第79話 第二皇子

騎士団長アルフォンスと副団長マチルダは皇城の応接の間にて皇帝陛下に調査の報告を行なっていた。


対面の椅子には、皇帝の他、執務長官のトムス-ゲラードと皇室警護院長のクリフ-ウォーカーが座っていて、皇室警護の兵士数名がその側で見守っている。


「それでは、マチルダより報告させていただきます。」

挨拶とあらましの説明が終わった騎士団長アルフォンスがマチルダにバトンを引き継ぐ。


「近衛騎士団副団長マチルダです。騎士団長が申しあげました通り、現在全力で調査中でございますが、昨日一通り聞き取り調査が終わりまして、そのご報告となります」


「首謀者はわかったのか?」


「いえ、しかし、現状の見解とすれば、ドレイン家は関与していないと考えております。

当初はドレイン家の嫡男であるゲイルに疑いを持っておりましたが、聞き取りを行った結果、その線は薄いと思われました。また、次男のカイトについても関与していないと考えております。

ただし、殿下を救出したルークという生徒から襲撃者の一人が「皇女殿下は皇帝になるべきではない。」と言ったとの証言が出ております。」


「「エリザベスは皇帝になるべきではない。」だと・・。やはり次の皇座争いだというのか?」


「彼には嘘をつく理由がありませんので、その可能性が非常に高いかと」


「では、何故暗殺する機会があったのに暗殺ではなく誘拐した?」

横から執務長官が口を挟む。

皇帝陛下への報告であるのに、皇帝陛下を差し置いて横から口を挟むことができるのは、それだけ皇帝からの信任が厚いということであろう。


「はっ その点はまだわかりません。が、襲撃者は「神の導き」だとも話ていたとのことです。ですので、首謀者が真聖教関係者であれば神の使徒として選ばれた皇女殿下を暗殺する事を避けたのかもしれません。」


「まてまて、枢機院はエリザベスを次期皇帝にと余に言うてきておるのだぞ。その教会がエリザベスに手を出すとは考えられん。」


「枢機院も一枚岩ではございません。ただ、私としても枢機院は関与していない可能性が高いと考えております。

すでに皇女殿下襲撃の内通者と思われる生徒を特定しておりますので。」


「おお!そうか。さすがはマチルダだ。してその生徒はどこの家のものだ?」


「いえ、その生徒は平民です。しかし、孤児院から魔法学園に入ったものでして・・」


「孤児院から魔法学園に・・」


「パオロ大司教の治めるヨースランド司教区の孤児院になります。

現在、その孤児院がどのような孤児院で、どういった経緯でその人物が魔法を発現させたのか?

また、どうして修道院に入らなかったのか? 

それらを調査するために人を向かわせようかと考えております。

魔法学園の過去の生徒リストを調べても、孤児院から魔法学園に入学したものは過去に3名しかおりませんでした。通常は修道院に入る以外の道はありませんので。」


「パオロ大司教・・。ヨースランド司教区は今や枢機院とは独立した勢力をもっておるな。ドレイン方伯とも近い。」


「はい。枢機院とはまた違った思惑で動いているかと・・。

内通者と思われる生徒はまだ拘束はしておりません。首謀者と接触があるかもしれませんので・・。

しかし、おそらく失敗した時点で切られているとは思います。」


「そうか。よく調べた。我が愛娘のエリザベスに手を出すなど言語道断。しばらく様子を見て接触がなければ捕え、如何様な方法でもよい。首謀者を聞き出せ。」


「はっ かしこまりました。皇帝陛下のご期待に応えるべく調査を続けます。」



「さて、今日長官が同席しているのは、褒賞のことも確認したいからだ。

エリザベスからもルークとやらに褒賞をとお願いされてしまってな。

マチルダよ。そのルークと言う生徒は余からの褒賞に見合うだけの事を成し遂げたと思うか?」


「はっ。教師や生徒全員から聞き取りを行った事を踏まえると、褒賞に足る十分な活躍をしたと感じます。」


「理由を聞こうか」


「殿下の護衛をしていた騎士団のものに聞きますと、その護衛が負傷し襲撃者を取り逃した時にそのルークが真っ先に駆けつけたとのことで、その後、暗闇の森の中を走り殿下の乗せられた筏を追いかけたそうです。

暗闇の中で川の筏に追いつき最後には飛び移り、乗っていた襲撃者2人を相手にして怯まず無事殿下を救出したわけです。

これはなかなか出来ることではないかと。

私の答申としては褒賞に足ると判断いたします。」


「ルークという人物の評価はどうだ」


「実直で意思が強い男だと感じます。またエリザベス殿下を相当慕っているようです」


「そうか・・。長官はどう考える。」


「はっ。皇女殿下をお救いしただけでも十分褒賞に足ると思います。そして、マチルダの報告を聞くに相当有能な男のようです。その男が未だ平民では問題かと。学園卒業を待たずに爵位を与えてはいかがかと考えます。」


「なるほど、そうだな。」



**********




**皇城南側の第二皇子の居室**



「殿下、到着遅くなりもうしわけございません」


大司教パオロは皇城にて第二皇子のジェイソンと接見していた。


ジェイソンは今年で24歳。少したるみはあっても整った顔立ちをしている。しかし今はその整った顔を歪めて肩より下に伸びる金髪を指でこねくり回していた。それが機嫌が悪い時の彼の癖なのだろう。


「リブストンは遠いからの・・・しかし、、計画実行から何日経っておるとおもっているのだ!?」

「申し訳ございません。」


「で、パオロよ、これはどういうことだ?」

「これといいますと・・・」


「今の状況だ!! お前は機会を見てエリザベスを幽閉すると言っておったはずだが??」

「そのように動いておりますが・・。」


「露見してどうする!! もうエリザベスを幽閉などと言っている場合ではない。」


「確かに、今回は失敗いたしました。ですが学園に送り込んでいる者は露見してしてないと報告を受けております。次は必ずや・・・・。」


「貴様は聞いていないのか?? 近衛騎士団が調査し始めたぞ!」


「えっ。まさか・・。」


「まさかではない。父の勅命だ。近衛騎士団が探っておる。そのものから我らにたどり着けれたらどうする。」


「送り込んでいるものは所詮はコマでしかございません。たどりつかれそうになれば切るだけでございます」


「絶対こちらには火の粉はやってこないと言うのだな!?」

「もちろんでございます。指示を行ったものは今は教会関係の職にはついておりません。神の呼び声に応える純真な下僕でございます。」


「では、今後どうする。私が直接配下に手を汚させるわけにはいかん。」


「近衛騎士団もそのうち諦めるでしょう。その時を狙います。」


「殺すのか??」


「エリザベス殿下は神の恩寵を受ける者、できれば捕えて我がものにしたくおもいますが・・。無理な場合は・・・」


「エリザベスという第三局に力が削がれるのは私だ。兄ではない。兄を追い落とす為にもエリザベスをこちら側に付かせるか、無理なら始末しろ。」


「しかし、エリザベス殿下を殺すのはおしゅうございますな。神の呼び声に応えるのが我が使命です。エリザベス殿下は必ずやそのお役に立てられるはずですからな」


「貴様がそこまで執心ならば好きにしろ。神の御心に反するわけにもいかん。

しかし露見するような時には必ず殺せ。私の立場を危うくすることは許さん。」


「かしこまりました。しばらく皇都に滞在して状況を探ってはおりますので、またご連絡いたします。」




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