第87話 海水浴4 深きもの
「なんだこれーー!!」
「魚人だ魚人!!」
そろそろ、ロンドアダマスへ帰るため引き上げようと思っていた時、遠くの浜辺から子供の叫ぶ声が聞こえてくる。
どうやら子供達が波打ち際に打ち上げられた青白い物を見て騒いでいるようだ。
「なんだか騒がしいわね」
「そうだね。ちょっと行ってみようか。カトリーヌ、マーガレットとビアンカをよろしくね」
「かしこまりました。お任せください愛人管理は侍女の大事な仕事ですので」
「お兄様、なんの騒ぎでしょうね?」
「ああ、何かが打ち上げられたのだろう。魚人と言っていた気がするが・・」
どうやらゲイルも先ほどの子供の騒ぎ声が気になったようで、僕やアビーと一緒に子供達が騒いでいる現場に向うことになった。
「魚人だ〜」
「また魚人がしてんでら〜」
子供達は打ち上げられた人のようなものの前で騒いでいる。
近づくとやはりそれが人である事がわかる。青白い皮膚をした人が裸で倒れていた。
いやいや、これは人間と言っていいのだろうか?
よく見ると皮膚が青白いだけでなく手足には水かきのような膜が付いていて、その爪は鋭く黒光りしている。
背中からお尻にかけて鱗のようなものまである。
子供達の言うように、確かにこれは魚人だ。
「なにこれは??ちょっと怖い。。」
アビーが僕の腕にぴったり掴まってくる。アビーの胸が腕に押し付けられて、僕は奇怪な魚人のとアビーの柔らかい胸の狭間でよくわからない感情になってしまう。
なんなん?この状況!?
「深きものが死んでいる?・・・・。」
ゲイルの一言で僕は正気に戻る。ルンレコ(ゲーム)に出てくる生物なのだろうか?
「深きもの??ですか?」
「ああ、すまない。お前が知る必要もないことだ」
「ひょっとして魚人の呼び名ですか?」
「…ああ、そうだ」
「なんなのですか?深きものって。学園でも魚人の存在は教わっていませんけど・・。」
「知らなくて当然だ。この国にはあまり存在しない人型の生き物だからな」
ゲイルに転生した美剣城はこの世界の設定に携わった人間だ。この発言から察するにゲーム世界か設定には存在したのだろう。
ラノベも途中までしか読めていない僕の知識は限られている。
「ゲイル!ちょっと怖いよ。何なの?この魚みたいな人は?」
「ヨハンナは心配する必要はない。亜人の一種だ」
「こんな気持ち悪いのが人の仲間の種族だって言うの?」
「厳密には人の仲間の種族ではない。しかし、インストスの街は既に随分とこいつらに犯されている可能性があるな」
「犯される??どう言うことです?」
僕は街が「犯される」という言葉が気になった。
「こいつらも他の亜人と同じで人間族と子をもうける事が出来る。
しかし他の亜人とこいつらとの最大の違いは、人間に産ませた子供は人の姿と全く同じだと言うことだ。途中まではな」
「途中までは同じ?ということは・・」
「そうだ、そのうち変態して魚人・・深きものと同じ姿になる。
人間の姿の者がいつここの死体と同じように深きものに変態するかは誰にもわからん」
「ゲイル、なんだか怖いよ。」
「心配するなヨハンナには俺がいる」
「お兄様が言うならそうなのでしょう。僕はお兄様を全面的に信用しています。
と言うことは・・インストスの街には何人も人の姿をした魚人が潜んでいると言うことですね。かなり沢山いるのでしょうか?」
ゲイルの厳しい目がこちらを向く。
「何故そう思うのだ?」
「いえ、お兄様がインストスの街は犯されているかもしれないなんて言うからつい」
「こいつの寿命は永い。人間よりはるかにな。その死体が見つかった。誰かに殺されたと見た方がいい」
そういうとゲイルは死体に近づき死体を仰向けにする。
死体の顔は人間のそれとは大きく違っていて、魚とカエルを合わせたのようなおぞましい顔つきをしている。首と言える部分はなく、エラのような状態になっていて、腹は滑っと青白く輝いている。
はっきり言って気持ち悪すぎる姿だ。
「ゲ、ゲイル大丈夫??」
ヨハンナがゲイルの行動を心配そうに見つめる。
「ああ、頭をみろ陥没している。恐らく何かで殴られた跡だろう。」
よく見ると頭だけではなく殴られたようなアザが至る所に確認できた。両手も折れているようだ。
「集団で殴り殺されたと見ていい。その後に河口に投げ捨てられて、ここに流れ着いたのだろう」
「殺されたのはインストスの街ではない可能性もあるのでは?」
「いや、ここは海に見えるが河口部だ、川の上流からやってきた可能性の方が高いな。そうするとやはりインストスの街が怪しい。
それとこの肌の色は変態して間もない「深きもの」の特徴に合致している」
「流石はお兄様、僕など想像もつかない事を知ってらっしゃるんですね」
「恐らくこいつは人として生活してきて突然、変態したのだろう。それを見た周りの人間に殺されて捨てられたと見るのが自然だ」
「お兄様は人々が知らないところで魚人と人間の女性との間で性交が行われていると考えているのですね」
「そうだ。襲われたのか?女が望んだのか?それとも宗教的儀式として交配が行われたのかはわからん」
「宗教的儀式でこの化け物と交配・・。そんなことが・・」
アビーが怯えた顔をする。
「真聖教から考えると邪教と言えるだろう。
宗教的儀式で行っているならば、この街にそのような邪教が根付いていると言うことだ」
「その邪教は、魚人を崇めていると言うことですか?」
「・・まあそうかもしれん。・・・喋りすぎたな。
今日はこのままロンドアダマスへ戻ろう。邪教の有無は私には関係ないことだ」
そういうと、ゲイルはヨハンナと手を結び去っていく。
「なんなの「深きもの」って。この魚の化け物と人の女性を交配させるなんて、そんな酷い事が許されていいの?!」
怖かったのだろう。アビーが怯えて僕に抱きついてきた。
僕はアビーの綺麗な素肌の首筋に顔を寄せて頭を撫でる。
アビーの柔らかな体に触れると魚人の死体のことは頭の隅に追いやられて、僕はアビーのことしか考えられなくなった。
海に来てよかった。
********
「・・・と言うことなんだ」
僕は先ほど見た魚人の死体の話をここにきている全員に説明する。
「深きもの・・?」
「そんな種族がいるなんて初めてしったんだけど」
「そんな面白そうなもん一人で見に行きやがって。つれないぜ。俺も今から見にこうかな。マーガレットも見たいだろう?」
ウインライトはリオニーと魚追っかけていてその場にいなかっただけですが。
「おっそろしい話やなあ!そんな魚みたいな男とやりたくないでえ!!」
やるってストレートすぎませんか?リオニーさんや。
「リオニーが何言ってるのかわからないけど恐いよ・・。」
ビアンカさんは、もしかしてわかってる??
「カイト・・恐いの」
シャルロットがまた腕に捕まってきた。
「カイト。気味が悪いわ。この街を離れましょうよ」
アビーが僕の腕からシャルロットを引き離すと、シャルロットと僕の間に入る。
「ゲイル兄さんも帰っちゃったしね。なんだか怖いしかえろうか・・」
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