第91話 聖ビルクスの奇跡
先日、魔法具屋に行った時に併設されている宝石店でビアンカにブルーサファイアのネックレスを買ってしまった。
ブルーサファイアにした理由はもし将来ビアンカの魔法具を自作する時が来たらその素材に使えるかもしれない・・・というケチな理由からだ。
さらに、シャルロットもどうしても欲しいとおねだりしてくるので、仕方がなくグレードが下がる青い宝石ラピスニアムのネックレスをプレゼントした。
孤児院育ちだとアクセサリーなど持つこともなかっただろうし、そう思うとおねだりに抵抗できなくなったのだ。
それを見て「甘やかしすぎよ」とアビーが少し怒っていたけど、後で水の魔法具をプレゼントしたからね。そっちの方がずっと高いんだぞ。
そんなこんなで、ビアンカが前に仕立てたドレスを着てマーガレットの店から出てくる。もちろん首にはブルーサファイアの宝石を身につけて。
「カイト〜〜!!!みてみて。」
ドレスの裾を持って馬車まで走ってくるビアンカ。
「ドレスを着ている時は、お淑やかにね!!!」
結局ドレスを着ていても僕に抱きついてきた。
「このドレス素敵でしょ。ネックレスも似合ってる??」
「本当に似合ってるね。素敵だよ。もちろんドレスよりビアンカの方がずっと素敵だけどね」
「カイト様、人前です。破廉恥なセリフは控えた方が良いかと存じます。」
破廉恥ではないでしょう。。
「やった!!カイトに素敵だって言ってもらえた。あいじんNo.1に格上げだね」
いつの間に格下げされていたのだろうか? あっ夏合宿中にアクセルさんが来たときか。
「ビアンカちゃんかわいい!!!」
と言ってやってきたマーガレットも黄色いドレスがとても似合っている。
「マーガレット!すっごい似合ってるな!ちょっと惚れそうだぜ!」
「へへっ。そう?ウインライトもいい男度が更に高まってるよ。」
最近マーガレットとウインライトは仲がいい気がする。合宿でもベースキャンプでよく一緒に行動していたし、もしかして?と思ったけど海水浴ではゲイル、ゲイルと言っていたので女心はよくわからない。
「カイト・・・どうかな?カイトがプレゼントしてくれたネックレスなの・・・似合ってる?」
「ドレスとネックレスの色を合わせたんだね。似合ってるよシャルロット。とても可愛いよ」
「フフッ・・うれしい・・・・」
「カイトお待たせ!!」
アビーとリオニーが一緒に出てきたが、ドレス姿はとても新鮮でどちらもとっても美しい。
アビーは赤い生地に金の刺繍が施されたドレスが、髪の色ともマッチしていて本当に似合っている。
リオニーは白い生地に黒のレースが散りばめられた大人の雰囲気のドレスで、灰色の髪色も相まって妖艶な感じがする。15歳の子に言う言葉ではないが・・。
「アビーもリオニーもすっごく素敵だよ」
「ありがとう!お世辞でもうれしいわ」
「へへっ。惚れてもだめやで。うちの心はゲイルに取られてもうてるからな」
ゲイルめ〜〜〜〜。チートすぎるぞ1Bの女子にまでモテモテとは。
ノベルではあれだけ好きな主人公だったのに、現実では超手強いライバルじゃん。
いや、ライバルなんて痴がましすぎるけど・・・。
*******
皇立大劇場の石畳の広場に馬車が停車する。
下車してすぐにカトリーヌが受付で手配をしてくれたおかげで、今回は貴族のように皇立大劇場に馬車で乗り付け、貴族のようにドレスを着たビアンカの手をとって優雅に中に入る事ができた。
「カイト様、まるで貴族のようですよ。」
まあ、僕はニセ貴族ではあるのだが・・。カトリーヌは誰に仕える侍女だと言うのだろうか?
最初は「侍女が主人と一緒に観劇など・・カイト様は私をハーレムに加えようとされているのですか?!」
と、一緒に観劇することを拒否していたカトリーヌだけど、ビアンカを見守るという名目で一緒に入ることになった。
大劇場の中は灯籠が至る所にあり、薄暗いとはいえ思ったより明るい。
舞台の周りには蝋燭だけではなく、松明まで用意されている。
それだけで幻想的な空間だ。
映画も無いこの時代、非日常を感じられる場所なんてなかなか無い。
薄暗い中で舞台が赤々と照らされているだけなのにすでに感動してしまった。
この劇場の舞台に幕はない。松明を灯しているので引火を恐れているのかもしれないが、その代わり舞台の模様替えの際には舞台前の松明の灯りを反射板で遮って舞台を暗くする手法が使われているようだ。
さて「聖ビルクスの奇跡」という劇の内容はというと・・・・・・
*****
とある街の商家に生まれたビルクスは、親の影響で敬虔な真聖教会の信徒だった。
15歳になる時に真聖教会で魔法の適正の有無を調べたところ、優れた魔法才能があることがわかり、ビルクスはこの魔法の才は神の意志だと思い迷う事なく修道院に入る。
修道院で修行に励むうち、ビルクスは治癒魔法の才能を見い出され聖職者に取り立てられた。
聖職者になったビルクスは自身の治癒魔法は人々の苦しみを取り除くために神から与えられたと考え、身分を問わず病気や怪我をした人々のために町々をめぐり癒していく。
ある教会で司祭をしていたコレッタはその尊い行動に感銘を受け、共に癒しの旅をすることになる。
癒しの旅には様々な感動的な出来事や悲しい出来事が起こるが、やがて2人は多くの市民そして貴族に受け入れられていく。
しかし、ある時、父が殺人の罪を着せられ牢獄にはいってしまう。
父の無罪を信じるビルクスは領主に掛け合うが無罪の証拠が無くては解放は難しいと断られる。
女司祭コレッタはビルクスを哀れに思い、彼に一つの解決策を提案した。
コレッタは解決のためには私と一緒にとある地方の教会に籠る必要があるといい、ビルクスはそれに従い一緒にその教会に籠る。
地方の教会に籠って2年後、二人は父の投獄されている街の領主の前に現れ、領主に父の無罪の証拠を見せると告げる。
領主は半信半疑ながらも真聖教の司祭からの話は断れないと墓地へ同行する。
墓地に着くとビルクスとコレッタは殺された人の墓を掘りその棺を領主の前まで運ぶと、棺の中の死体を魔法で甦らせた。
朽ちかけていた死体にどんな力が働いたのかはわからない。ボロボロの死体は起き上がるとビルクスの問いに答え真犯人の名を告げて崩れ落ちる。
この奇跡により、殺されたものの証言が聞けたとして領主はビルクスの父を無罪とし、劇はハッピーエンドを迎える。
「・・・・・・・・・・・・。」
なんじゃこりゃ??
治癒魔法で人々を癒す聖職者、それを支える女聖職者。ここまではいい。とても素晴らしい。
しかし、父を救うためにこの女聖職者と2年間どこかに籠る・・・?
何のために? 何をしてたの?
2年後領主の前に現れて死体を蘇らせる??そしてボロボロの死体が真犯人の事を語る!? 領主もそれを信じるのかね!?
それとこれ、禁忌の蘇生魔法だよね・・・
こんな話、皇立大劇場でやっちゃっていいのだろうか、、。
ちなみに、蘇生魔法は確かにあるが、禁忌の魔法として南の大陸では禁止され、その魔法の事が書かれた書も焚書になった(らしい)。
また、蘇生はしてもこの劇の中で描かれている通り通常はゾンビ状態は長くは持たない。
要するに蘇生魔法にはほぼ価値はない。
だから、この国では蘇生魔法の存在自体がほとんど知られていない。
ただし、ラノベではゾンビ状態を長く維持する方法が出てくるのだ。
パオロが秘密結社「神の呼び声」で使った秘術がそれだ。
どんなルーンによってゾンビを作れるのかははわからないが、その秘術によって皇都でゾンビ騒ぎが起きたのは2年生に入ってからだった。(・・と、言う事はこれから起きるわけだね。)
とりあえず、実際にゾンビを作る魔法があるので、聖ビルクスさんの話は結構リアルな話なのかもしれない。
2年間籠ったのは難易度が高い魔法で、2人では難しかったのかもしれないし、秘術が記載されている古文書を調べたのかもしれない。
それにしても・・・ハッピーエンドがこれか・・・。
劇としては、女司祭役をしていた女優「ローズ-テイラー」が噂に違わぬ美人で妖艶なエロスを感じさせてくれたのでまあ満足だけど、
完全に主役であるビルクスは妖艶な女性に喰われた感じだったな。
いやあ、後味が悪い劇であった。
*****
観劇が終わって僕たちは劇場から出てくる。
「ビアンカ。演劇はどうだった?」
「司祭のコレッタさんが美人さんだった〜。ビアンカもあんな風になりたいな」
う〜〜ん。色っぽい系がいいのかな?
「カイトはどうだったのよ??」
アビーが突然顔を近づけてくるからドキッとした。ドレス姿が素敵すぎるよ。
「あ、ああ。まあ良かった・・かな? でもコレッタ役のローズ-テイラーはすっごく良かったね。」
「う、うん。途中からビルクスを怪しい教会に引き込むことろ、ちょっとエッチじゃなかった??なんか大人の女性の魅力というか・・・エッチな感じ。」
「はははっ そうだね。でもそれが凄くよかったよ」
「あーー俺も!ローズ-テイラーめっちゃエロくてよかった!。そこが最高だったな!」
えーと・・この劇って「真聖教劇」って言われるジャンルのとても神聖な劇なんだけど・・・。
エロくてよかったって、確かにそうだけど・・大きな声で口に出すなよウインライト。
「やあ!ほんまエロかったなあ!うちもローズ-テイラーのエロさに惚れてしまったで!またこの女優さんの劇見にこような。」
「エロ・・・いいな・・」
みんなエロエロ言うな!!!ここは紳士淑女が集う皇立大劇場のまえだから!!
「カイト様のご友人もカイト様に負けず劣らずどエロい方なのですね。この劇を選んで正解でした」(小声)
それ、みんなに聞こえたらダメだからね!!
*************
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