第78話 取り調べ3


「ふう」

やっと取り調べがおわった。


結局マチルダ副団長にはシャルロットが深夜にやってきて「寒い」といって抱きついて寝たという話にしておいた。・・・その通りなんだけども。



「おまえの魔法の才能に女どもが引き寄せられたか。カイトくん注意したまえよ。君は私が唾をつけたからね。必ず近衛騎士団にきなさい」

と念を押された。


副団長の言葉から察するに、どうやらカミーユとシャルロットが怪しいと睨んでいたのだろう。

これでシャルロットのは証明されたと思うけど。僕のも証明されてしまった。


カミーユについても色々聞かれたが、カミーユには睨まれる事は毎日あっても話をしたことがない。本当にない。


カミーユはシャルロットといつも一緒にいた。最近はシャルロットが僕にくっついて来ることが多くなったのでカミーユは一人で食事をとるのだけど、なぜか僕たちと近い席に座る。

そして僕の方をずっと見てくる・・・いやシャルロットを見ているのだろうけど。


しかし、事件以来、あれだけシャルロットの側にいたカミーユがシャルロットと一緒にいることがなくなった。心境の変化なのか、カミーユが事件と何か関わりがあるのか?




あと聞かれたのは当然ルークの話だ。ルークの事を疑っているわけではないと思うけど、ルークの人格だとかそういったものは詳しく聞かれた。


ゲイルの事も勿論聞かれた。ゲイルはドレイン家の嫡男だからね。僕も次男だけど。

ドレイン方伯は最近はあからさまに第二皇子派を固めにかかっている。第二皇子とエリザベス殿下は次期皇帝の椅子を争う相手なので、ゲイルや僕に容疑がかかるのは当然とも言える。


もしゲイルが犯人の仲間・・首謀者だったとしても、そうそう手出しはできないだろうけど。それくらい今のドレイン方伯は力を持ってきている。


しかし、マチルダ副団長はゲイルや僕のことを疑っている感じはなかった。

それよりもゲイルの魔法の才能の話になると、涎をたらす勢いで食いついてくる。


マチルダ副団長の様子だと確実にゲイルも騎士団に勧誘したはずだ。でもゲイルはドレイン方伯の嫡男だしなあ。




***




帰宅の時間になって馬車停留場に向かう途中で今日はアビーから話しかけてきた。


「カイト。今日はどんな事を聞かれたの?」

「えーと。一番は魔法のことかな」


「魔法?? 私の時は軽く聞かれただけだけど・・」


「なんだか卒業したら近衛騎士団に入るように!ってリクルートに来たみたいだったよ」


「はははっ。 おかしいわね」


アビーが笑った!アビーが笑ったよ!笑い顔がやはりアビーには似合う。


「僕には唾をつけたからって騎士団入りを念押しまでしてくるし。」


「マチルダ副団長も美人だしなぁ・・・。私も近衛騎士団目指そうかな??」


美人なのと入団は関係あるのかな?


「カイト!お前は俺のライバルだな。近衛騎士団に俺は入る!」


なぜか肩を張り合ってくるウインライト。海賊王を目指さなくてよかった。


馬車停車場までのメンバーは昨日と変わらず、アビー、マーガレット、ウインライト、リオニー、シャルロットだ。


「僕は近衛騎士団に入るなんて決めてないから・・」


「カイトは魔法5属性持ちっていう学園始まって以来の天才だからね。欲しくなるはずだよ」


「5属性持ちやなんて、憧れのゲイルを超えてるもんな〜。うちも唾つけとくわ」


マーガレットとリオニーがやはり揃って話にはいってきた。


「カイトは魔法の天才・・ 私も唾つけてるの」

シャルロットも時々割り込んでくる。


「唾つけたらだめだからね!!!」

本当にアビーに元気が戻ってきたのかもしれない。大きな声で勝手な事言っている3人に怒ってくれた。


「唾はビアンカにたっぷりいつもつけられているから十分だよ」


「ビアンカちゃんの唾なら私もつけられてもいい。ビアンカちゃん元気にしてるかな?」


マーガレットはビカンカが大のお気に入りだ。


「そうだ。夏休みに入ったらまたビアンカとお出かけの約束をしてるんだ。演劇見てレストランに行ったり、海に泳ぎにいったり。みんなも来る??」


「あっ ルークが自慢してたレストランか!!俺もあそこは行ってみたかったんだ。是非誘ってくれ」


1番にウインライトが手を上げた。前回参加していないウインライトはルークに自慢されていたらしい。


「海で泳ぐんか!!めちゃたのしそうやん。」


「泳ぎに行く人は水着を用意してね」


「水着ってなんや??」

「海で泳ぐための服だよ。今僕とビアンカの分を試作してるから、出来たら見せるから、マーガレットに作ってもらおう。」


「水着!カイトすごい事かんがえるね。新しい服作るなんてドキドキする!」


結局ウインライト以外も全員笑顔で参加してくれる事になった。アビーも少し元気になってきたかもしれない。



**********



とうとう取り調べも4日目に入った。どんどん夏休みが後になって行く。


今日は2回目の聴き取りという事でルーク、カミーユ、シャルロット、アビー、イザベル・・が順番に呼ばれた。


そして今日は自習ではなく、ロビン先生が復習の授業をやってくれることになった。

皆の意見を聞きながら前に行った授業をもう一度学べるのはちょっと嬉しい。

僕は途中入学なので、特に魔法学についてリクエストしたらちゃんと講義してくれたので大満足だ。


**


イザベルが中央棟から帰ってくると、次はなぜか僕だと言われた。

もう話すことなんて無いと思うのだけど・・。



「昨日は調査へのご協力感謝する。今日も少し聞かせてもらいたいことがあってね」

マチルダ副団長がいつも通りのニヒルな笑みを浮かべてそう切り出す。

シュッとした美人なのでかっこいいんだよね。


「いいえ、それで調査は進展したのですか?」


「ヨハンナは知っているね?」


「もちろんです」


「なんだ?ヨハンナも狙っているのか?」

マチルダが僕の顔を見てとんでもない事を言う。いや、ヨハンナ好みだけど・・バレた?


「はははっ・・・。ご冗談を」


「まあ、君の好みはどうでもいい。

殿下とゲイルが話をしている時にそのヨハンナが殿下にという証言があってね。何か聞いてはいないか?」


「痴話喧嘩ですか??」


「この件は昨日、殿下にもお聞きした。殿下はご自分とゲイルが親しく話すのがヨハンナの気に触ったのでは?とおっしゃっているんだが・・」


「それでヨハンナが疑われていると?」


「何も知らないならいい。いや、疑ってはいないが念のためだ」


「ゲイルとヨハンナが襲われた事件はご存知ですか??」


「ああ、ゲイルとヨハンナから聞いたからな。裏も取った。

こんな重要な話が近衛騎士団副団長の私に伝わってこなかったとは、弛みすぎているな皇都の警備兵は。」


少し怒った顔をするマチルダ。怒った顔もなぜか素敵なのだ。


「君とルークが現場に居合わせて助けたそうだな。」


「はい。襲撃者は手だれのようでした。エリザベス殿下誘拐とは関係はないかもしれませんが、僕は調べてみる価値はあると思います」


「そうだな・・確かに。・・カイトくんは真聖教会が絡んでいるかもしれないと考えているのかね?」


「え?? そうなんですか?」


「とぼけているのか? ゲイルへの襲撃事件はおそらくアレッシオが関係していると聞いたが?」


「ああ、確かにその可能はありますね。僕もそう考えています。」


「カミーユ。そしてシャルロットはその教会が運営する修道院併設の孤児院で育っている」


「ええ??! それは初耳です。同郷だとは聞いていましたが・・・」


「地域は同じだが村が違うので同郷ではないな。孤児院で初めて顔を合わせたようだ。」


「でもシャルロットは事件の日は一日中・・夜も私と一緒でした。」


「そうだなシャルロットの容疑は晴れている。その時は君と肌を重ね合っていたんだからな。」

「肌は重ね合っていません!!」


「男と女の話だからな。深くは詮索しないでおこう。私が唾をつけていることだけ覚えておいてくれ。」


「だめだこりゃ・・。」


「それよりも、カミーユだ。

カミーユはBクラスなのに何故か殿下と一緒に鍋を食べている。その鍋に睡眠薬が入れられたと我々は見ている。

あっ、これは内密にな・・。

コホンッ 君は将来の騎士団のエースだからな特別に話している。外部には漏らすな。」


「わかりました。でも僕はカミーユとはほとんど話したことがないですし、お力にはなれないと思いますよ」


「シャルロットとは仲が良いんだろ?キャンプの夜に肌を重ねるくらいに?」


「・・・・。

野宿の時に寄り添っただけです。すぐ隣には先生も生徒もいましたし、僕は一切彼女にへんなことはしてません。」


「フフフッ。まあそう言う事にしておこう。」


「事実ですから!」


「しかし、シャルロットが君に気があるのは確かなんだろう?? 少しカミーユについて探ってみてくれないか??

シャルロットは何を聞いてもあまり喋りたがらないもんでな。困っているんだ。」


もう!シャルロット!僕にくっついたことは話したのに!



***************

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