第71話 暗闘

【ルーク視点】


ザーーーーー。 深夜のアインホルンの森に雨が降る。



ザーーーーー。



デンカー!!!エリザベスデンカーーー!!


森で眠りについていた俺は女性の声が聞こえた気がして、少しだけ意識が戻る。



ザーーーーー。


「んん・・・・。」


しかし・・夢だったのだろうか・・・森には雨の音しか聞こえない。



ザーーーーー。


「・・・・」



エリザベスデンカーーーーーー!!


!?


やはり女性の声だ!



「デンカーーーーーー!!!」



深夜の雨の森で女性が大きな声でなにかを叫んでいる!!!


エリザベス!?・・・そのように聞こえた気もする。


ハッと体を起こし辺りを見廻すが、森は真っ暗な闇に包まれていた。


森の向こう側・・少しだけ明るくなる川の方から声が聞こえたはずだ。

俺は近くに置いてある剣を弄り寄せるとすぐに川に向かって駆け出した。


「エリザベスデンカーーーーーー!!」


「デンカーーーーーー!!!」


川に近づくほど女性の声は大きくなる。

『この声は護衛のレイラか?』


川が見下ろせる森の切れ目まで来ると少しだけ明るくなり、薄暗い川辺にレイラらしき人影が見えた。


「どうしたんだ!!!」俺は声を張り上げる。


「で・・・で・・・・ハァハァ・・」

レイラと思われる人影は言葉にならない声をだす。


その時、雨雲に切間ができたのだろう川全体を月の光が照らした。


月の光が人影だった人物を明るく照らす。エリザベスの護衛であるレイラがそこにいた。彼女は負傷したのかその体を岩に預けている。


「で・・殿下が!!・・・つ、連れ去られた!・・たすけてくれ!!・・姫様を救ってくれ!!」


エリザベスが連れ去られた!?!? 一瞬で俺の心臓に身体中の血が集まる。


すぐに視線を川に移す・・・。

その先に月に照らされた川に暗い何が見える。いや人の影が2人、筏に乗っているのがわかる。


あれか!!!!

エリザベスを助けなければ!!!


「俺に任せろ!!!!」


そうレイラに告げると俺は月明かりを頼りに川側の森を走り出した。


しかしすぐに月明かりは雲に隠れ、アインホルンの森を暗闇が支配する。


暗闇の中で全力疾走はできない。

ぬかるむ土と森の木の根が邪魔をし、何度かつまずき転倒しそうになるが、それでもエリザベスを見失うわけにはいかないと走り続ける。


雲に月が隠れたせいで川も闇が覆い筏の位置がわからなくなるが、それでも走り続けるしかない。

真っ暗な闇の中、どうにか走り続けること10分ほどだろうか。


また雲の間から月が姿を現した。


見えた!!


川下50mほど先だろうか。筏はまだ追いつける距離にいる。


岩が多いエリアに入って慎重になっているのかもしれない。筏は岩の間を進むように進んでいた。


俺は月明かりを頼りに速度を上げ、森を駆続ける。しばらく走り森の切れ目からまた川を確認すると・・・今度は数十メートル後方に筏が見えた。


『よし!これならいける!』

俺は勢いを緩める事なく走り、筏に近寄る事が出来る岩場を探す。


『あそこなら筏が通過する時に飛び乗れるはずだ!』


筏に近寄れそうな岩が等間隔に並ぶ場所を見つけると、鍛えた足で岩へジャンプする。

月明かりのおかげで着地もスムーズにいった。


さらに別の岩に飛び移り、筏が横を通過するであろう大岩までたどりつくと、筏はちょうどその岩の先まで来ている。


筏の上の2人の人影が岩を避けようと手に持つ棒を伸ばし方向を変えようとしたところで、俺は筏にダイブした。


筏がその衝撃で大きく揺れる。


筏に乗っているのは2人だ。

エリザベスを挟んで前方に暗い色のローブの男が1人、後方に白っぽいローブを羽織る人物が1人。


俺は飛び乗ったと同時に暗い色のローブを羽織る男目掛けて剣で切りつけるが、筏が揺れてバランスがうまく取れない。


ルークの振った剣は相手の持つ櫂の棒を切り裂き見事に半分したが、ローブの男にはなんのダメージも与える事ができなかった。


「ガキかよ。学生風情がそんな剣で俺にかてるかよ」

ローブの男は俺を見てそう言うと半分になった櫂を捨て、腰の剣を引き抜くと同時に横殴りに切り掛かってくる。


カキン!


カキン!


ローブの男も剣を使うのは慣れているようだ。剣と剣がぶつかり合う音が辺りに響く。


剣と剣を数度合わせた時、

ゴン!!


筏が岩をかすめ、また大きく揺れた。


その衝撃で男は横によろけるが、ルークは筏の衝撃を落とした腰でどうにか受け止めると、横に構えていた剣を振り抜ぬく。


ヒュン!!


「うぐ・・・・」


ルークの振った剣が男の体を切り裂いた。


バシャーン!!!

腹を切られた男はそのまま川へ倒れて落ちる。


ルークはすぐに寝かされているエリザベスを確認して、そのまま筏の後方に向けて足を進める。


後ろで櫂を握っていた白っぽいローブ姿の男は、その櫂を投げ捨てローブの下から杖を取り出す。


「神のお導きを邪魔するとはな・・。」


「神の導き??何言ってんだ??」

ルークは怒り気味に返答をする。


「エリザベス殿下は、神より力を授かった。だがそれは皇帝になるための力ではない。」


「力???」


「まあいい。お前は俺には勝てない」


「神の導きだかなんだかしらねえが!エリザベスは俺が守る!!」


「その剣でか??」


男は魔法具の杖をルークに向ける。


その瞬間、杖が眩く光り


シュッ 何かが杖のあたりから飛び出す。

ルークは何が出て来たのか見えないながらも、体を逸らし剣で自分の顔を守る。


「クッ!!」

杖から出るなにかが、ルークの肩口を切り裂いていた。しかし革鎧のおかげで傷は浅い。


「ウインドカッターか・・。」


さらに相手の杖が光る!

ルークは姿勢を低くし、剣を前に突き出したまま、前に突撃する。


風の刃はちょうど前に出した剣に当たったのだろうか?何かが剣に当たった感覚はあるが体にはダメージはない。


ルークはそのまま剣を白いローブの男に突き出す。


しかし、杖とは別の腕に持つ短剣で方向を逸らされ、ルークの剣は宙を突き刺した。


「あまい。あまい。ガキが!!」


ローブの男の杖がルークに狙いを定める。


その瞬間!


ドゴン!!!!!!!!


また強い衝撃が筏を襲った。

今度の衝撃は人が踏ん張れるような衝撃ではなく・・筏が壊れるかのような強烈な衝撃だった。


その勢いで全員が筏から投げ飛ばされる。


筏が岩にぶつかったのだろう。筏を操るものがいないのだから当然の結果かもしれない。


筏は衝撃で見事にバラバラになりルークは水に投げ出される。


ゴボゴボゴボ!!


水中の中は暗い闇の空間だった。ルークには全く何も見えない。


『エリザベスを助けなければ!!』

川の中で足掻きながらルークはそのことだけを考えていた。



ゴボゴボゴボ!!


ゴボゴボゴボ・・・・。



一瞬目の前に金色に光る髪が見える!! エリザベスだ!!!

一心不乱でその光に手を伸ばす。


ゴボゴボゴボ・・・・。


その光には手は届かず・・川の流れで見失いそうになる。


ゴボゴボゴボ・・・・。



ゴボゴボ・・。

ルークは真っ暗闇の水の中で金色の髪に向かい必死に水を掻いた。


そして手を伸ばし・・・


エリザベスの体を掴んだ。



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