インストスの闇
第96話 ゲイルの考察
カイトが転生者・・。
水着を見た時には驚いたが、転生者だと言うのは今日の今日まで考えてはいなかった。
カイトがパオロの手先ではないということは薄々わかっていた。パオロの手先では考えられない行動と言動だったからな。
しかし、まさか転生者だとは。
それで合点がいった。
ゲーム「ルーンレコード」には全く登場しない人物が、いきなり基本の5属性に再生魔法まで使える天才として現れたことも転生者という一言で何故か腑に落ちる。
ここで考えなければならないのは、彼がルンレコを知っているか?という点だろう。
ルンレコを知っているのであれば、彼のパオロへの敵対心も納得できる。
パオロは皇都のみならず皇国を滅ぼしえる災害と言って過言ではない悪魔を呼び出した張本人だからだ。
しかし、そうなると辻褄が合わなくなるのが、ゲイル《わたし》への好意だ。
ルンレコではパオロと並ぶ、いや、プレイヤーにとってはそれ以上の敵になるのがゲイルであり、ゲームをプレイしていたなら明らかに敵対心や嫌悪感を滲ませるはずなのだ。
しかし、カイトは最初から兄への憧れの態度をとっていた。そう、本当の兄だと思い込んでいる表情だった。
であればルーンレコードのプレーヤーでは無い可能性が非常に高い。
ルンレコとは関係ない日本人高校生と考えるべきだ。
アビーに聞けばわかることだが、カイトは本当に調査の結果パオロの真相に近づいたのだろう。
さて明日の調査だが、インストスの街に「神の呼び声」の支部がある。大聖堂の地下がその集会所となり、秘密の儀式が行われる場所になっている。
秘密の儀式といっても深きものの血を引く女性が増えているのであれば、おそらく、常にその女性と深きものが何人かいるのではないだろうか?
もともとインストスの街には古くにアーブル大陸から移り住んだ海洋民族が持ちこんだ海洋信仰が根付いており、海の神ダゴンが信仰されていたのだが、
その街でルーベッド・メルシュが商会を立ち上げ莫大な富を得る事が出来たのも悪魔ダゴンと契約を結んだからだ。
その契約とは眷属である「深きもの」の繁殖と引き換えに海底で取れる金や大陸では手に入らない宝石を得るというものだったはずだ。
そしてルーベッドは「深きもの」の繁殖のためまずは家族を巻き込み、さらには子供を嫁がせその先を巻き込みして来たが、商会の力を使って「深きもの」の秘密を隠していたわけだ。
この辺りは、私が積極的に取り入れた設定ではなく、ゲーム制作チームにアメリカの怪奇小説家ラヴクラフトの生み出した空想神話に詳しい者がいて、その設定を取り入れようと言う事になったのだ。
日本ではこのラヴクラフトの神話は人気で、ことあるごとにゲームやラノベなどの魔物に使われている。
這いよれニャル○さんなる名前のラノベ→アニメまであった。
骸骨が帝王になる大ヒット作オーバー○ードでもラヴクラフトの作中に出てくる悪魔が呼び出されていた。
ゲームにそういう流行りを取り入れる事は重要だ。だからその悪魔の設定は詳しいやつに任せることにしたので、私時自身は詳しい設定や裏設定まではよくわからない。
パオロの父アウリオ大司教がどこにいったのか?そんなことは知らない。本当にそんな不必要な部分まで設定されていたかも怪しいものだ。
あたりまえだが深きものの繁殖が住民に知られると大騒ぎになる。下手をすれば皇国によって悪魔の街として焼かれるかもしれない。
ゲームではパオロが悪魔を呼び出す事になる流れの発端としてインストスの街で深きものに関係する大混乱が起き、実際に近衛騎士団が街を半分焼く事態になるのだ。
だから魚人の繁殖は秘密裏に行わなければならない。
私が覚えている設定では母体となる深きものの血を分けた女性が増えるに従って隠し通す事が難しくなり、この秘密を守るのにルーベッドとルーベッドの跡を継いだローレントは苦心する。そこにパオロの父アウリオが手を差し伸べ、秘密結社「神の呼び声」が生まれる理由の一つになる。
何にしろ、皇都で悪魔が現れるラストへの序章がインストスの争乱なわけだが、カイトの話ではすでに魚人のことが住民の多くに知られてしまっている。
さまざまな事がゲーム通り進んでいない現状を考えればその争乱が早まる恐れもあるだろう。
そもそもゲームの設定などと言ってもそこまで深い事は考えていない。
生まれた子供を一生拘束するわけにもいかない。よくよく考えれば全てを秘密裏に運ぶのは無理な話なのだ。
どちらにしろ、ゲイルに転生した私がやることは父とパオロとの関係を断ち、ドレイン家を第二皇子擁立側に立たせない事だ。
そのためにはパオロと悪魔崇拝が繋がる何らかの証拠を得て、父上・・、いや近衛騎士団、パオロの弱みが欲しい枢機院でもいい。それらに持ち込めば、パオロを失脚させられるかもしれない。
プハ〜〜〜。
タバコを吸うと思考がまとまるな。こればかりはゲームディレクター時代からやめられない。
ゲイルがベランダでタバコを吸い終え寝室に戻ってくると、侍女服姿のエマがそこに待っていた。
「どうした。寝れないのか?」
「ゲイル様、お願いがあります。」
エマがその可愛らしい瞳を潤ませ私に話しかけてくる。
「なんだ。」
「今日だけはヨハンナ様のことは忘れて・・・抱いてください。」
そのエマの言葉を聞いたゲイルは普段崩さない顔を崩しニヤリとした表情を浮かべると、エマを抱き寄せ強引なキスをする。
「今日は色々あったからな。いいだろう。抱いてやる。」
ゲイルの手がエマのスカートを捲り上げ、その奥へと入っていく。
「ゲ、ゲイル様・・・。アッ」
***************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます