第82話 学園図書館

夏休み2日目、僕は魔法学園の中央棟にある図書館に来ていた。


ここの図書館は10:00-17:00までいつでも利用できるのだけど、平日は授業があるので学生が利用する機会がなかなかない。

その代わり平日は学園に併設されている皇立魔法研究院の人たちが主に利用しているらしい。


図書館の扉は分厚い鎧戸になっていて、その壁も分厚く作られているのは防火対策なのだろう。


中に入ると受付があり、そこにいる司書の方に鋼のプレート状の学生証を提示することで入場出来るが、本の盗難を防ぐために、持ち込みできるものはノートと筆記用具だけと決まっている。

当然、学生への本の貸し出しはしていない。それだけ本は貴重なのだ。


僕は持っていた鞄からノートと筆記用具だけを取り出すと鞄本体を受付に預けて中にはいる。


内部の天井は高く本棚はその天井に届いていて、それが各通路びっしりなのでかなりの書籍量だ。


各通路の奥には窓があり、窓の側は明るいけど受付付近は窓からの光はあまり届かないので、灯籠はあるけどかなり薄暗い。


本はジャンルごとに棚が分けられていて「歴史」「地政学」などのジャンルや「魔法学」だとか「火魔法」「水魔法」などのジャンル名が棚と棚の間のプレートに書かれている。

入り口近くにには4階に行く階段もあるが、言語や文学、音楽、宗教などの文化系の本が所蔵されているようで、今回は4階に上がる必要はなさそうだ。


今日僕が調べたい事はルーン文字の記述の仕方など、魔法についての幅広い知識だ。

魔法関連の書籍棚は多い。まずは個別の属性に偏らない「魔法全般」と説明書きのある棚から見て行く。


一つの本を手に取り表紙を見ると、「魔法の真理」と書かれている。

まさに僕が求めてるものが書かれているかもしれないタイトル。これはキープだな。


次は「コムティアムディアゾルー??」

中を見るがどうやら文字は皇国のものとほぼ同じだが、皇国の言語ではないようだ。


どうやら知識の取得には言葉の壁が存在するらしい。


良く考えると全てが皇国語ではないのは当たり前だ。


歴史を辿れば、

皇国があるノーブル大陸は2000年ほど前に人間族が移り済んできた。

その人間族の言葉が今の皇国の言葉になり、方言はあってもノーブル大陸の人間族の言語は共通している。


(ノーブル語とも言われるが、アーブル大陸にも同じ言語を持つ人間族が多くいるので、アーブル大陸ではコイノス語と呼ばれる。)


しかし、人間族以外の種族にはワーウルフ語、エルフ/ドワーフ語(妖精語)など別の言語が存在するのだ。


では、人間族以外にはノーブル語は通じないのか?と言うとそう言うことでは無い。

2000年の間に人間族の言葉であるノーブル語が浸透し、多くの場合理解してもらえるらしいし、半狼人族やハーフエルフ、ハーフドワーフの多くはノーブル語を使う。


ちなみに、狼人族、エルフ、ドワーフはお互いに性行為を行なっても子供が生まれない。

ハーフ系は人間族と他種族の間にだけ存在する存在だと言うことだ。

そう言う事から人間族を「人」、他種族を「亜人」と呼んだりすることがあるが、人間族を特別視する考え方なので他種族の前であまり使わない方が良いだろう。


ハーフエルフやハーフドワーフは混血が進みまくった半狼人族よりは数がずっと少なく、ハーフエルフはほぼ人間と変わらない見た目をしているそうだ。

いや、見た目は一般的な人間族より美形だと言う。一度ハーフエルフが多く暮らすと言う大陸東の国へ旅をしてみたいものだ。


また、言葉の問題とは別に文字の問題が存在する。

ワーウルフは元々は文字を持たないのでワーウルフ語であっても文字自体はノーブル語の文字と同じだ。

ワーウルフ語をマスターすれば可読出来るだろう。


しかしエルフ/ドワーフ語は独自の妖精文字と呼ばれる文字を使っているのでおそらくワーウルフの書物よりずっと読む事が難しいのではないかと思う。


さて、今、手にある本が何語で書かれているかはわからないが、文字は僕達と同じノーブル文字である事だけはわかる。

おそらくワーウルフ語だろうとは想像出来るが、今はこれは後回しだな。

将来は言語のコーナーを利用して他言語も勉強する必要があるかもしれない。


結局、魔法関連の書物の半分は言語の違いで読む事が出来なさそうだった。

僕でも読めそうな「魔法の真理」「アーブル大陸の魔法」「鬼族の神秘」と言う本を取って読書コーナーに行く。


読書コーナーは、本棚とは区画が分かれていて、だだっ広いところではなく扉がないだけの半個室のようになっている。


その読書部屋には1人用と2人用、4人用が用意されていて、それぞれテーブルと椅子があった。

僕が行った時は4人用の読書部屋から年配のグループが議論をしているのが聞こえた。恐らく研究院の方か教師だろう。


大声でなければ喋っても良いようだね。


で、今日読んだ本の内容だが、

一冊目はルーン文字と発現する魔法の関係性の研究が書かれていた。

授業で習ったこともあるが、まだ習ってない事が大半だ。

何よりも基本的な魔法の発現に関するルーン文字と他の記号の配置が綺麗に書かれている。

ここに魔力を込めれば発現するのではないかと思ってしまうほどだ。


風魔法の魔法陣が描かれた箇所で試してみたが発現はしなかった。当たり前だけど。

原理的には紙でも発現しない事は無いのかもしれないが、あくまで原理的な話であって実際には紙では発現しないらしい。


ノートに書き写そうかとも思ったが、それをしていると恐らくすぐに一日が経ってしまうだろう。

今日のところは流し読みをする事にした。



二冊目はアーブル大陸で使われる魔法について書かれていた。

特に目新しい魔法はないが、使われる魔法具が挿絵として詳細に描かれている。

ペラペラとページをめくっていくとその中に指輪の形をした魔法具が描かれてるページを発見した。


こ、これだ!!


その挿絵に僕は衝撃を受けた。

そこには指輪型の水の魔法具が描かれていたのだ。


これまで魔法は杖を使わないといけないと思い込んでいたけど、魔法を正確に使えるように杖にしているだけで、杖にするのは絶対ではないと言う事がこの挿絵を見ればわかる。


銃にもライフルもあれば拳銃もある。それと同じだ。


ただし、魔法を発動する向きは魔法陣面の正面。正確にその方向を示すには杖である方が望ましいのは確かだ。

指輪では正確に狙いはつけられないだろう。特に距離が離れたものを狙うのは絶対に無理だ。

しかし治癒や再生魔法なら?杖じゃなくてもいい気がする。

水魔法もそうだ。攻撃的な使い方をしないのであれば指輪で十分だ。



これは大発見である。



そもそも、今の長めの杖が定番化したのは、使いやすさや正確な操作が行いやすい事が最大の理由だと思われるが、もう一つ、魔法を複数使える物が少ないからではないであろうか?


長めの杖であれば魔法の狙いも正確になるしその分距離も出る。杖自体が相手への攻撃にも使える。防御にも使える。一石三鳥である。

僕も一つしか魔法が使えなかったら確実に長めの杖を使うだろう。


しかし僕は5属性に治癒や再生まで持っている。また5属性あると複合魔法と呼ばれる物も使えるので何本も杖を持ち歩かなくてはいけなくなる。

恐らく10本は必要になるだろう。しかし10本も持ち歩くなんて物理的に難しい。


魔法具の杖を小さくすることと、指輪のような魔法具。これで10の魔法の使い分けが出来るかもしれない。


凄いぞ!図書館に来てよかった。


とりあえず、この本も次来た時にもう一度読もう。


三冊目は鬼族オーガの魔法。

鬼族オーガはアーブル大陸南方に住むとされる人種で、頭部にツノが生えていて体が人間族より強靭なのが特徴だ。

半鬼族もいるので人との間に子供を作ることも出来る。

小鬼族ゴブリンと言うのもいるが、小鬼族ゴブリンと人間の間には子供はできない。


一般的な魔法のルーンとは違う特殊なルーンの魔法がここには出てくる。

どうやら「魔」「闇」「呼」「呪」と言った名前のつけられたルーン文字があり、神々の眷属に会うことができる転移魔法陣だとか、神々の眷属を呼び出せる魔法陣とか、死の呪いをかけられる魔法陣とかそんな事が書かれているちょっと怖い本であった。


ノベル知識で「闇」は知っていたが他は初耳だ。しかも鬼族はどちらかと言うと呪術的な魔法を多く使うみたいで中には治癒魔法のことも記載されているが、これが僕たちが使う治癒魔法と同じかはわからない。


なにせ、肝心のルーン文字が記載されていないのだ。魔法陣の特徴は書かれているのでこの著者は実際の魔法陣を見て魔法も体験しているのかもしれないが、その魔法陣を書き写すところまでは出来なかったと言うことだろう。

自身の体験を後で文章にしたのだと思われる。


非常に興味深い本だ。この図書館にはまだまだ興味深い本が眠っているはずだが、知識は1日にしてならず。

これももう一度しっかり読もうと決めて今日の図書館生活は終わった。


これ、魔法陣などをノートに写していたりしていたら一冊で何日も掛かってしまう。


この図書館の書籍量を考えてめまいがしてきた。

ある程度の爵位か、役職につければ卒業後も利用は出来るらしいが・・・。




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