第63話 再生魔法

カイトが先頭を歩くB組第一班はようやく目標地点の岩山に辿り着いた。


もちろんドラゴン種であるワイバーンがいる岩山ではない。ワイバーンはさらに奥の山の裾野あたりに住んでいるんだとか。そんな化け物には会いたくないものだ。


森の木々が次第に岩によって少なくなり、視界が開けたところに突如岩山が現れる。

岩山というより巨大な石の壁といった方がよいだろうか?


この辺りは昔の溶岩流かなにかが侵食されて出来た岩場や岩山がところどころにあって、ワイバーンよりは小型でも十分に脅威になり得る獣達が多く潜んでいるとのことだったが、たどり着いた岩山では皇国ではここにしか生息していないとされる珍しいグレートロックホークが巣を作っていた。


あんな鳥くらいやっちまおうぜ!!と言う奴はこの班にはいない。

ロビン先生より、危険な鳥なので遠くから眺めるだけにとのお達しがあった事もあるが、なにより相手がでかいのだ。


遠くに飛ぶ姿を眺めるだけなのでグレートロックホークの大きさははっきりとはわからないが、体長は2~3m、翼を広げると4m以上もありそうな巨大な鷹だった。


その体格で急降下して時速200kmとかで攻撃してくるとか考えると・・足がすくむ。


こんな怪鳥を誰が誰が狩ろうとなど思うものか。


尖った爪で同じくらいの体長の人間なら掴んで運んでしまう事ができるって・・ほぼ全員じゃない?

そんな人攫鷹に捕まったら最後、とても高い所から落とされて・・・・・あああ怖い。


とか思っているとその巨大鷹が3羽こちらの上空を旋回し始めた。


「森に戻るぞ!!」

レベッカ先生が大声で命令を出し、皆大慌てで松の森に入った。


ふーーーー。キモをひやしたね。


「あーーー怖かった!!!」


セレナが息を切らせながら声を上げる。


「カイト・・・こわかったの」


俺の肘当てを掴むシャルロット。


「僕もこわかったよ。生きて森に入れてよかったね。」


そういってシャルロットの頭を撫でてやると、「カイトやさしいの・・・」

どうやら喜んでくれることはわかった。


この森の探索中、休憩や食事の時にはシャルロットが横にやってくるが、基本的には「おいしくない・・」とか「学園の外なの・・」とかあまり会話が続かない話をしている。


シャルロットは不思議な子なのだ。



**********


僕たちB組一班一行はグレートロックホークを鑑賞した後帰路につき、夕暮れ時には順調にベースキャンプに辿り着いた。


行きは獣達とは何度か遭遇するものの相手にされなかったので収穫なしだったが、帰り道では2mほどのワイルドボアを丸焼きにする収穫があった。


ワイルドボアは何頭かで行動していて、こちらに気づいていなかった。

しめたと思ったんだろう。ウォルターが是非とも旨い肉を食べたいと子供猪に狙いを定めて追い立てたら、、。


気づいた親のワイルドボアが子供を守るために果敢に戦いを挑んできて、危うくウォルターが餌食になりかけた。


ウォルターはなんとか突撃を避けて槍を投げつけ、その後に僕が丸焼きにした。


そのワイルドボアはレベッカ先生の指導もあってその場で解体した。

内臓や骨を極力取り除き、肉を分けていくと皆のリュックに入り切る量になる。


内臓も貴重な食料なのでもったいないと思うかもれないけど、冒険中は荷物を少なくするために取捨選択の判断が大事だ。

生きていくための判断が2日目にして身に付くなんてやはり夏合宿は素晴らしい。




「とうちゃーく。」

先頭を歩いていた僕は、ベースキャンプにもどるなりヘタヘタと座り込む。


「今日は随分あるいたよな・・・」

ウオルターも僕の横に座りこんだ。


「わたしも・・ヘトヘト・・・カイト足を揉んでくれる?」

可愛い声でセレナが大胆なことを言う。

い、いいの足揉んでも?


ベースキャンプではすでに全ての班が帰ってきていて、各班、自分たちで狩猟した獲物を調理するなど夕食の準備を始めているようただ。僕たちが1番遅かったのですぐに食事の支度をしないといけない。


重い腰を上げてセレナの足を揉もうな?なんて思っていると、アーサー先生がこちらに向かって走ってきた。


「カイト!ロビン先生、至急こちらにきてください。」


良いところだったのにー。しかし、なにかあったのだろうか?


僕はふらふらと立ち上がり、ロビン先生とアーサー先生と共に女性の先生が寝泊まりするログハウスに入る。


ログハウスの壁には何本か蝋燭が灯っているが薄暗い。

その薄暗い部屋の奥から「うううう・・・」と女性の唸り声が聞こえる。


負傷者だ。僕は小走りになる。


蝋燭の灯りの向こうにエリザベス殿下と護衛のレイラさんが見えた。

二人が見守るその先にはもう一人の護衛の女性が寝ていて、腰あたりに巻かれた布が真っ赤に染まっている。


「キャサリンは槍のようなもので刺された。石の刃は取り除きレイラさんが治癒魔法を使ったがまだ傷口が塞がらない。君の再生魔法の力が借りたい。」

アーサー先生が状況を説明する。


「カイトさん!!私からもお願いします!どうかその力をお貸し願えないでしょうか?」

エリザベス殿下は随分涙を流したのだろうか?目もとが腫れているように見えた。


後から来たロビン先生が、カバンから金細工で装飾された木の箱を取り出し、箱にかかった紐を解くと箱の中から再生魔法の杖を取り出し差し出してくる。


「再生の魔法具だよろしく頼む」


再生魔法の杖は小ぶりだが、その先には一際大きな透明に近い宝石がついている。

一度、練習で蛇に使った再生魔法の杖だが、その時は傷ついた蛇を治療する事に成功している。


僕は再生魔法具を受け取りキャサリンという護衛の前に座った。


「布をはずしてください。」


エリザベスとレイラは言われた通りキャサリンに巻かれた布を取り払ってくれたが、露わになった下腹部には大きな傷口があり、傷口は今も心臓の動きに合わせてどくどくと血を吐き出していた。


僕はそんな痛々しい傷口に杖を向け、そして精神を集中し傷が塞がり体が元に戻ることをイメージし、

『傷口よ再生しろ』と強く念じる。


ボワッ


杖の先の宝石から光が溢れ出し・・やがてまっ白く眩い光で輝き始めた。


傷口がみるみるうちに塞がっていく。

20秒ほど宝石が輝いただろうか。光が消えた時にはキャサリンの腰にあった傷跡はなくなっていた。

成功したのだ。


僕は安堵したからか、ふっと力が抜け、横にいるエリザベスの方に体が倒れてしまった。

そんなつもりはなかったのだが不可抗力なのだ。仕方がない。


しかし、僕の体はエリザベスに優しく受け止められた。


「あぁぁ・・・奇跡です。・・・・ありがとう・・・・。

こんなに嬉しいことはありません。キャサリンを救ってくれてありがとう。」


そういってエリザベスは体を預けてしまった僕を抱きしめながら頬に涙を流した。


「す、すみません。ちょっと集中しすぎてしまって・・・・頭がぼーっと・・」


「このままで大丈夫ですよ。ありがとう・・。」









30秒?1分?ほどエリザベスの腕に体を預けていただろうか・・。

少しずつ意識が戻ってくる。


「も、もう大丈夫です。」

僕はエリザベスの肩に手をかけ少し距離をとって、エリザベスに礼を言おうと向き合ったが、

そこに余計なアーサー先生の声が割り込んでくる。


「すまんが、まだあと二人見てもらいたんだが・・・大丈夫か??」


「えっ!? あと二人ですか?・・少し休めば大丈夫だと思いますが・・。」


「ではこちらに来てくれ。」



残りの負傷者二人はA組のイルバートとB組のサイモンだった。



**********

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