第66話 お兄様と
アインホルンの森の探索4日目の朝を迎えた。
僕は夜明けとともに起きる。昨日ゆっくり休んだので体調もすこぶるよい。
ログハウスを出るとアインホルンの朝は、夏だと言うのに涼しい。
まだ森は薄暗く、空が赤みを帯びてくるこの時間、鳥たちの鳴き声がクルルルーとかカウカウカウカウとかうるさいくらいにあたりに響きわたる。
巨大鷹はこの辺にはいないよね? 少し怖くなってあたりを見回すが、飛んでいるのは小型の鳥たちばかりだ。
僕は両手を伸ばし深呼吸をして、布を片手に温泉に向かう。
「カイトくんですか。はやいですね」
温泉に入ったのだろう。濡れた髪にメガネを外した姿のカレン先生に出くわした。
「先生こそ早いですね。もうお風呂に入られたんですか?」
「教師は夜警もあるのよね。課外授業の教師はたいへんですよ本当に。
カイト君の体調が良さそうで良かったわ。昨日は無理をさせてしまってわるかったね。
でも、カイトくんのお陰げで生徒が救われました。」
「いいえ。やるべき者がやるべき事をしただけです。」
「じゃあ今日もよろしくお願いしますね」
昨日の慌てようとは打って変わって穏やかなカレン先生だった。
カレン先生と別れて露天風呂の戸を開けると硫黄の良い匂いが鼻に飛び込んでくる。
服を脱ぎ湯船に近づく・・・。と、薄暗い湯気の向こうに誰かが入っているのが見えた。
ラノベ主人公のゲイル兄様だ。
「お兄様!早いですね!!大活躍とお聞きしましたよ」
僕はゲイルに笑顔で媚を売る。是非とも仲良くしたいのだけど・・。
「横、よろしいですか??」
「お兄様は余計だ。 勝手にすればいい。」
「ありがとうございます! お兄様!」
僕は湯船に全身をつけるとゲイル兄様の横の岩に背を預ける。
「ふあああ〜〜〜〜やっぱ温泉は最高だああ!!! 特に朝風呂は気持ちがいい!!」
あっ。思わず大きな声をだしてしまった。朝風呂は最高なのだ仕方がない。
「・・・。」
しばし沈黙が流れる。ゲイルお兄様に下品な奴と思われただろうか??
「エビルファングを3頭も狩ったらしいな。」
「あっ 聞いちゃいましたか?? いやあ怖かったです。お兄様なら一捻りでしょうけど。」
「私の話はいい。エビルファングは強敵だ。話を聞かせろ」
どうやらゲイル兄様はエビルファングにご執心らしい。
「エビルファングは襲撃する前に遠吠えで仲間に知らせるようです。
その遠吠えが聞こえてしばらくすると、大きな黒い狼が6頭も木の影から走り込んできたんで驚きました。」
「・・・だいたい6・7頭で群れになって狩りをするのがエビルファングだからな」
「レベッカ先生が矢を放った瞬間に狼どもが突っ込んできたので、ウォルターが槍で、僕が火魔法で、最後にリオニーが雷撃で仕留めたのですよ。雷撃の音にびっくりしたのか、あとは逃げていきましたけどね」
僕は自慢げに自分の手柄を
「エビルファングは賢い。状況が不利だと判断したのだろう。しかし、あの大きくて素早い獣を3頭。しかも無傷で倒すとは大したものだ。」
お
「ありがとうございます。お兄様! これで明日も頑張れます!」
「お前を褒めたわけではない。Bクラスの実力を褒めたのだ。
そうだ、今日はA1班とB2班、A2班とB1班が共同で行動することになる。
明日はその組み合わせで1泊2日の最終遠征を行うからその練習と言う事だ。A2班は今は3人だからなよろしく頼む。」
「そうなんですか?さすがお兄様は機密情報入手もちょちょいのちょいですね」
「バカか。機密情報などではない」
お兄様にバカと褒められた!僕はさらに上機嫌になる。
「でもA2班ってあの悪名高いアレッシオかあ・・・・・。」
アレッシオのことを思い出して急に不安が込み上げてきた。
「奴はもう探索には参加しない。昨日の件があるからな」
「昨日の件?と、いいますと?」
「知らないのか?キャンプ中で噂になってるだう。」
「ああ、昨日はあまりみんなと一緒できなかったので・・・」
「再生魔法か・・・・。」
「よくご存知で。さすがゲイルお兄様!!」
「私を揶揄っているのか?? イルバートやアルウィンを再生魔法で治療してくれたらしいな。
ありがとう。礼を言う」
「いえいえ、たまたま再生魔法がつかえたので、、お役に立てられて嬉しいです。」
「たまたま・・・。再生魔法は皇国全体でみても本当に一握りしか使えるものはいないのだぞ・・・。
まあいい。昨日アルウィンがフォレストスパイダーにやられたのは、アレッシオがしでかしたらした事らしい。」
「アレッシオが?」
「どうやら下品な言葉でアリーチェにしつこく言いよるアレッシオを見て、アルウィンが止めようと注意したところ、アレッシオに蜘蛛の巣に投げ込まれたそうだ。」
「毒蜘蛛の巣に仲間を放り込んだのですか?? やっぱりアレッシオは超ヤバい危険人物ですね!」
「お前も奴がやばいと、そう思うか。」
「やばい奴以外何者でもないでしょう。お兄様も気をつけてください。前の襲撃もアレッシオが裏にいるんじゃないんですか?」
「・・・・。 その可能性もある。
とりあえず、奴はもう今回の課外授業に参加することはない。謹慎処分になった。」
「そうですか。ホッ。仲間を危険に晒すような奴とは行動したくありませんしね。よかった。」
「お前を弟と認めることはないが、お前の行動は評価している・・。 では、そろそろ私は上がる。」
ゲイルが今まで以上に話をしてくれた! しかも!「評価」してくれている!そのことに感激を覚える僕であった。
「いい湯だな〜!ははははん♪ いい湯だな〜!ははははん♪」
ゲイルが去ったあと僕は上機嫌でドリ○ターズの歌を唄った。
******
4日目はゲイル兄様の情報通りA1班とB2班、A2班とB1班がそれぞれ組になり共同で行動することとなった。
もちろん全員が揃っているわけではない。
A1班は負傷したイルバートと皇女の護衛のキャサリンが参加していない。
傷口は塞がったとはいえ流れ出た血と体力が返ってくるわけではないからだ。
A2班のアルウィンとB2班のサイモンは合宿中の復帰は無理だろう。
アルウィンはフォレストスパイダーの毒が体全体にまわっている。継続的に治癒魔法の治療が必要だ。
サイモンは随分良くなったがまだ完治にはいたっていない。骨折箇所も多かったので仕方がない。
B2班はもう一人欠員が出た。ほとんど僕たちの仲間に加わろうとしないカミーユだ。
同郷のシャルロットとは嬉しそうに話すので、僕たちが嫌われているだけなのかもしれないけど・・・。
カミーユは朝食後に腹痛を訴えて急遽4日目の探索授業を休むことになった。
******
腹を壊したはずのカミーユのだが、雨雲の向こうから大地を照らす太陽が頂点に達しようとするときに動き出した。
カミーユは装備を手に取ると周りの様子を慎重に確認してからログハウスを出ていく。
広場の真ん中では騎兵術教師のエイゴン先生がレンガを詰んだコンロで鍋を煮立てて昼食の準備をしている。
それを見てカミーユは音を立てないように慎重に川辺のほうに進む。
川辺に来ると1年生の生徒たちが乗ってきた軍船が2艇、岩場に接岸されているのが見える。歩哨はいないようだ。
カミーユはその船を無視して岸辺を川下にすすみ鬱蒼とした森に入る。
この辺りは木が川にまで迫り出してくるように伸びていて、川と陸の境界線を覆い隠しているかのようだ。
川沿いの森の木の中を抜けてしばらくすると、川に迫り出した木々の影に隠れるように6・7人乗りのボートが止まっていた。
船上では革鎧に茶色いマントを羽織る男が4人、革鎧に白いマントを羽織る男が1人いて食事をしているのが見える。
茶色いマントの男の一人がカミーユを見つけると食べかけのパンを船底に落とし腰に刺した剣を抜く。
が、白いマントの男が手をかざすとすぐに元に戻した。
「カミーユか。状況はどうだ? 神のご意志はあったか? 報告しろ。」
「はい。神のご意志はありました。 まずは近衛・・・・・」
カミーユは白いマントを羽織った男に頭を下げてから語り始めた。
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