第72話 ルークとエリザベス
【レイラ視点】
ルークが姫様を救いに向かってくれた。
それだけが救いだ。それに賭けるしかない。私は無理に岩場を走って負傷してしまったのだから・・・。
月がまた雲に隠れ、辺りが暗闇に戻っていく・・。
暗い森の野営地へ負傷した足を引きずりつつ一歩一歩足を進めていると、一人の人影が姿を表した。
「何があった?」
人影の声はエリザベス殿下と同じクラスのゲイルだ。
「でんか・・、エリザベス殿下が・・・」
ゲイルが近づいてきて私の肩に手をかける。
彼は腰に剣と左手に魔法具を携えている。私の叫び声に何かがあったと思いやってきてくれたに違いない。
しかし、ゲイルはいわば仇敵だ。
ゲイルの父、ドレイン方伯は皇国にあって皇帝陛下についで力を持つ人物と言って過言はない。そのドレイン方伯は第二皇子を次の皇帝にしようと画策していると聞く・・。
その息子・・ゲイルはいわば姫様の敵である・・・。しかし・・・・。
「殿下が・・エリザベス殿下が攫われました・・。」
そう泣き出しそうな心をおさえて伝える。
「何!!?エリザベスが!! ッチ 第二皇子か!!」
ゲイルは驚いた声を上げる。
「どっちだ!!」
「川下に船で・・・」
それを聞いた途端にゲイルはすぐに川下に走り出す。
「殿下をお救いください!!!!」
レイラはゲイルの背中にありったけの声をだした。
敵側であるゲイルに姫様の危機を伝える事が良い事なのか?は、わからない。
もしかしたらゲイルが仕組んだ事なのかもしれないのだ。
しかし・・。しかし、姫様を救うにはそれしか手がないのだ・・。
*****
【ルーク視点】
ゴボゴボゴボ・・。
「ハアハア」
俺はエリザベスの体を抱いて泳いだ。川の水量は雨で増えていて息をするのもおぼつかない。
エリザベスを助けたい!その一心で必死に水を掻いた。
!!!!
足が地を捉える。
俺は川の流れが緩やかなその場所からエリザベスを抱えて持ち上げ、一歩ずつ岸に近づき・・・
そしてどうにか辿り着いた河岸からエリザベスを引き上げた。
「ゴボッ!! ゲホッ!! ゲホッ!」
途端エリザベスが水を吐き出す。
「エリザベス!!大丈夫か??」
声をかけるとエリザベスはゆっくり目をひらく。
エリザベスは生きている!しかも意識もある。
「る・・・く・・・」
エリザベスは俺を見ると、俺の名前を口にする。
「よかった!!!ほんとによかった!!!」
エリザベスを強く抱きしめる。本当によかった・・・・。
この川の水は夏でも冷たい。俺の腕の中のエリザベスの体は冷え切っていた。
のこのままではまずい。エリザベスを温めなければ・・。
俺はエリザベスを抱き抱えると、森の中へ入り雨がしのげる大樹の根元にエリザベスを下ろし、冷え切ったエリザベスの体を包むように後ろから抱きつき寄り添った。
「エリザベス殿下、寒くないか??」
「あり・・がと・・」
エリザベスの返事はたどたどしい。
「大丈夫だ俺がいる。死なせはしない・・・。安心しろ」
「ルーク・・・」
エリザベスを抱きしめたまま、体が温まる事だけを考えていた。
頼りの火の魔法具はない。この雨では魔法具なしで火を起こすことは困難だろう。
エリザベスは俺の体で温めるしかないのだ。
雨は強さを増し、ザアーーッと言う音だけが森に響いていた。
***********
どれほどの時間、暗闇の中でエリザベスを抱きしめ続けていただろう。
雨音が弱くなり森に静けさがやってきた頃、エリザベスの体は先ほどのような冷えた体ではなく温もりを取り戻していた。
「ルーク・・・。」
つぶやく言葉がしっかりとした意識を感じさせる。
「ルークわたし・・何があったの・・?」
「覚えてないのか??」
「はい・・・・。
寝ている時に急に息苦しくなって・・・何かが口を塞いでた・・・・。
そこから記憶がない・わ・・。」
まだ体力は回復してはいないが、エリザベスは話が出来る程度まで意識が戻ったようだ。
「そしていきなり水の中にいて・・・息が苦しくて・・・・・。」
「君は何者かに拐われて筏に乗せられていたんだ。」
「私は誘拐されたの?」
「そうだよ。ローブを被った二人の男に連れ去られようとしていた。奴らは神の意思だとかなんとかいってたけどな。」
「あなたが助けてくれたのね。ありがとうルーク」
「大変だったんだからな。この暗闇なんだから・・。」
あたりは闇とかすかな雨の音が支配していて、月が姿を表す様子はない。
しかしこの闇の中でも感じるエリザベスの体温だけがルークに安堵感を与えている。
「ルーク・・・」
「なんだ殿下」
「あたたかい。」
「俺のハートは今燃えているからな」
「心も温かいのね」
「もちろんだ・・。殿下を守るためなら火の中でも水の中でもいくぜ」
「殿下はやめて エリザベスって呼んで」
「エリザベス・・・・・。ちょっとレイラさんに叱られそうだな・・」
「じゃあ二人の時だけ・・。」
「じゃあ二人の時だけだ。 エリザベス」
そう言うと、エリザベスが振り向く。
うっすら夜が明けてきたのだろうか? 振り向いたエリザベスの美しい顔がそこに見えた。
そして、どちらともなく口付けする。
しだいに口付けは激しくなり・・どちらともなく貪るような熱いキスになった。
長い口付けが終わるとエリザベスの顔がさらにはっきり見えるくらいの光が森に満ちていた。
闇が支配していたはずのアインホルンの森の木々が色を持ち始め、いつの間にか雨もあがり鳥の鳴き声も聞こえ始めている。
森が動き始めたのだ・・・。
エリザベスが俺の腕の中にいる・・。夜明けの光によってその事がより現実になっていく。
エリザベスはとても美しかった。俺を見つめる瞳、そして艶やかな唇・・全てが美く愛おしいと感じる。
俺には手の届かないと思っていた・・・・・・。
憧れだった存在・・・・・。
そのエリザベスが潤んだ瞳で俺を見つめている。
俺の込み上げる胸の高鳴りは・・もう消すことはできない。
エリザベスが好きだ。大好きだ・・・。
俺は本気でエリザベスに惚れっちまったのだ・・という事実を。
アインホルンの森の夜がゆっくりとあけていく。
***************
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