第81話 魔法具店

皇都ロンドアダマスの商業区はロードライズ川沿いのにある。この世界には鉄道もモーター車もないから、一番効率の良い運搬方法は船だ。


もちろん馬車は重要な物資運搬方法だが運搬物資の量に対する効率は圧倒的に船が良い。

モータ車がないこの時代では利用できる河川はできるだけ利用して楽に多くの荷を運搬すると言うのは当然のことである。


この国の河川で一番経済的に活躍している河川は商都リブストンとウエザビー大公国を結ぶプールズ川であろう。


プールズ川はウエザビー大公国の都ヌベーラで大陸南部のディース海に流れる巨大河川グランディース川に合流していると言う貴重な河川だ。


このグランディース川を経由して大陸南部各地の交易品が集まり、プールズ川を経てリブストンにたどり着く。また逆にリブストンの交易品が大陸南部諸国に売られていく。

河川を使った公益でリブストンの商人、そしてドレイン方伯家は莫大な利益を稼いでいた。


そもそもウエザビー大公国は名前の通り元はグローリオン皇国の一公爵領である。事情は少し複雑だが、最終的に大公国として独立できたのはこの交易の利益をほぼ独占する位置に存在したからでもある。


さて、皇都を流れるロードライズ川はプールズ川に次いで海運が盛んな川である。

ロードライズ川を登っていけばイラルド公国にたどり着くが、イラルド公国は鉱山から宝石や鉱石を産出する以外は産業も乏しく貧しい山がちの国である。


そんな国がなぜ公国として独立できたかは先ほどのウエザビー大公国が大きく関わっているのだが、それは割愛しよう。


とりあえず、皇都を流れるロードライズ川はプールズ川の交易の利益と比べると大きな差があると言えるが、宝石の取扱量はリブストンよりも皇都の方が優っていた。

そのため宝石や宝石を使った魔法具の職人は皇都ロンドアダマスに集中している。


そのロードライズ川に面する商業区の奥にある魔法具店にカイトたちは訪れていた。


夏休み補完計画の水着(を着せよう)大作戦の計画通り、マーガレットの店で水着の採寸をしている間に僕とウインライトで魔法具店を見に行こうと思ってたのだけど・・。


結局、水着に夢中のマーガレットを除いてみんな行きたいと言うので採寸を待ってから、魔法具店に行くことになったわけだ。


皇都でも3店舗しかない魔法具店の1店舗がこの商業区の皇城の石垣の側にあった。宝石店の建物に同居しているので、どうやら宝石店が魔法具店もやっているのだろう。


店の前には革鎧をきた警備兵が2人立っていて、僕たちがやってくると怪しい人間を見るかのようにじろっと見つめてくる。


「お店は空いてますか?」

その兵士の視線に耐えかねて、そんなことを聞いてしまう。店の扉を見れば当然空いているのはわかっているんだけどね・・。


「お若いようですが・・身分を聞いても?」


「魔法学園1年のカイト-ドレインです。皆も魔法学園の生徒です。」

兵士の顔色が変わる。


「これは失礼いたしました。今日のお買い求めは宝石でしょうか?魔法具でしょうか?」


「もちろん魔法具です。」

「カイト!私は宝石がいい!」

マーガレットの店に連れてきていたビアンカももちろん同行しているのだが、どうやら魔法具よりも宝石に興味があるようだ。まあ普通の女の子はそうだよね。


「今日は魔法具を見にきたんだよ」

「じゃああとでくる」


「ではこちらにどうぞ。」



店に入ると豪華な絨毯が出迎えてくれる。ガラスの窓から入る光で室内は思ったより明るい。

壁には蝋燭と共に並べられている魔法具がまるで貴金属のような輝きを放っている。


「すごいわね」「うひゃあ」「ここの宝石店は私の店とも取引があるわ」「高そうだな」「宝石買ってくれるの?」


「いらっしゃいませ。当店ははじめてですかな?」

すぐに口髭を生やした初老の男性が奥から出てきた。


「はい。私たちは魔法学園の生徒です。魔法具を拝見しにきました。」


「そうですか。私はここのオーナーのランフランコと申します。どのような魔法具をお探しでしょうか。」


「そうですね。まずは水魔法の魔法具を拝見できますか」


「俺は動魔法が見たいんだけどな」

ウインライトがそう呟く。


「順番に自分が興味があるものを見せてもらおうよ」


「じゃあカイトからでいいよ。俺は動魔法専門だからな」


「では少々お待ちください。」


***


店の従業員の女性2名が5つほど装飾された木箱を持ってくると、店のオーナーのランフランコは部屋の中央にあるテーブルの上でそのうちの1番豪華な装飾の箱を開けた。


「これは基本の水魔法の宝具となりますが、杖に付けられる宝石は水魔法と最も相性が良いと言われるブルートリコンの最高品質のものが使われております。

お手にとってみますか?」


「ぜひ持たせてください」

僕は水の魔法具を手に持つが、第一印象はずっしりししていると言うことだろうか。

杖自体が金属で出来ており銀色に輝いていて細かな装飾が見るからに美しいのだが、そのため非常に重たい。


「ここでは魔法の発現はお控えくださいませ。

ご購入の際の品質の確認として魔法具を使っていただける場所は設けておりますのでご購入の際は遠慮なくお申し付けください。」


確認できるのは購入する時だけか・・・・。


僕はまずはじっくり杖全体を眺め、そして宝石をまじまじと見つめた後、アビーに手渡す。

アビーは水属性の使い手なので是非アビーにも見てもらいたいんだ。


「いかがでしたか?」

ランフランコさんが手を揉みながら、こちらの反応を伺っている。


「美しい杖ですね。宝石も申し分ない大きさで質が高そうです。」

「最高品質の水魔法具ですので。これほどの腕を持つ職人は皇国広しといえどなかなかおりませんよ」


「魔法具の職人はオーナーさんが抱えているのですか?」

「はははっ 商売上の秘密ではありますが、そうですね抱えているものもおります。」


「お値段はいかほどでしょうか??」

「最高品質の魔法具ですので90,000セルとなります。」

今の手持ちは50,000セルなので予算オーバーだ。


「なるほど、品質は良いのですが、重すぎますね。もっと短くて軽いものはありますか?」


「お気に召しませんでしたか。」


「実用的なものを望んでいますので」


「ではこちらはいかがでしょう?」

店主は用意された一番最後の箱の蓋を開ける。


「ラピスニアムという宝石を使ったものです。比較的な安価な宝石ですが、魔法の発現力はそこまで低くはございません。杖も樫の木でできておりこの店ではかなり短いものとなります。どうぞお持ちください。」


60cmくらいの樫の木の先に先ほどの宝石より少し小ぶりだが淡い水色の宝石が付いている。そして金属の杖より随分と軽い。

僕はとても気に入った。短くて軽いに越したことはない。


「おいくらですか?」

「16,000セルとなります。」


安い!!いやバーン村の農民では絶対手が届かない値段だけど、仕送りと学園からの給金がある僕には問題なく買えてしまう。

「試して良かったら2本買います!できれば最初の杖と比べて見たいのですが。」


「わかりました。最初の魔法具もお試しください。職人の手作りですので2本目は全く同じものではありませんが用意いたしましょう。」


「では、あとウォーターカッターの魔法具はありますか?」

「ウォーターカッターの魔法具。一足飛びにそこにいきますか。さすが魔法学園の生徒さんです。しかしウォーターカッターは作業難易度が高い魔法具なので、ご注文後の制作にさせていただいております。

あと値段は水の魔法具の2倍〜3倍になるとお考えください。


「ウォーターカッター?そんな魔法まだ習ってないよ??かなり高度な魔法なんじゃない?」

水魔法の杖を眺めていたアビーが魔法名を聞いて後ろで驚いている。


「習ってなくても使えないってわけじゃないよね。」

もちろんラノベ知識でアビーは使えると知っているがそれは言えない。


「まあそうだけど。」


「僕も試してみたかったんだけど、無いなら仕方がないな。

では、えーと。アイススピアとアイスアロウはありますか?」


「えっ アイススピアですか!??」(オーナー)

「アイススピアってなに!?」(アビー)


「お客様はとても高度な魔法を使われるのですね。過去に何度か近衛騎士団で購入はいただいておりますが・・そうそう出る物ではありません。

ウォーターカッターより難易度が高いものになります。必要であれば職人に作らせますが前金で50000セルほどはいただきたく・・。」


「そうですか・・。今回は予算がないですね。

じゃあ僕はこれで確認したいことは終わったから。ウインライトにバトンタッチしようかな。」


「おっしゃ!俺は動魔法の魔法具を見せて欲しい!」


******


僕が確認したかったのは、こちらの望むルーンを刻んだ宝石を作ってもらえるか?ということだった。


宝石にルーンを刻むのは高度な技術がいるんじゃないかと思ってる。

だから自分にあった魔法具を用意しようとした時に指定したルーンを刻んでる職人さんが欲しかったんだよ。

それは、ここで頼んでも実現できることがわかったので大収穫だ。ちょっと高そうだけど。


あと水の魔法具は生活魔法としてもとても役に立つので真っ先に欲しかった。


水の魔法具を両方試してみた感じだけど、杖が短くても問題なく発動できた。銀色の高級なものよりもやはり水が出る勢いが違ったが、戦闘に使わないのであれば問題ないだろう。

2本目はアビーへのプレゼントしようと思っている。



「カイトだけ買い物してずるいぞー。私は隣の店の宝石にする!!」

「カイト・・・・私も宝石でいいの。」

ビアンカとシャルロットが息を合わせやってきた。なんでシャルロットまで?!


「えーと。見るだけだよ。 宝石って高いんだぞ!??」


「みるだけなんてずるい!」

「買うお金ないよ。」

「じゃあ予算内で考えてあげる!」

「ゲッ。」



*****



その日の夜、ドレイン方伯から手紙がきていた。皇都に行くから来月5日昼に皇都邸に顔を出すようにとの手紙だった。もう!夏休みがけずられちゃうよ。

せっかくの休みの日にあのドレイン方伯と顔を合わさないといけないとは・・。お父さんだから仕方がないか・・。



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