第76話 取り調べ
次の日、本来は夏休みの予定だったのだが朝のホームルームが通常通り行われ、ロビン先生より今日は取り調べが行われるので教室で静かに自習して待機するように言われた。
『取り調べかあ。本当ならウハウハ夏休みを満喫していたはずなんだけどな』
そんなことをのんびり考えながら、魔法の授業で書き写したノートを眺めている・・。
朝から行われると思った取り調べは結局行われず、昼休憩になった。
「取り調べって何を聞かれるんだろ?」
食堂で昼食を共にしているマーガレットが不安な声でそう切り出してきた。
事件現場にいたマーガレットは色々聞かれそうな気がするし不安なんだろうね。
「そんなの誰か怪しい奴は見なかったか!?だとか、音は聞こえなかったか!?とかだろ?俺やカイトはそもそも現場にいなかったし早く休みにしてくれよ」
ウインライトの早く休みにしろってのには同感だ。でも殿下の誘拐事件だし、そんな簡単な取り調べではないだろう。
「僕たちは現場には居なかったから、現場の話は聞かれないだろうけど、人間関係とか?そんなのは聞かれるかもね」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「僕らは現場には居なかったとしても、状況は僕たちのキャンプと一緒だよね。
野外で寝ていたと言っても先生や生徒が周りにいるんだよ?
雨の夜でかなり暗かったはずだけど・・その中で誰にも気づかれずにエリザベス殿下を誘拐するとなると、殿下の寝ている位置を把握してたんじゃないかな?って思うよね」
「確かにそうだな。知らない奴がやってきて一人一人顔を確認とかできないな」
「だから、内通者がいると僕は思う」
「えー!!私たちの中に誘拐犯がいるってこと!?」
「マーガレット!声大きいわよ。」
アビーが周りを気にしながら注意する。
「でも確かにカイトの言うとおり、内通者がいるわよね。もちろんBクラスのみんなの中にいるとは思ってないわよ。エリザベスはAクラスなんだし・・。」
マーガレットはBクラスには内通者は居ないと考えているようだ。確かに僕らには動機がないしね。
「そうだね。ごめん疑心暗鬼にさせちゃったな。とりあえず事実をありのままに正直に言えばいいと思うよ」
「そうだな! パンのおかわり頼んでくるわ」
「私もおかわりしちゃおうかな。」
今日のシャルロットは静かだな・・・
横に座るシャルロットをチラッと見ると、シャルロットと目があった。
「シャルロットはどう思う?」
「カイトの言うとおりなの・・・。」
「やっぱ内通者いるよね。」
「わからないの・・・」
どっちなんだ???
********
お昼を食べて、午後の授業の時間になっても取り調べは行われないようだ・・。
Aクラスから先にやってるのかな??
午後からも以前に書き写したノートを読みながら時間だけが流れて行く。
そろそろ魔法も様になってきたことだし、魔法具についてもっと勉強したいな。
魔法具職人を目指してもいいかもしれないなんて本気で考えているけど、全く知識が足りないわけで・・。皇国屈指の図書館で夏休みの間にいろいろ調べてみよう。
等など、色々考えることはあるが・・・・・・暇だ。
もう今日は取り調べはないのかと思っていたら、ロビン先生が教室に入ってきた。
「みなさん。お待たせしましたね。今日は学園の警備兵から取り調べがあると話ていましたが、こ、皇帝陛下のご命令で近衛騎士団が事件の調査を行うこととなりました。
今学園長とその件で打ち合わせ中です。もう少し自習していてください」
大ごとになってきた?
***
学園に近衛騎士団が大挙して押しかけてきた。
「近衛騎士団がきたよ」
窓の外を眺めていたサイモンがそう告げると、クラスメイト達が窓側に集まって、30名ほどの鋼の鎧を纏った騎士達がこちらに向かってくるのを眺める。
威圧感は半端ないんですけど・・。
しばらくすると、ロビン先生ともう一人、白銀の鎧を纏い黒髪を後ろで束ねた女性が教室に入ってくる。
女性は30代中頃といったところだろうか。美しい整った顔をしていて、鎧には青いラインが2本縦に入っていた。
えっとその縦の線は・・かなり偉い人の印だったはず・・・近衛騎士団の偉いさんがやってきたの!?
「みなさんおはようございます。今日は合宿で起きた事件について近衛騎士団による聞き取りの調査があります。
いつでも取り調べに応じられるようにここで待機していてください。
では、どうぞ。」
「私はグローリオン皇国直下の近衛騎士団副団長マチルダ-レミントンだ。
皇帝陛下の勅命により皇女殿下誘拐事件の調査を命じられた。
諸君らは、我々が聞くことに対して包み隠さず話すように。もし首謀者を隠し立てしているとわかった場合は、皇帝陛下の名の下に厳しい処罰を下すことになる」
皇国が誇る近衛騎士団のNo2である副団長の登場に生徒たちに緊張が走る。皇帝陛下の勅命・・それだけ大ごとになっていると言うことだ。
下手な嫌疑がかかれば事件に関係なくても処断されるかもしれない。
「では最初はルークくん。1階の会議部屋まで同行願おう」
**********
【マチルダ視点】
私は皇帝陛下からの勅命を受け、エリザベス殿下誘拐の首謀者を割り出すため魔法学園にきている。
学園長であるフィリップ-ウインドイン先生とは私が魔法学園在学時の来、20年近く親交がある。
だからではないが学園長には我々のすべての要望を聞き入れてもらえた。
1、学園管理棟に事件の調査本部を設ける事。
2、教職員用の中央棟一階に取調室を2つ設ける事。
3、生徒の拘束権を近衛騎士団が持つ事。
4、取り調べは授業より優先する事。
皇帝陛下の御命令で取り調べを行うので受け入れるのは当然なのだが・・。
取り調べ室を2つにしたのは効率化のためで、隣の取り調べ室ではAクラス一班からメルヴィン中隊長が主に取り調べしている。
そして、今私の目の前にいるのは、ルーク・・殿下を救った男だ。
「君の名前を聞かせてもらっても?」
「ルーク・・です。」
「君はエリザベス殿下を誘拐犯から守った英雄だと聞いている。素晴らしい功績だ。護衛を任されていた近衛騎士に代わって礼を言う。ありがとう。」
「あっ、いえ俺はやるべきことをやっただけです。」
「謙遜することはない。君がいなければ殿下のお命はなかっただろう。そして我々近衛騎士団のメンツも丸潰れだった」
「はい・・」
「では、英雄のルークくん、君がエリザベス殿下を助けた経緯を教えてくれるかな?」
「はい。俺は・・」
********
「では初めから質問させてもらおう、君はレイラの声で目が覚めたと言う事だが、当時は雨が激しく降っていたのに良く聞こえたね」
「・・。そうですね。最初は女性の声が聞こえた気がしただけだったんだけど。それでまた寝ようと思ったら、もう一度聞こえたんで目が覚めました」
「でも、エリザベス殿下が連れ去られる時の足音には気づかなかったんだね」
「はい、そのことは全く気づかなかったです」
マチルダはジーッとルークの瞳を見つめるが、嘘をついている風には感じない。
「わかった。では、その誘拐犯だが、ローブを羽織った男が2人だったな。もう少し詳細におしえてくれないか?」
「一人は暗い色のローブを羽織っていて、そいつは俺が切り倒しました。
もう一人は明るい色のローブで・・もしかしたら白色かもしれません。」
「色ははっきりとわからないのだね?」
「はい。月夜でしたので・・」
「雨なのにその時は月はでていたのかい?」
「その時は・・、その時だけは雨が上がっていました。だから見失っていた筏を発見できたんです」
これも嘘を言ってる風ではない・・。
これから担当の教師だったアーサーを連れて現地に人を送る予定だが、おそらく何も見つかるまい。
「ふーん・・。
年齢や人相はわかるか?」
「月夜といってもローブだったんで・・でも奴らの声の感じだと・・どちらも30代の男だと思った・・思いました」
「そいつらはどんな事を言ったんだい?」
「「ガキが・・」とかなんとか。
それと白っぽいローブの男は「神の導き」だとか言ってました。
あと「エリザベス殿下は皇帝になるべきではない」と・・」
「「殿下は皇帝になるべきではない」そう言ったのか?!それは確かか!?」
「はい、本当です。ちゃんと覚えています。ひどい言い草だと思ったので」
なるほど・・やはり次期皇帝争いか・・。
それと神の導き・・真聖教会が??
「ありがとう・・あとは君の生い立ちや、友達のこと、個人的な質問をして行くのだがよいかな?」
「は、はい・・」
************
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