第93話 ドレイン家皇都邸にて1
皇都ロンドアダマスの皇城には3つの出入り口があり、一番利用されるのは正門である西側の門ではなく、貴族街に通じる北門になる。
北門は城壁の上と下の2つの門で構成されていて、城壁の下の門は役人や貴族が城内の役所や大聖堂に向かう時に使うことから貴族門と呼ばれている。貴族門を抜けてから城壁の上にある第二北門まではくの字に道を登っていく必要があるが、北門で馬車が入れるのは貴族門までであり、そこからは皇族であろうと徒歩で上り下りしなければならない。
なので皇帝がこの貴族門を利用する事はなく、皇帝が外出する時は必ず西の正門から出ることになる。
さて、ドレイン家の皇都邸はロンドアダマスの皇城の貴族門を出てから北に200mほどの一等地にあった。
そのドレイン家の皇都邸に今日は父ヴァルター-ドレインが来ている。
「お父様、長旅お疲れ様でした。」
「うむ。 ゲイルよ、少し見ない間に立派になったな。」
「全てお父様のおかげです。」
皇都のドレイン家の屋敷の応接間に腰を下ろし茶を片手にくつろいでいた父は、私が来るとそのカップを下ろし笑顔になる。
父ヴァルター-ドレインは子煩悩な人物だ。特に嫡男ゲイルには無条件の肩入れをするバカ親である。
父を横目に見ながら私は応接間の椅子に腰を下ろす。
「さて、しばらく前にお前が怪しい賊の襲撃を受けたという報告を受けているが、何があったか聞かせてくれるか?」
「お手紙でも書きましたが、レストランから出たところを8名の賊に襲われました。しっかりと統率された手練れ揃いで、かなり危なかったと感じます。
それでもなんとか追い払う事ができたのは、お父様にいただいた魔法具のおかげです。」
「そうか、買ってやった魔法具が役に立ったか。まだ魔法学園1年生だというのに実戦で使いこなすとは、さすが我が息子だ。
しかし、大事にならなくて本当に良かった。」
「お父様に火の魔法具を購入してもらっていなければ、今頃はあの世にいたでしょう。」
「襲撃者には天罰を与える必要がある。ドレイン家に手を出すとどうなるのか思い知らせねばなるまい。
それで、お前を襲った犯人はわからんのか?トルキンからの報告では腕聞きの傭兵が雇われたと言う事だが」
「その件・・・。確証はないですが・・・」
「なんだ。なにか判ったのか?」
「いえ、おそらくですが、パオロ大司教の息子のアレッシオが絡んでいると考えています」
「なに!?あのパオロが?・・それはありえん。何故そう思う?パオロも私の息子に手をだせばどうなるかは判っておるだろう」
「もちろん、大司教は関わってないでしょう。パオロ大司教は頭が良い方です。そんなデメリットしかないバカなことをすることはありえません」
「息子が勝手にしたというのか?」
「そう考えています。息子のアレッシオは学園では無能な振る舞いを繰り返しています。しかも学園内でも私に牙を向けたので、二度ほど剣で叩きのめしてやった事がありました。おそらくそれを恨んでの行動かと」
「それが本当なら、私の息子に手を出せばどう言うことになるのか、きちんと示す必要があるな。
わかった。トルキンにはその辺りを探らせよう。
もちろんパオロには息子の手綱をきっちり握るように厳しく言っておかねばならぬ」
「ありがとうございます・・。
それとお父様の様子を見るに、エリザベス殿下が襲われたことはまだお聞きにはなっていないようですね」
「なんだと!!!??? エリザベスもおそわれたのか!??」
「はい。その反応、お父様のご命令ではないと言うことですね。」
「私がなぜエリザベスを襲う必要がある。」
「いえ、では良いのです。エリザベス殿下が襲われた件で皇帝陛下がお怒りになり、今、近衛騎士団が本格的な犯人探しを行なっています。おそらくお父様のところにも近衛騎士が来るかと思います」
「近衛騎士団が・・・。まあかまわん。叩かれても埃は出んのだし」
「私も当初は疑いの目で見られていましたが、どうやら容疑者は別の者に移ったようです」
「だれだ?」
「近衛騎士団のマチルダはご存知ですか?」
「レミントン伯の娘で、近衛騎士団副団長に最年少でなった女だったな。会ったことはない。」
「そのマチルダが勅命を受けて捜査しています。マチルダは孤児院上がりの生徒が怪しいと見ているようなのです。」
「孤児院・・・。孤児院から魔法学園に?
いや、孤児院にも魔法を発現させるものはおるだろうな。その孤児院上がりの生徒がどうした?」
「その孤児院はヨースランド教区・・我が領地にあります。」
「また、パオロか・・・」
「お父上は本当に、何も知らないのですか?」
「まったく知らん」
「そうですか、では、はっきり言います。
アレッシオの件も含めてですが、私はパオロ大司教を全く信用しておりません」
「・・・・」
「もし、今回の2件の襲撃がパオロ大司教の命令ではなくとも、アレッシオがなんの理由もなく学園に入学したとも思えません。
また、彼の修道院の孤児院から2名が五月に1年Bクラスに入学していますが、その一人がエリザベス殿下襲撃の容疑者です。あまりにも不穏すぎます」
「・・・なるほど・・それはそうだな。」
「お父様とパオロ大司教は手を取ってここまで来ました。パオロ大司教が傾倒する第二皇子のジェイソン殿下をお父様も支援していますね?」
「ああ。そうだ。ジェイソン皇子を擁立することは奴にも私にもメリットが大きいからな」
「私は第二皇子擁立には反対です。」
「ほう・・・。ドレイン家は将来はお前が家督を継ぐ家だ。意見はきいてやる。理由を言ってみろ」
「ありがとうございます。理由は2つ。1つ目はパオロが全く信用できない事。2つ目はエリザベス殿下という新しい選択肢ができたからです」
「エリザベスか・・。確かにエリザベスは魔法を発現させた唯一の皇帝の子だ。
枢機院は魔法発現者が皇位を継ぐという原則を主張してエリザベス擁立に動いておる。
だが、枢機院が推すと言うことは、パオロには全くメリットがない候補だと言うことだ」
「だからこそです。パオロは信用できない」
「確かに今回のやつの動きは看過できん。リブストンに戻ったらすぐに奴を呼び出してやる。
しかしな、私もパオロの力は惜しい。
しかも、私がエリザベス派につけば、今まで時間をかけてジェイソン派に取り込んできた貴族どもが納得しないばかりか、裏切りだと思うだろう。
デメリットに対してエリザベスを押すメリットが薄すぎる。お前の提案とはいえ、それには乗れんな」
「・・・・そうですか」
「この茶はうまいな。おかわりをもらおうか」
「ローデライト産のリーフです。エマ、茶を淹れてくれ」
「かしこまりました。ゲイル様」
エマが茶葉をティーポットに入れ湯を注ぐと、ポットからは湯気と共にローデライト産の上品な香りが漂う。
「良い香りだ・・・・。いや、だが、エリザベスはお前のクラスメイトだったな。」
「はい」
「・・・もしお前がエリザベスと婚約すると言うのであれば話は変わってくる。
そうだな。そうなればお前がこの皇国を動かす事ができるようになるかもしれん」
「・・・・クラスメイトとはいえ今はまったく縁ががありませんので、なんとも」
「エリザベスを口説き落としてみろ。
もちろん皇女とドレイン家の婚約となれば、政治が絡んでくる。
それだけでは成すことはできないがな。
しかしお前が口説き落とし、エリザベスが本気でお前を求めるのであらば、打つ手はある。
私がどうにかして婚約を実現させてやろう。
その時は大手を振ってエリザベス派に鞍替えしてやる。ジェイソン派貴族もまとめてな!
婚約にはそれくらいのインパクトがあるだろう?」
「・・・・・。」
「できないか?」
「さすがはお父様ですね・・。
今は全く縁が無いどころか、エリザベス殿下にはかなり警戒されています。
なにせ私は第二皇子派の筆頭の嫡男ですからね。当然ながら距離をとっても彼女から縮めることはありません。
しかし、学園生活もまだ2年の時間があります。もしそのチャンスがあればそうさせていただきます」
「私がジェイソン派からエリザベス派に乗り換えるとすれば、それ以外にはありえんぞ」
「はい。そのように記憶しておきます。しかし、パオロにはくれぐれもご注意を」
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