第97話 再びインストスへ

暑い日差しが降り注ぐ道を馬車2台を並べて走る事4時間強ほど。

僕はゲイル兄様と共にインストスの街に戻ってきていた。


海水浴をした砂浜より少し内陸部、河口といってもほぼ海なのだが、その海に面した少しだけ切り立った崖を土台としてインストス大聖堂は建てられている。


ゴ〜〜〜ン


ゴ〜〜〜ン


僕たちが馬車で到着した時がちょうど14時だったのだろう。大聖堂の鐘が耳をつんざくような大音量で町中に響いていた。


大聖堂は四角の箱を2つ積み重ねたような形をしているのだが、今響く鐘の音はその下の箱にあたる建物の北西側の角から伸びる鐘撞塔からのもののである。


「ここか。お祖父様が金を出しただけのことはある。立派な大聖堂だな。」


「お祖父様??」


「カイト様、カイト様はドレイン家にはほとんど滞在していなかったのでご存じないでしょうが、カイト様のお祖父様であられるデイマン様は12年前に亡くなられています。」


カトリーヌが僕に囁いて教えてくれた。そうそう。お祖父様は息子(ヴァルター:現方伯)に毒殺されたんだったね。

僕が疑問符を付けたのはお祖父様とこの大聖堂の関係なんだけどね。


「お祖父様は私が幼少の時に亡くなったそうだ、私もあまり覚えていない。

お祖父様はパオロの父親であるアウリオ大司教と故意にしていたらしく、この大聖堂を作るために多額の寄付を大司教にしている。」


「そうなんですね。お祖父様の話は初めて知りました。」


「やっぱりドレイン家はレベルが違うわね。自分の領地でもないこんな街の大聖堂建立に莫大な金を出すなんて」


アビーが呆れたような声を出す。


「これドレイン家がたてたんかいな!!うちの実家の街にも大聖堂立ててや!!」

リオニーは寝言を言っているのであろうか?


「インストス大聖堂建立資金の半分はルーベッド・メルシュ商会が、残りのほとんどはお祖父様が出したそうだ。

それだけお祖父様とアウリオ大司教は持ちつ持たれつの関係だったということだ。それが父とパオロになっても続いているのだ」


「パオロって呼び捨てかいな。なんかあったんか?」


「すまない。パオロ大司教を私は好いてはいないのでね。」


「ゲイルが私に謝ってくれるん?!意外すぎやで。いい男度プラス100点やな」


いい男度??それは何点満点なのかな?


「はははっ 私は酷いナルシストと思われていたらしいな。」


「いや今も十分ナルっぽいぜ。ちょっとおっさん臭いけどな!」


ウインライトは良いところを突くな。実際に中身は40代のおっさんだぞ。


「さて、ここからどうします?お兄様」


「ここに用があるのは夜だ。まずは商会の港近くの飲み屋で聞き取りをしたい。

制服や高級な服は着てくるなと言ったのは素性を隠したいからだ。革鎧を用意しているのでそれを着ろ。若い傭兵という事にしておく。

あと、基本的にはお前たちは話さなくていい。下手な事を話せば疑われるからな。若い女は目立つ。ひと足先に宿にチェックインしていてくれ」



********



ルーベッド・メルシュ商会はこの街の商業のみならず街を支配する権力を持つ商会だ。

ロンドアダマスという超大都市を側に持つ港町という地の利もあり、莫大な富を築いているという。


その港には倉庫が建ち並び今も船が接岸して荷揚げや荷下ろしが行われている。その港に程近い場所には何軒か飯屋というか飲み屋が軒を連ねていて、中に入ると昼だというのに、多くの男たちで賑わっていた。


「いらっしゃい! 飲み物は何にする?」

「エールを3つ頼む」


「お兄ちゃん若いのに傭兵かなにかやってるのかい?」

椅子のない立ち飲みの店だからだろう。まだエールも来てないのに、すぐに隣にいた薄汚い格好の男が声をかけて来た。


「そのとおりだ。商隊の傭兵をやっている。この店は何がうまいんだ?」


「そうだな。ドローニという魚を煮込んだスープが俺のおすすめだ。なんにしろ海辺の街だからな魚料理が美味いぜ。

で、どこから来たんだい?」


「そうか。では後でドローニという料理を注文しようか。私達はリブストンから来た。」


「リブストン? リブストンからの船は良くくるけどな。馬車でわざわざここまでくるとはね。大きい商会なのかい?」


「ロンドアダマスに来たついでに寄っただけだ。商会は大きくはない。」

「そうですね。まだリブストンでは駆け出しの商人でアルフレッド商会ってところに雇ってもらっています。」


僕はフォローのためにアルフレッドさんの名前を出しておいた。信用性が高くなるでしょ?


「そうかい。商会も駆け出しなら傭兵も駆け出しってか。はははっ」

男は笑うとエールをグビグビと飲み干した。


そこにエールを持った太った年配の女性がやってくる。

「あいよ。エールのジョッキ3つね」

ドン、とエールが置かれる。


「メグ姉さん。俺ももういっぱいもらうぜ。それと、この子らはドローニ3つだ。」


「ああ。その男のエールはこっちにつけといてくれ。」

「おっ!いいのかい?兄ちゃん。その若さで稼いでいるのかい?」


「そうだな稼ぎはいいぞ。剣の腕を見てみるか?」

ゲイルは腰の剣を少しだけ抜く。


「おいおい。ここじゃ剣は抜くなよ。まあ遠慮なくエールはいただくけどね」


「おっしゃ!エールが来たから飲もうぜ兄貴」

ウインライトがゲイルを兄貴と呼ぶのは初めから決まっていたことだ。僕とウインライトはゲイルの子分という設定だからね。名前は呼ばないルールだ。


「じゃあ!まずは乾杯!!ゴクゴクゴク。ブヒャー!!やっぱ夏はエールに限るなあ。」


僕たち3人で杯を突き合わせると、ウインライトが豪快にエールを喉に流し込んでいく。

よっぽど喉が渇いていたのだろう。


ウインライトがとても嬉しそうにエールを飲むので、僕の喉もなる。

ジョッキを口につけ泡の奥にある黄金の液体を喉に流し込む。うまい!!暑い夏はエールに限るね!


「お姉ちゃんあと3つ持ってきてくれ!!」

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