第67話 探索5日目(カイト班)
4日目の森の探索授業が終わり、どの班も負傷者を出す事なくベースキャンプに帰ってきた。
しかも今日はどの班も狩りの成果があったようだ。少し雨が降っていたのが幸いしたのだろうか??
全体でブラッドウルフ4頭、ワイルドボア2頭、クラフティウイゼル(大型イタチ)4頭、マッドネスホーン(大型の凶暴な鹿)1頭。この合宿に来て最大の狩果だ。
特にマッドネスホーンはかなり危ない巨大鹿で、その凶悪なツノでひと突きされれば運が良くても重症。運が悪ければ死亡する。
こいつは僕たちの班がメインで狩りとった。
当初、A二班が小太りのエイブを先頭に狩りを行おうとしたけど、気づかれてマッドネスホーンは逃げ出したんだ。
でもそれを予想(期待?)していた僕達がB一班のエイブ達とは逆から囲むように陣取っていたのが幸いした。
囲まれた事がわかったマッドネスホーンは闘争本能に火がついたのか、逃げるのをやめて僕達に突っ込んできた。
ぬかるんだ地面だったけど、回避を徹底したので角を喰らう者はなく、最後はリオニーの雷撃と僕の炎でどうにかこうにか倒したわけだ。
これで鹿肉が食べられるね。
そして探索開始から5日目。
とうとうアインホルンの森の最終探索をする時がやってきた。
今回の探索=課外授業は1泊2日の行程だ。昨日と同じ組み合わせの班でそれぞれ別の目標に向かう。
僕たちB1班とA2班は、森の奥を抜けたところにあるユニコーンが走るという丘を目指し、その後近くの川辺で野宿を行い明日はベースキャンプまで帰ってくる予定だ。
ゲイルのA1班とルーク達のB2班の組はワイバーンの巣があるという恐ろしい山麓の岩山を目指すらしい。
どちらも生態を観察する調査目的であり、ユニコーンやワイバーンを狩るわけではない。そんな事をすれば大惨事になるだろうしね。
*******
その日の夕暮れより1時間ほど前に僕たちはユニコーンの住む丘に到着した。
今日はたまに小雨が降る曇りがちな天気だ。
その曇り空の下、僕達が丘を登り始めると雲から太陽が差し込んでくる。
とたんにこの丘に色が戻り、絨毯のように生い茂る草原が緑に輝く。
その時、
「キュイ〜〜ン」
鳴き声が聞こえた。
A二班、B一班の生徒達は歩みを止めて、草むらに身を隠すように伏せる。
白いタテガミを持つ大きな馬と、その子供であろう馬が草原を走り抜けていく。
ユニコーンだ。
羽のない一角馬などただの一角馬だろ??ノベルを読んだ時にはそう思っていた。
しかし実際に見るとなんというか神々しい。
光に照らされた草原を輝くような白い馬が2頭、いや小馬の両親だろうか?
もう一頭、青白いタテガミと体毛の大きな馬が現れ3頭が並んで走っている。
サラブレッドより筋肉質でしかもサラブレッドより圧倒的に大きい。
頭から突き出す一本のツノも含めて、そのフォルムがなんとも美しく、神々しい・・・・。
とりあえずラノベでも出てきたが文字では伝わらない神々しさがユニコーンにはあった。
神聖視されるのもよくわかるよ。この森を汚しちゃならん。
僕は納得した。
「美しいの・・・。」
いつの間にかシャルロットが横にきて俺の腕を掴んで眺めていた。
「美しいし、神々しいね」
「うん。神々しいの。神様が私たちに使して下されたの」
「うんうん。そうだね神様が使してくれたんだよ。」
「神様も罪なもんつくりはるなあ。」
いつの間にかリオニーもそばに来ていた。
「何が罪なんかな?」
「あんな綺麗なユニコーンなんて見てもうたら欲しくなるのが人の性ってもんやん?
ユニコーンは人に飼われるような玉やないからな。ここでしか生きていけんようになったんちゃうか?」
よくわかっていらっしゃる。
ユニコーンも昔の北米大陸のバファローみたいにその地の支配者だったのかもしれない。でも人の時代になり数を減らした・・・・のかもしれない。しらんけど。
リオニーさんは生物学者目指したらどうですかね?
「神様は罪を犯したりしない・・。」
シャルロットのおっしゃる通りだ。神様を非難するのはよくないね。
「神様が作られたものには意味があるの・・。」
今日のシャルロットは何故か饒舌だった。ユニコーンに当てられたのかもしれない。
ごもっとも。神様は罪を犯したりしない。ただなるようになるだけだ。
シャルロットさんは哲学者を目指すのも良いかもしれない。
「美しいくて力強い。だから神々しく感じるのかもね。僕はそんなユニコーンが見れてよかったよ」
「そやね。うちもユニコーンに感動を禁じ得えんわ。やっぱええもんはええ。」
「神様、高貴で神聖なユニコーンを使してくださりありがとうございます。」
シャルロットの神への感謝の言葉は初めて聞いた気がする。
声が小さいからかな?
**********
夜は、川の近くの森でキャンプとなったのだけど、結局ユニコーンの丘から降りてきたらまた小雨が降ってきた。
寝ている間に雨にあたらないように布とロープで木に幕を張って寝るスペースを確保しなければならない。
苦労して雨除けを張り、あまり美味しくないエビルファングの塩漬けでスープをたらふく食べたあと、用意した寝床で雨除けにローブを羽織って眠りについた。
※マッドネスホーンの肉はご馳走なので、ベースキャンプや帰りの船旅で食べるように取ってあるのだ。
****
深夜・・・・・
ザーー。
雨が降り続ける・・・・・
・・・・・・・
僕のローブがスッとはだけた感じがする。そのせいで僕は少しだけ眠りから覚める。
ザーーーー。
雨がきつくなってきているのか、森全体が雨の音で覆われているようだ・・・・。
・・・・・・・
そしてまた眠りに落ちようとした時、僕の体に人の手がふれたように感じてまた目が覚める。焚き火もすでに消えていてあたりは真っ暗だ。
!?・・・・
!? 僕のローブの中に人が入り込んできているのがはっきりわかった。小さな体だ。
「だれ?」
小声でその小さな体に声をかける。
「カイト・・・」
「シャルロット?」
「カイトあったかい」
「だめだよ。女の子はあっちだよ。」
「いいの。カイトならいいの」
シャルロットがさらに体を寄せ抱きついてくる。
「よくないよ」
「カイトは学園でなければいいって言ったの・・」
「今は授業中だよ。」
「今は合宿・・・」
「合宿は授業中だよ。近くに先生もいるだろ」
「学園でなければ良いって約束したのに・・」
「すぐ近くに人がいるからね。だめだよ。」
「・・・わかった。じゃあやめとく・・・でもしばらくこのままがいい」
そのままシャルロットは動かなくなった。
ザーーー。
森は雨音に包まれている。
シャルロットは眠ったのだろう・・寝息をたて始めた・・。
「・・・・・・」
しかし・・・僕はそれから一睡もできなかった・・・。
そして明け方近く・・シャルロットはすっと僕の体を離れていった。
***************
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