第60話 アインホルンの森へ
「さあ出発しよう!!」
先頭を任された僕は地図を片手にリーダー気分でみんなに号令を出す。
「オッケー!いこうぜえ!」とはウォルター。彼は槍を大きく掲げた。
皆ゾロゾロとベースキャンプの木の柵につけられた門をくぐり、アインホルンの
ロビン先生とレベッカ先生はそんな僕たちを見守るように後ろから着いてきてくれている。
先生たちは基本的には生徒の自主性を重んじるとは言ってくれているが、まずい事態になりそうな時はもちろん助け舟を出す準備をしてくれている・・はずだ。
先生達がいるからまだまだ駆け出しのヒヨッコ魔法使い達がこんな危なそうなところで冒険ができるのだ。
**
随分鬱蒼とした森の中を歩いている。そろそろ昼近くになってるのではと思うけど、木々によって太陽が見えないので時間はよくわからない。
この森の木は大きい。ベースキャンプからここまでの森の木は主にマツとブナだった。しかし日本のマツやブナとはサイズ感が違うように感じるのだ。
人が入らないために大きく成長できたのだろうか?
マツの森は太陽光は届かないものの空から光が届き、木の間隔も広いので歩きやすいのだが、ブナが多い森に入ると一気に暗くなる。
ブナは広葉樹なので葉が大きく空さえなかなか見えなくなり光が入ってこない。
そのため、太陽の光を基準に方角を見定ようとしてもそれができない。
本当にルートはこれで合っているのだろうか?持っている地図も簡易なものなので、ルートが書かれているわけではない。
たまに昔の生徒か誰かが残したであろう布が木に付けられていたりするので、それを頼りに進んでいる。
先生がいるから大丈夫だとはおもうけど・・不安だ・・・。
くらい森の中で何回か獣を見かけたが、奴らはこちらに気づくと基本的には去っていく。
そんな近づいてこない獲物を狩るには長距離を狙える弓が必要だろうが、弓を持っているのはレベッカ先生だけだ。
なかなか獣と戦いは起こらないんだな、とか考えながら鬱蒼とした森を進んでいると、
「ワオ〜〜〜〜ン。」
遠くから遠吠えが聞こえた。
皆の表情に緊張が走る。
「皆さん、今の獣の鳴き声を覚えておくように。」
列の後方を歩くレベッカ先生が生徒達に向かって声をかける。
「今の声はエビルファングという凶暴な狼の声です。どうやら我々の事を仲間に知らせています。」
恐ろしい事をさらっといいましたね?
「では、皆さん武器を構えてください。おそらく5頭以上でやってきます。
前衛が2人では危険ですね。ウインライト君はウォルター君の隣にいってください。後衛は先生が受け持ちます。」
僕、ウインライト、リオニー、ロビン先生が剣を抜く。
ウォルターは槍を前に構える。レベッカ先生も肩にかけていた弓を手に持ち華麗に矢をつがえた。
皆表情は硬い。
この学園に入ってから初めての実戦になるのかもしれない。しかも相手は多数の凶暴な狼だという。僕の心臓も鼓動がドキドキと早まっている。
その緊張状態でしばらく進んでいると前方右手から大きな四足の獣が走るような足音が聞こえてきた。
狼が来る!この音は確実に生死をかけた戦いが起こることを告げている。
すぐに、大きな木々の間をかき分け1頭、また1頭と真っ黒な毛をした狼が姿を現した。
想像以上に大きい。体長は2m〜3mほどはあるのではないだろうか。
エビルファングと言うだけあり、2本の牙が、下顎を超えて突き出ている。こんなのに飛びつかれたらただじゃ済まない。
先頭のエビルファングは我々が剣や槍を構えているのを見ると走るスピードを緩め、10mほど手前のところで止まった。
群れで狩をする獣は常に仲間との連携を考えている。無謀な突撃はしないらしい。
僕たちが相手の行動を見定めようとしていると、その後ろから次々エビルファングが駆けつけて横に並ぶ。どうやら6頭いるようだ。
グルグルグググ・・・・。グアウ!! グルグルグググ・・・・。
エビルファングたちがそれぞれ唸り声をあげる。
しかし、すぐには襲ってこようとはしない。こちらが武器を身構えているので警戒しているのか、少しの間、エビルファングと睨み合いになる。
「奴らもばかじゃない。1頭だけで突っ込んだりしないからね。私が矢を放ったらすぐ一斉に突っ込んでくるぞ。その時カイトはすぐに火魔法を放て!」
そういうとレベッカ先生は構えていた弓からシュンと言う音と共に矢を放ち、その矢は見事に一頭の黒狼の片口に命中する。
「キャオン!」
一頭が悲しい泣き声をあげる。その瞬間、残りの5頭が一斉に突っ込んできた。
その地を駆けるスピードは速い!
すぐにカイトは杖をかざす。
ゴオオーーー!!
1.5mほどの炎が狼の前に噴き出る。
突然現れた炎とその熱に怯んだ2頭の黒狼は急ブレーキをかけ止まる。
いや、1頭は止まりきれずに炎を浴びて炎に包まれた。
「キャオン!キャオン!」火がついた体をくねらして暴れる黒狼
しかし、残りの3頭がウインライトとウォルターへ飛びかかった。
ウォルターの槍が狼の顎に突き刺さる。
「ギャウ!!」
しかし2.5mほどの体長があるエビルファングの勢いに、槍を持つ手が支えきれない。
その勢いのままエビルファングはウォルターに乗り掛かり押し倒す。
一方ウインライトは2匹に飛びかかられたが、剣で相手の脚を切り付けながら二頭ともギリギリかわすことに成功した。
そこに、バリバリ!ガ〜〜〜ン!!!
轟音が鳴り響く
ウインライトを飛び越してしまったエビルファングに雷が落ちたのだ。
・・・・・・・・ドン!
雷を受けたエビルファングがフラフラッとしたあとに徐に横に倒れた。
その雷魔法の轟音に他のエビルファングの動作が一瞬止まり倒れる仲間を凝視める。
そして「ワオン!!」と一頭が短く鳴くと、いっせいにやってきた方向に駆け出した。
エビルファングの走り去る姿を呆然と見送る生徒達。
「やったで!! うちにかかれば黒狼なんて白うさぎみたいなもんや!」
リオニーが大喜びする。
「よし!勝利だ!!!! 皆よくやった!」
レベッカ先生の声が響く。
狼との戦闘は一瞬の出来事だった。
最後はリオニーの雷が決め手になったのだろう。初めての戦闘で動くオオカミに雷撃を命中させるなんて、さすがヒロインとしか言いようがないね。
「た、助けてくれ・・・」
「ウォルター?」
僕はウォルターに覆い被さるエビルファングを見る。
槍がエビルファングの顎から頭の後ろにかけて突き抜けていて、エビルファングはピクピクと痙攣している。
「ウインライト手伝ってくれ。」
そう言って二人でエビルファングを横に倒すと、ウォルターはのし掛かるエビルファングを蹴り退けて這い出てきた。
「ウォルター大丈夫か??」
「助かった。ありがとうな。 俺も槍の扱いがまだまだだなーーー。」
「いやぁー。一撃でエビルファングを倒したんだ。誇っていいと思うぞ」
ウインライトがウォルターに手を貸し立ち上がらせる。
「皆よくやった。負傷者はいないな? この班のフォーメーションはうまく機能していたようだ。」
レベッカ先生が弓を肩にかけ僕たちに向かって歩いてくる。
「さて、ゆっくりしている暇はない。
倒したエビルファングは持ち帰る。ここで皮を剥いでも良いが、多くが初めての経験だろう。時間がかかるからな。
今回はキャンプにこいつらを持ち帰って血抜きと皮の剥ぎ方を教える。これも授業の一つだ。目標へはルートを変えて明日再度挑戦すればいい」
今日はここで引き返して獣の解体ショー(実習)をやることになった。日本人の僕はそういうのちょっと苦手なんだけど・・。
でもやりますよ!この世界で生きていくのだから。
「ロビン先生もそれでいいですか?」
「そこは専門のレベッカ先生にお任せしますよ」
「それでは、倒した3頭の足にロープをかけろ!
カイトとウインライト、ウォルターは適当な太さと長さの棒を探してこい。ばらばらで動くな!一緒に行動しろ!」
レベッカ先生はテキパキと指示をしていく。
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