを感じる目が金色に輝いている。そして口のあたりからはいくつもの触手が伸び、一部は頭の上に跳ね上がり、一部は足元まで垂れている。
悍ましい頭に繋がる胴体は鱗が覆っており、そこから伸びる腕は異様に長く、腕の先の鋭く伸びた爪が人とは違う凶暴さを示していた。
極め付けは背中から生えている翼だろうか。まるでコウモリのような翼・・元の世界でイメージする悪魔の翼ようなものが広がっている。
この石像を見れば見るほど、僕はなんとも言えない・・悍ましさ・・心の底からくる恐怖を感じてしまう。
「な・・なにこれ・・・。これが神様だって言うの!?」
「・・・。神様なのかな?? いや神様が体を分けた使徒だと旧教の本に書かれていたけど、これがそのク-リトルリトルなのか、ダゴンなのかは僕にはわからない。
ゲイルはクトゥルフ神と呼んでいたけど・・。
神様の分身がこんなに恐ろしい姿をしているはずがないと思う。」
僕はこの悍ましさしか感じない生き物が立つ台座の外周部に繊細に彫られている金色に輝く様々な文字に目を向ける。この台座の文字が解読できればこの石像が何を表すのかがわかるはずだ。
文字には見覚えのある印象・・一見ルーン文字かと思ったが・・
僕が知っているルーン文字も漢字もそこにはなかった。
また違った象形文字なのだろうか?
それともルーン文字には物凄い数の文字があってそれが使われているのだろうか?
この石像が悪魔崇拝の証拠となるのかもしれない。ゲイルに言われたように持ち出そう。
「アビーは反対側を持って。運ぶよ」
僕とアビーはゆっくりと持ち上げるが石像はかなりの重さで、これを2人で持って階段を上がるのはかなり苦しそうだ。
「まて、いったん下せ。奥の部屋は調べたのか?」
ゲイルがウインライトと先ほどの部屋にいた女(女はシーツで猿轡をされ、腕はロープで拘束されていた)と共に祭壇の洞窟に入ってきた。
「いえ、まだです。」
「そこの金塊には手を触れていないな?」
「金塊!!?そんなもんがここにあるのか?!」
ウインライトが金塊と言う言葉に反応して祭壇に走り出す。
「本当に金塊だぜ!!これで俺も大金持ちだ!」
「金塊がどのくらい重いかしっているか?運んでいる間に魚人に殺されるぞ。」
「一本くらいいいだろう。・・・ゲッ本当に重いぞ。」
「石像を運ぶのも一苦労だ。やめておけ」
そういうとゲイルは扉を一つ一つ開け中を確認していく。
「ここがどうやらバースの工場につながる通路のようだな。」
「お兄様、教会の地下がバースの製錬工場に繋がっているんですか!?」
「ああそうだ。
「じゃあ、この
「ここに
・・・バシャ!・・・
そんな話をしていると、魚人がいた通路の方から水の音が聞こえた。
「まずい。奴らが帰ってきたな。仕方がない。工場側から外に出るぞ。」
「石像はウインライトも手伝ってやれ。私は火を灯しつつ女を連れていく。」
****
祭壇の右奥にあった扉の先の通路はかなり長く、重い石像を運んでいるため途中で何度か休憩を挟みやっと上に登る階段にまで辿り着いた。
「ゲイル。これは本当に必要なの?すごく重いわよ。」
「ああ。必要だ。邪教崇拝の証拠になる。」
「これを馬車まで運ぶにはあと一人は欲しいわ」
「そんな人手がどこにある。急ぐぞ」
「これから階段を登るんだからもう少し休憩させてくれよ。」
「そうね。階段で力尽きたら石像が木っ端微塵になるわよ。」
僕たちはそういって石像の横に腰を下ろす。もう腕と足腰がパンパンなんだ。
ドン・・ギィー・・・ベチャ ベチャ・・・
通路の奥で扉が開く音と湿った足音が聞こえた。魚人が追ってきたのだろう。
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