第61話 入浴編2

頭と尾を切り飛ばし、内臓は捨てたとはいえ、2.5m〜3mも体長があるエビルファングだ。

ロープで適当な木に括り付けて交代しながら運ぶのだが・・重いのなんの。

先生も手伝ってくれたがベースキャンプにたどり着いた時にはすでに他の班もベースキャンプに戻ってきていた。

ああ疲れた。


レベッカ先生の獣の捌き方教室は1頭だけ実演が行われ、残り2頭は血抜きに木に吊るして明日の朝に生徒達で行うことになった。


さてレベッカ先生の素早い捌きで、切り出されたエビルファングのステーキだが・・・。

あまり美味しくなかった。調味料のせいではない。肉がまずいのだ。


しかし、食べられるものはなんでも食べる。これがサバイバルの精神だ。

神様今日も生きる糧をありがとうございます。



**********



夕食後、入浴時間がやってきた。

続々と男性陣が月と蝋燭の明かりに照らされた男性用露天風呂に入っていく。


「うはあ〜〜〜〜やっぱり日本人は温泉に限るね〜。」

「なんだその日本人ってのは?」


「うちの村の人のことだよ。うちの村人の心の友は温泉さ」

口から出まかせを言うのに躊躇がなくなってきたカイトであった。スラスラと嘘がでてくる。


「カイトはほんと不思議なやつだな。どこに住んでたんだよ。でもこんな良いものがあったら心の友ってのはわかる。癒されるなあ。」

そういやウインライトには農村の話はしてなかったかもね。


「最高だよね?温泉。いい湯だな! ハハ ハハン♪」


「カイト!お前の班ってあんなでっかい狼3頭もしとめたんだろ?正直すごいな。」

ルークが目をぎらつかせて僕に話を振ってくる。


「おお!そうだぞ。 俺は槍で一撃のもとに仕留めたぜ!」

僕の代わりにウォルターが湯の中を進みながら答えてくれた。ありがとうウォルター。


「槍でやったのか。やるなあウォルター。俺はまだ槍術は習ってないからな」

「そういやルークの班はワイルドボアを仕留めたと聞いたぞ」

「そうさ。俺が仕留めた。」


「あれ?アビーからはイザベルが仕留めたと聞いたけど??」

僕が疑問を口にする。


「いーや、あれば俺の火魔法だ!」

ルークは手柄をイザベルには譲りたくないらしい。


「そうそう、イザベル言ってたぞ、倒れてのたうちまわってるボアに追い討ちでルークが火を放ったって」

ウインライトがすかさずルークに不利な証言を説明する。


「要するにイザベルが倒したボアにさらに火魔法を使ったってことでいいね?」


「あっ だから炭のように黒かったんだな!」

ウォルターが手を叩きなるほど!という顔をする。


「まってくれ、炭になったのは表面だけでちゃんと美味しく食べれたって。まだ残ってるから明日何も狩れなくても大丈夫だぜ」


「子供のボアに見えたけどな。まだ残ってるなら狼肉と交換しようぜ」

ウォルターが(都合の)良い交換話を振ってくれた。よほどエビルファングの肉がお気に召さなかったらしい。


「エビルファングの肉が大量に塩漬けされてて、まだ他にも2頭捌くんだけど。いる?」

ただであげても良いのでルークに聞いてみる。


「それ、まずいって噂だよな」

やっぱり知ってたか・・・。


「正直まずい」


「いらね。食いたくねえ・・・」



**********



夏合宿〜森の探索の二日目


【ゲイル視点】


Bクラスの第一班がエビルファング2頭の解体を行なっているのを横目に、ゲイルのいるAクラス第一班はアインホルンの森探索へ出発する。


エビルファングは強敵だ。

集団で出てくる上に素早く1人くらい簡単に殺してしまうくらいの攻撃力を持っている。


ゲームでは森の獣の恐ろしさ、そしてルーク達の弱さを体験させるためにこの夏合宿序盤に登場するのだが、誰か一人が倒れたところで同行教師が戦闘に加わってどうにか追い払うというイベントにしてあった。


教師が手を出さずに無傷で3頭倒すとはカイト達の実力は本物といえるかもしれない。


それに、奴はとんでもないものを持ってると言ってたな。

「再生魔法だと・・・。」

思わず口に出してしまう。


「ゲイル。 考え込んでどうしたんだい?」

鉄のヘルメットを脇に抱えて側を歩くヨハンナが不思議そうな顔でこちらを見つめている。


「ああ、B組の奴のことを考えていた」

「B組の・・・弟くんのカイトのことだね? すごいよね再生魔法だって。流石はゲイルの弟くんだよ」


「私より上かもしれないな」


「ゲイル以上の魔法の天才なんていないよ。ゲイルは魔法だけじゃないしね」



「ゲイル。あなたは弟が再生魔法が使えることは知らなかったのですか?」

女性の護衛を2人従えてエリザベスが後ろから近寄ってくる。


「ああ。私は奴がどんな魔法を使うのかは知らない」


「弟なのにですか? 確か妾の子だと聞きましたが。」

「父が皇都で遊んだ時の子だそうだ。 リブストンに居た私が知るわけもない。」


「そうですか。しかし、やはりドレイン方伯家は侮れませんね。」


「そんなに気になるか?」

「それはもちろん。今の皇帝は諸侯を束ねるのに苦慮していますからね」


「フフフッ エリザベス殿下はストレートだな。 私はあなたとは敵対するつもりはありませんよ。」


「それは嬉しいことを聞きました。あなたが味方になってくれればと思っておりましたから」


「「」敵対する気がないと言っただけだが? あなたの味方になるには何か大きな「」を用意しなければ周りが納得しない。そんなことは100も承知だろう?お姫様。」


「あなたも今日はストレートですね。私が与えられる・・「」しろと?」


「ゲイル!!!!!」

ヨハンナが大声を上げる。


「大丈夫だお前を離したりしない」

「いやだ!!!僕は絶対に認めないからね!!」

ヨハンナがゲイルに大声で怒鳴る!


「落ち着きなさい。ヨハンナさん」

凛とした声でエリザベスが語りかける。


「皇帝陛下も許さないでしょうし、私もそんな気はないわ。ゲイルのことを信用しているわけではありませんから。例え話ですよ。そうでしょう?ゲイル」


「もちろんそうだ。 私がヨハンナを悲しませるわけがない。」


「ですってよ。ヨハンナさん」


「ゲイル!!・・・・ウゥ・・ ゲイルのバカ!・・。」

ヨハンナが少し涙顔になっている。


「ヨハンナ・・。」ゲイルが愛しい顔でヨハンナを見る。

「本当に愛している」


「それは授業が終わってからやってくださいね。ゲイル」



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