第73話 複雑な想い

【ルーク視点】


長い夜が明けた。いや、短い夜でもあった。


森にも薄暗いながら光が戻り、鳥たちが好き勝手に鳴いている。

夜中に降り注いでいた雨は完全に上がり、少し離れた川辺には光が差し込んでいる。


「そろそろみんなのところに戻ろうか・・」

俺はエリザベスの体温と離れる寂しさを感じつつ立ち上がりると、エリザベスに手を貸し引き起こす。


そのまま手を引きエリザベスの華奢な体を抱き寄せると、もう一度深い口付けをする。


「お前は俺が絶対に守るから」


俺がエリザベスにそう約束をすると、エリザベスは黙って頷く。


武器はない。魔法具もない。獣に襲われれば守る手段はない。

それでも俺は心に誓う。エリザベスを守ると。


「剣は川においてきちまったからな。もし獣と遭遇したらエリザベスは川辺に逃げろ。俺が獣を引きつける。」


「ダメです。ルークと私は一心同体ですよ。 く、口付けも交わしましたし・・。」


「俺はエリザベスを守りたい。それだけだ。」

そういってルークは川上向かって歩き出す。


30分くらい歩いただろうか。鳥の声と川が流れる音に混じって人の声が聞こえたような気がした。

獣かもしれない。ルークは近くに落ちていたまっすぐな枝を取りそのまま移動する。


・・・デンカー・・・


また、声のようなものが聞こえた。


どうやら川の方から聞こえてくるようだ。もしかしたらクラスの誰かの声かもしれない。

その声を聞き逃さないためにも、できるだけ川の側を進むことにする。





「デンカーーー!!!」「デンカーーーー!!!」

今度ははっきりと聞き取れる声が聞こえた。


「レイラ!!!!!」

川向こうから聞こえる声にエリザベスが反応する。


「レイラよ!レイラが探してくれているんだわ。」



「レイラーーーー!!!」

エリザベスは俺の元を駆け出し川辺に降り叫んだ。


「レイラーーー!!!」


何度か名前を叫び続けると、川向こうに人が現れる。

レイラとゲイルだった。


「レイラーーー!!!!」「姫様!!!姫様!!!!!」



「姫様・・よくご無事で・・・」

「エイザベス・・無事で良かった。」

レイラとゲイルはエリザベスを心配して夜なか中探してくれていたようだ。


「ルーク!!お手柄だ!! もう少し北に歩けばロープを伝って渡れる」

ゲイルの言葉が何故か頼もしく感じる。



「それと・・・気をつけろよ。」


ゲイルは自身の腰についていた剣を鞘ごと外し槍のように投げた。


カランカラン・・


投げられた剣は見事にルークの足元の砂利に転がる。


「お前がそのお姫様を守るのに必要だからな。あとで返せ」


ありがたい。

これでエリザベスを守れる。転がった剣を手に取り、ゲイルに向けて高く持ち上げる。


俺は「ありがとうゲイル」そう独り言のようにつぶやき、剣を片手にエリザベスの手を取って、渡河出来る場所を目指した。




**********


【カイト視点】


シャルロットの行動は大胆だったな〜。

僕は浮かれ半分、戸惑い半分、睡眠不足100%の状態でベースキャンプへ帰ってきた。


僕たちの班がベースキャンプにつくと、すでにもう一方の班がベースキャンプに戻ってきていたのだが・・・。


なにか皆様の雰囲気がおかしい・・。


いや、今日が森の大冒険の最終日だし、浮かれるのはわかるよ。

でも浮かれているのとは違った雰囲気があった。


早速、見つけたアビーに事情を確認しようと思ったけど・・なんかアビーが辛そうな顔をしているので、恐る恐る声をかけてみる。


「ど、どうかしたの?」


「カイト!!!!!」

僕に声をかけられたアビーが悲しい顔から一転元気を取り戻す。


「なにかあった?」

「カイト会いたかった!!」

えっ??なにそれ? そんなこと言われるとちょっと嬉しいけど・・モテ期かな??



「聞いて欲しいのよ!!」

「う、うん」


「昨日の夜、私たちのキャンプが襲われて・・・。エリザベス殿下が誘拐されたの!!」


「え!!え、エリザベス殿下が誘拐!!!!!!」


僕は驚いて大声で声を上げる。

ノベルでもゲームでもそんな事件は起きていない。エリザベスはキーマンの一人ではあるのは確かだが・・・。


「ちゃんと最後まで聞いて。エリザベス殿下は誘拐されたけど、救出されたわ。」


ホッ 先に言ってくれ心臓に悪いぞ。


「でもね、ケンロック先生が殺されたわ・・・・。」

エリザベスが悲しそうな顔をして恐ろしい話をする。


「えええええ。ケンロック先生が!!?」


ケンロック先生は騎兵術の先生なのでまだ教わったことはなかったけど・・30歳くらいの渋めの先生だった。


「どういうこと??」


「ケンロック先生は焚き火の側で見張りをしていたらしいんだけど・・首を引き裂かれていて・・」


「南無阿弥陀仏・・・」

僕は思わず手を合わせてご冥福を祈った。


「それで、ケンロック先生の側で寝ていたエリザベス殿下が誘拐されて・・・」


「護衛のレイラが側にいたんじゃないの?」


「寝ていてすぐには気づかなかったみたい。でも川辺で何かが起きていることに気づいて追いかけたそうなんだけど・・それで負傷しているわ」


「じゃあ殿下は誰が助けたの??」


「ルークよ・・・。」


何故かアビーの顔が悲しくなった。


「ルークが言うには、誘拐犯は2名で「神の意思」だとかなんだとか言ってたそうよ・・・」


パオロだなうん。誘拐っていった時点で想像できた。パオロだ。パオロ大司教関係はろくなことしないからな。


「そっか。神のご意志か・・・。ろくな奴らじゃないね。

でも、さすがルークだね!!そんなやばい奴らから殿下を救い出したんだから」


「う、うん」


「どうしたの??ルークが活躍したのに・・

あっ!?ルークが負傷した??だったら僕がすぐに治療しないと・・」


「そうじゃないの・・。」


なになに?? えっ?!どういうこと? そういうこと??

「・・・・・???」


「ルークが・・・」

そう言うとアビーが泣き出しそうな顔になる。


「まさかエリザベス殿下ルートに??」

「ルークが・・・」


「ルークがどうしたんだよ。ハッキリいえ!」

僕はちょっと声を荒げてしまった。


「ルークがエリザベス殿下を助けて・・・・本気で彼女に惚れたっぽいの・・」


「えっ!!エリザベス殿下に?!!ルークが!?」


あのエリザベス殿下に本気で惚れたって!?・・僕の計画では僕がエリザベス殿下をモノにするはずだったのだ!!


全く絵に描いた餅で、絵にもかいてないけども。

しかし、ラノベではそんな話はなかったけど・・。


でも・・ゲームではルークは主人公。

エリゼベス殿下攻略ルートも存在していたそうだし・・さらには難易度高いがハーレムルートも存在したらしいからね。あり得ない話ではない。


いや、僕の妄想的計画なんかよりも目の前にいるアビーのショックは計り知れない。

アビーの目に堪えていた涙が滲み出ていた。声を荒げて悪かったよ・・。

俺は咄嗟に肩を抱き、そして頭をポンポンしてやる。


「うううう・・・うううう・・・・」

堪えていた涙が流れ出てしまったようだ。


「つらかったね・・・・。」

過去形にしてしまった。慌てて何かを言うもんじゃないな。


「ルークがそうだと決まったわけじゃないよ・・僕もルークに話を聞いてみるから」


ちょっと取り繕う。もちろん本心の言葉だ。あのルークが??と思わなくもない。


いつもは元気で勝気なアビーなのに、今はしおらしく僕の腕の中にいる。アビーは大本命だし全然悪い気はしない。

いや、ずっと抱いていてもいいくらいだ。


ルークがエリザベスに・・・・ってことはワンチャンあるのか?


いやいや、おしどり夫婦のルークとアビーを応援しなくちゃ、メインストーリーどうなるの!?

いいや、僕がいる時点で元のストーリー展開なんて無いも同然だよね?


いやまてよ・・・でも・・・だったら・・・。


うーん。心が複雑に折れ曲がる。


なんて馬鹿なことを考えていた。



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