第95話 カイトとゲイルの秘密

ドレイン家の皇都邸は皇都の別邸ではあるものの、並の伯爵の屋敷よりも大きく、そして豪華であった。それだけ数多くの部屋があるが、いつもはゲイルの他、使用人5名と警備が5名の計11名しか暮らしていないため多くの部屋が使われていない。


僕はゲイルと共に長い間使われていないであろう来客用の一部屋に来ていた。


「ここなら安心して話ができる。

カイト。お前に少し相談したい事があってな」

「僕もお兄様に聞きたい事があったので、ちょうど良かったです」


「そうか。では私から・・インストスの浜に打ち上げられた魚人のことだ。

魚人がどのように増えるのか?その説明をしたと思うが、それを聞いてお前はどう思った?」


「恐ろしい話ですね。もちろん人間族と他種族の婚姻がダメだとは思いません。しかし、人間が突然魚人に変態するというのは人の種族とは全く異質だと思います」


「魚人が浜に打ち上げられていた。しかし、ただそれだけの事だ。私の話が突拍子もないとは思わないのか?」


「いえ、お兄様を信頼しておりますので。それに、あの後に街の人がやってきてお兄様の話を裏付けるようなことを話していました」


「ほう、そいつはなんと言っていた?」


「ウイリス家の男性が魚人になったと言っていました。しかもウイリス家では2人目だとか。メルシュ家とその分家が怪しいとも話していました」


「そこまでの情報を得ているとはな・・。メルシュ家というのはインストスの街を実質支配する商会の家だ。街に住むものが、そんな権力者を名指しで怪しいなどと言うのは相当な事だ」


「そうですよね。別の住民が滅多なことを言うなと注意してました」


「お前はパオロによって魔法の才能を見定められたと聞いたが?パオロとどんな関係だ?」


「急に何故そんなことを聞くのです?」


「答えられないのか?」


「いえ・・。正直に言ってもいいのですか?」


「そのために聞いているのだ。俺を騙そうなどとするな。正直に答えろ。」


「正直に言うと、大嫌いですね。僕は教会にお金を払って魔法の適正を調べてもらっただけです。それなのに魔法の才能があるとわかったらパオロ大司教がしゃしゃり出てきて、僕を修道院に入れようとしました。しかも私の剣の師匠の娘も一緒にね。」


「・・・・。それは初めて聞いた話だな。それでどうしたのだ」


「もちろん断りましたが、力ずくでも修道院に入れるような話をするので、正直に父上はドレイン方伯だと言うと態度が急変しました。本当に嫌なやつです。」


「なるほど。私は少し勘違いしていたようだ。お前がパオロの手先の可能性も考えていたからな。」


「あのパオロ大司教の手先!?ないないないですよ。あんな悪魔崇拝者!」


「悪魔崇拝者?!?どう言う意味だ。」


「あっ・・。ハハハッ・・・。

そうそう。実はあの後ですねえ興味を持ってしまったのでインストス大聖堂にいって司祭とお話ししたんです。

するとインストスの街では昔はダゴンと言う悪魔を崇拝してたって言うんですよね」


「なっ・・・。そこまで・・。」


「魚人のことを話したら話を濁していましたが、あの大聖堂はなにかあります!お兄様!」


これで、なんとか誤魔化せたかな??


「他には何と言っていた。パオロが悪魔崇拝者だといったのか?」


ゲイルが厳しい視線を僕に向ける。


迂闊にもパオロが悪魔崇拝者だと言ってしまったのがとても気になっているらしい。


「いえ、司祭はパオロ大司教が悪魔崇拝者とはいっていませんが、パオロの父親のアウリオ大司教がインストス大聖堂を建てたといってましたね。

しかも、悪魔であるダゴンを神聖だとかとんでもない事を理由に建てたらしいですよ!」


司祭はそんなことは言っていないが、カイトはこう言う嘘は大得意だった。


「なに?!パオロの父親のことも聞き出したのか?」


「しかも、アウリオ大司教は10年前に行方不明になっています。それもインストスの街のドンであるローレント-メルシュと一緒にです。」


「お前はもうそこまで調べたというのか!?」


「はい。かなり苦労しましたが、頑張りました。」


「ちょっとまて、カイト、お前はなぜそこまでインストスの魚人にこだわる??

お前は学園に来るまでは何処の馬の骨かわからない女の子供だろう。」


「兄上、良い質問です!!

僕は何処の馬の骨ともわからない女の子供です。しかし、パオロの奴は私を奴隷にしようとしました。許せません。

しかも!!・・僕の読みでは、奴の父親であるアウリオ大司教はダゴンと言う悪魔の崇拝者です。そして魚人・・「深きもの」も崇拝していました。

そして10年前にインストスの大富豪ローレント-メルシュ氏と共に行方を眩ましました。おそらく行き先はホッシュエル国です。彼の地で悪魔信仰のさらなる深淵を求めたと考えています。」


「・・・・・・」


「では、インストスの悪魔崇拝は誰が引き継ぐのか?!もちろん息子で跡を継いだパオロしかいません。奴は父の後を引き継ぎ悪魔ダゴンの崇拝を続けている!そう考えます。」


僕は名探偵コ◯ンになったかのように鼻高々で推理を語る。


「・・・・。」


僕の推理が凄すぎて声も出ないゲイル兄さん。

フフフっ これでパオロが悪魔崇拝者だとうっかり言ってしまった理屈も完璧だ。

疑いは晴れた!



「・・・・。」



「ど、どうでしょう・・・・。」




「君は、ゲームプレイヤーか?」


「はい??!」


「ルーンレコードのプレイヤーかと聞いている。」


ゲッ。これはちょっと確信に迫りすぎたのか!?

もしかしなくてもルンレコのプレイヤーだった転生者だと怪しまれている!!


「ルーンレコード? 魔法具を作る作業のことですか?」


「違う。お前はプレイヤーではないのか?」


「は。はあ・・?」

演技は完璧だ死角はない!


「では、水着はどうやって思いついた・・・。」


「えっ、それは前に言ったように・・目のほよ・・お、泳ぎやすいように・・。」


「フフフッ・・嘘だな。目が泳いでいるぞ。」


しまった詐欺師の才能があると自惚れていたが、水着の話は何故か堂々とできない!?

アビーの水着姿が脳裏に焼き付いているからか?


「日本と言う国は知っているか?」


「!!!!

わ、ワタシ・・ニホンゴワカリマセーン!」


「日本語??そんなことは一言も言っていないのだが・・。」


うわーしまったー!!水着の事で心が動揺してしまった!!

もうだめだ誤魔化しきれない!!!


「は、はい。日本と言う国を僕は知っています・・・。」


「お前は日本人なのか!!?」


「と、言うことは!?ゲイル兄様も日本人の転生者なのですか?!!!」


僕は盛大に驚いて見せる。日本人である事はバレてもラノベの事ははぐらかすのだ!

よし調子が戻ってきたぞ!


「日本人がもう1人・・。転生者は私だけではなかったのか。

ではお前はルーンレコードをプレイしていて転生したと言うことだな?」


「えっーー!!!本当にお兄様は日本からの転生者なのですか?! すっごく嬉しいです!!!

日本人に会えるなんて!しかもお兄様が同郷だったなんて!!」


「・・・・。質問に答えろ。」


「い、いえルーンレコード??それがどんなゲームか知りませんし・・。

もちろんやった事もありません。」


「そんなゲームは知らないというのか?」


「僕の中には2人の記憶が混じり合っています。日本の高校生だった僕と貧しい農村で育った僕と。日本人の僕はゲームよりもラノベが好きだったので・・・。」


ルーンレコードというゲームはやった事がない。これは本当だ。

そもそもそんなゲームはラノベの中だけの架空のゲームで、それどころか元のゲイルもその転生者も僕のいた世界では架空の人物だ。


それが現実になっている・・。


ゲイル兄さんが悪役転生ものラノベの主人公だとか、あなたの行動を色々知っているんですぜ兄貴!と言うのはまずいだろう。頭がこんがらがってくる。


を押し通すのだー!

僕は何も知らない日本人転生者だ!!



「お前がプレイヤーではないと言うなら、なぜ魚人にそこまで興味を持つ。なぜパオロが悪魔崇拝者だと言うことにたどり着けた!?」


「いえ、だからそれは調べてわかったことですよ。その、ルーンレコードと言うゲームと悪魔崇拝と何の関係があると言うんですか?」


「ルーンレコードを知らないのなら、いい。私がそのゲームが好きだっただけだ。」


どうやらゲイル兄様はルンレコとこの世界の事、ルンレコの制作に携わっていた事は話してくれないらしい。日本人転生者同士秘密なんて持たなくていいのに〜〜〜。


「それよりアウリオ大司教がなぜホッシュエル国に行ったのだとわかるのだ?」


「いえ、全て推理です。

ホッシュエル国の漁村で海の神とダゴンが信仰されていると図書館の本に書かれていたので、そう予想しただけです。

アビーにでも聞いてください。本当に一緒に頑張って調べたんですから。」


どうだ。本当にパオロの父親のことは知らなかったし、こっちにはアビーという証人もいるのだ!!ルンレコなんてゲームは知らないぞ!


「・・・・・・。そうか。まあお前を全面的に信用することはできないが、しかしパオロを危険人物だと見ている点は信用しよう。

同じ日本人の記憶を持つものとして協力はしてやろう。」


「あ、ありがとうございます。」


「パオロが悪魔崇拝者だということは、私も薄々ながら気づいていた。何度も怪しい集会に誘われたしな。

だが、父上はパオロとの関係は維持したいと考えている。そしてパオロと共に第二皇子を次の皇位につけようとも考えている。そこまでは知っているな?」


「いえ、父上にはそこまではお聞きしていません。パオロ大司教と何らかの関係があるとは思っていましたが。」


「私も父上には危険人物であるパオロと縁を切って欲しいと考えている。そのための手立てが必要だ。パオロの悪魔崇拝の証拠を掴みたい。」


「証拠ですか?」

「お前もパオロが危険だと感じてるのではないか?そこまで調べ上げているのだからな。」


「そうですね。インストスの街で何が起きているのか?そしてパオロは何をしようとしているのか?気になります。」


「では、協力しようじゃないか。夏休暇もあと2日しかない。明日インストスの教会にもう一度行こうと思っているが、お前も来い。」


「やはりお兄様とは気が合いますね。僕ももう一度調べたいと思っていました。」



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