第74話 勅命

グローリオン皇国の皇都ロンドアダマス。


その昔、狼人族と人間族の争いの混乱の中、大陸中央南部に数ある都市国家の一つポタミアから移り住んだ人々が作り上げた都市国家イハリアがその原形である。


共和政都市国家であるイハリアでは市民が軍事の中心であり、市民から構成される軍の士気は非常に高かった。


ゆえにその武力は他の疲弊した地域を圧倒した。


瞬く間に大陸東部の大部分を手中に収めたイハリアであったが、領土拡大とともに軍は市民軍ではなくり、傭兵や奴隷が多く使われるようになっていた。


そうった混成軍は士気も低く、北部の狼人族国家に長い間苦渋を舐めさせられていた。

共和政国家は都市国家ではうまく機能するが、領土が広がるにつれ共和政の強みが失われいったといっても良い。


そんな中、20万とも言われる大軍勢を率いて北部征伐に成功したイハリアの大将軍グローリオン-マジェストルは、その勢いのまま祖国であるイハリアに攻め込み制圧すると、自身が真聖教の法皇を名乗り、そして法皇の名の下に皇帝として自分の名をつけた皇国を立ち上げた。

※皇国では国のトップの皇帝と真聖教のトップである法皇は同じ人物になる。


純粋な市民軍であったかつてのイハリアではそういったことは起こり得なかっただろう。市民兵は自分たちの国を守ることを使命としているのだから。


しかし混成のイハリア兵は英雄的存在の大将軍グローリオンの信奉者になり、各地でイハリアの属領に甘んじていた地域や、首都イハリアの中でも土地を失った貧しい市民たちはグローリオン大将軍の新しい国を熱烈に支持した。


そして誕生したのがグローリオン皇国であり、共和政イハリアの首都だった街(イハリア)が今の皇都ロンドアダマスである。



それから600年・・。


その皇都ロンドアダマスの中心に大きく聳える皇城の一室。

豪華な調度品と鮮やかな色彩の壁紙に囲まれた煌びやかな部屋にこの国の皇帝たる人物はいた。


金と純白の絹糸で織られた高貴な衣服を身にまとう50前後の男性に、長い髭を蓄えた初老の男性が近寄り声をかける。


「皇帝陛下。・・エリザベス殿下が襲われました。」

「なに!? どういう事だ?」


「先ほど魔法学園より使者が参りまして、その使者によるとアインホルンの森でエリザベス殿下の誘拐未遂事件が起きたそうです。」


「エリザベスは無事なのか!?」


「エリザベス殿下は学園の生徒の一人に助け出されたとのことです。お怪我はありません。」


「そうか。ならばよかった。 しかしアインホルンの森・・・ビーストウッドか。何故そんなところに?」


「魔法学園では毎年夏に訓練のため合宿を行なっています。その場所がアインホルンの森となっております。」


「そうか・・そうだったな。 エリザベスには優秀な近衛騎士を護衛につけていたはずだが??」


「はい。しかし護衛の騎士の一人が負傷でその日は側にはおらず、もう一人も睡眠薬で眠らされていたようで・・。」


「睡眠薬に気づかなかったと言うのか!」

「はい。もしかすると内通者がいたのでは?とのことです。」


「それで、誰が首謀者かわかっているのか?? 内通者の目星は?」


「いえ・・・。 今、学園にいる皇都警備兵がすでに調査を開始しているようですが・・。」


「警備兵では話にならん。近衛騎士を動かせ。そうだな・・マチルダに調査させろ」

「副団長にですか?」


「マチルダは聡明で学園主席卒業だったと聞く。学園長とも親しいであろう。」


「畏まりました。ではアルフォンス(騎士団長)にそう命じましょう。」


「エリザベスの元気な顔が見たい。今回のことで疲れておるだろうが、明日にでもここに顔を見せるように手配してくれ。」


「畏まりました。」


「さて・・・。長官はどう考える?」

「・・・・。証拠もなしに答えるのは憚れます・・。」


「よい。卿の私的な意見を聞いておる」


「・・・・・・・

本当によろしいのでしょうか?」


「そういっておる。・・・ラッセルか?」


「いえ・・・・。もちろんその可能性もございます。


皇帝陛下がご心配されるとおり・・

1つは・・皇太子のラッセル殿下・・。2つ目は第二皇子のジェイソン殿下・・。

3つ目として、その背後にいる貴族たちが動いている可能性も十分あります。


エリザベス殿下が魔法の才能を見せた事で次期皇帝の椅子を巡って両陣営の貴族たちの動きが活発化していると聞きます。

どちらかの陣営が動いたと見ていいのではと考えます。」


「そうか・・。余はラッセルに任せようと思っておったのだがな・・・。」


「しかし、枢機院は神の導きの原則に従い、エリザベス殿下をといってきておりますが・・。」


「しかし・・それでは長子であるラッセルやジェイソンが納得しまい・・。

・・それが今回の件を招いたのかもしれんな。」




************




ロンドアダマス城の西の端に近衛騎士団の本拠となる建物群がある。

その一室に黒く長い髪を靡かせる半狼人族ハーフワーウルフの男性が入ってきた。


「マチルダはいるか?」


「ハッ! マチルダ副団長はただいま野外にて魔法の実演中です。」

呼びかけられた男性は即座に立ち上がり両手を背にするポーズの敬礼をしてそう答える。


「また魔法で遊んでいるのか・・。副団長としての職務はどうしたんだ。」

「ハッ! 書類は全て片付けていらっしゃいます。」


「そうか、じゃあ誰か呼んでこさせろ」

「ハッ!」



*******



「ただいま戻りました! アルフォンス団長お呼びでしょうか!」


「ああ、呼んだ。お前さんエリザベス殿下が襲われたことは聞いたか?」


「いえ・・・。えっ!エリザベス殿下が襲われたのですか?!」


「ああ、だが無事だ。どうやら誘拐を試みたみたいだが、学生の一人が救い出した。怪我もない」


「ご無事だったのですね。安心しました。」


「そこでだ。その事で陛下が気に病んでいらっしゃるそうでな・・。


勅命が出た。

マチルダ。お前さんをご指名だ。

学園に行って首謀者を探し出せ。人選は任せる」


「わ、私に勅命ですか・・? 」


「お前さんは魔法の天才だ。しかも魔法学園を主席で卒業したんだろ?

魔法学園のことをよく知っているだろうとのご判断だ。それにお前さんは皇帝陛下の覚えが良いからな」


「そういうことですか・・。陛下にご指名いただけるとは光栄です。」


「明日の昼にエリザベス殿下が陛下とお会いになる。その後に時間がもらえるよう頼んでいるから、まずは殿下から事の詳細をお聞きしろ。それから学園に向かえ。」


「わかりました。殿下にお会いした後に学園に向かいます。」


「ああ学園長のフィリップによろしくな。あいつには昔から煮湯ばかり味わされたからな。」


「フィリップ先生は団長のように野蛮ではないと思いますけどね。」


「おいおい。俺は獣じゃねえぞっ・・。まあいい、頼んだ」




*****************



※※※※※※※※※※ 初投稿から1ヶ月経たずに 74話までやってきました。

拙い文章をここまでお読みいただき本当に感謝感激です。※※※※※※※※※※


今後は更新頻度を下げて文章チェックや、過去の見直しをしたりしていきます。

いや、すごい上手い文章を書く他の作者さんを見て、これではあかんと思ったわけです。

※特に戦闘シーンは酷いので直さないといけないと思い立っております。


それで過去の話も少し読み返したりして、少し手をいれて直しておりまする。

直しても大した文章ではないのですが・・・


by作者。


追加:ちなみに戦闘シーンの迫力に感動したのは、黒ーんさんという方の作品です。 他のみなさんも私よりもずっと上手い方ばっかりですが、この方の文章は私的には特に素晴らしいと思いました。この方と比べると私のは幼稚園児のままごとのようなもんです。

Liberator. The Nobody’s.

https://kakuyomu.jp/works/16816927859811622493

魔物が暴れる未来のお話です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る