第57話 ベースキャンプ

船旅6日目、ロードライズ川の辺りにある人口1万人ほどの街カルリーンに泊まった。

この街はアインホルンの森の近所ということもあり、農業というより、漁業と狩と木材の搬出で成り立っている街のようだ。

街は分厚い城壁で守られていてさながら要塞のようにも見える。


ここまで来ればアインホルンの森はすぐそこだ。

アインホルンの森へは陸路で向かうか船で向かうか2通りあり、1年生はこのまま船で向かうので荷物の積み替えもなく助かった。



船旅 7日目。

朝、出航してからすぐに辺りは鬱蒼とした森に包まれた。


「すでにここはアインホルンの森だ。アインホルンの森は別名ビーストウッド。猛獣達が闊歩する森だぞ!!

船が襲われることはほとんどないが、気を引き締めて進め!」


ロビン先生が大声でそう皆を脅す。幽霊屋敷の乗り物に乗っている気分になってきたな。


そして川を進むこと数時間、昼頃にとうとうこの鬱蒼としたアインホルンの森の中の拠点となる川辺に到着した。


この川辺は毎年合宿で使っているのか少し整備されていて、船が停泊できる川辺は湾のような形に石が積まれている。

湾状の船着場から上陸すると鬱蒼とした森の中でその周辺の木だけが切り倒され広場のようになっていた。


広場の向こうには昨日まで遥か遠くに見えていたアインホルンの山々がはっきり視界に飛び込んでくる。

眼前に聳え立つその山々のいくつかからは煙のようなものが上がっているのも確認できた。

アインホルンの広大な森は火山活動で流れ出た溶岩や噴石などが溜まった地形に出来たのだろう。


この山の麓にはあのドラゴン種がいるんだね・・・。

煙を上げる山々を見ながら戦々恐々としているのは僕だけではないはずだ。


広場には隙間だらけの柵と何棟もの平屋のログハウスが並んでいるが、夏の陽気で草だらけの荒れ放題だ。


「全員集合〜!!!!!!」

引率責任者のアーサー先生が船から上陸した生徒達に号令をかける。


今回同行している教師は

1Aのアーサー先生(得意魔法:水/雷)

1Bのロビン先生(得意魔法:風/動)

火魔法のカレン先生(得意魔法:火/風)

剣術のヘンリー先生

馬術のトーマス先生

槍術:エイゴン先生

騎兵術:ケンロック先生

弓術のレベッカ先生

剣・槍:マシュー先生(得意魔法:火・水)

治療役のクラリス先生(治癒魔法)

計10名


Aクラスの生徒とBクラスの生徒は教師達の列の対面に急いで整列した。

「1A 点呼はじめ!」「いち!エリザベス!」「に!エイブ」「さん!ゲイル」・・・

「2A点呼はじめ!」「いち!カイト」・・・


点呼は割り当てられた数字順に自分の名前を声に出す事で行われる。

Bクラスの順番は以下

1.カイト(貸与魔法具:火・水・再生)

2.アビー(貸与魔法具:水)

3.ウインライト(貸与魔法具:動)

4.サイモン(貸与魔法具:風)

5.ウォルター(貸与魔法具:雷)

6.イザベル(貸与魔法具:火)

7.セレナ(貸与魔法具:動)

8.マーガレット(貸与魔法具:水)

9.リオニー(貸与魔法具:雷撃)

10.ルーク(貸与魔法具:火・雷)

11.シャルロット(貸与魔法具:水)

12.カミーユ(貸与魔法具:風)



「Aクラスは私に従って建物の清掃を! Bクラスはロビン先生に従って野営地の草刈りと清掃、及び柵などの補修だ! 

そこの倉庫に鎌や桶などの必要備品が入っているので、担当の先生にしたがって受け取れ。

ではかかりたまえ!」


点呼が終わるとアーサー先生から強い口調で指示が出される。

ちょっと軍隊チックになってきた。この合宿は団体行動の訓練も兼ねているのだろう。


僕たちは野営地の倉庫から鎌と桶等を取り出し、水魔法で水を桶に注ぎ、錆びを軽く研ぐ。そこから始めなければ草刈りもできない。


ようやくの事でルークやアビーたちと共に草刈りを行なっていると、なんだか硫黄の匂いがする事に気づいた。

匂いの方にはしっかりした柵で覆われたエリアがあり、どうやらそこから硫黄の匂いが漂ってきているようだ。


二つある扉の一つを開けて中を覗くと、扉の奥には・・・

「お! お温泉だぁーー!!」


そう。課外活動の拠点には硫黄の匂いがプンプンする極上の温泉が沸いていた。


「どうしたカイト。そんなに騒いで」

ルークがやってきて、温泉を覗く。


「おお!? なんだこれ!? すっごい臭い水が湧いている??」


「温泉だよ!お湯が沸いているんだよ」

「えっ!? すげえ!お湯が沸いているのか?! やったなカイト大発見だ!」

大発見って、準備された施設だから。。


「何これ!!お湯が沸いてるの!? やったー!!これで湯船に浸かれる!」

アビーもやってきて大喜びだ。


「えーーー!!!お風呂!!!! 私もはいる!」


「どこにお風呂があるのん!?うちも入らしてやー!」

騒ぐから次々に生徒が集まってくる。


「そこは露天風呂だ!夕飯の後に入らせてやるから、いまは広場の清掃をしろ。」

ロビン先生が仕事を忘れて温泉に群がる生徒達を注意する。


「よし、カイトとルークは露天風呂の草刈りと清掃をしなさい。二つあるからどちらもな。 後の奴らはみんな早く草刈りしないと飯が食べれないぞ。」


先生の言いつけで僕とルークで温泉をきれいにすることになった。これは役得というやつだね?もちろん清掃のついでにちょっと入ったよw


硫黄漂う乳白色の湯は最高の泉質で最高だった。やっぱり日本人は温泉だよね。



**********



「では、明日からの課外実習の説明を始める。」

清掃を終え必要な荷物をログハウスに運び込んだAクラスとBクラスの生徒が教師たちの前に整列している。


「明日はいよいよアインホルンの森の散策を行う。

簡単な地図はあるが舗装された道はない。AクラスBクラス共にそれぞれ2班に別れて目標地点に行って帰ってきてもらう。班分けは担当教師から聞くように」


ザワザワザワザワ

生徒たちがざわつく。


「この森には多くの危険な猛獣がいます。

出発前に説明があったように特に危険な猛獣に対しては見つけた場合すぐさま退避するように。間違っても戦闘を仕掛ける事はないように。


ルート上に関わってはいけない猛獣が現れた場合には、迂回するか引き返すかを担当教師と相談してきめるように。無理はするな。


討伐した猛獣はできれば食糧として持ち帰ってくるように。

その場で血抜きし肉を剥げばそれだけ軽くなる。獣の解体も授業の一環です。

戦場では食糧の確保は至上命題ですので、心して取り組んでください。


そして毎年、必ず何人かの負傷者が出ます。

班で行動する。絶対に一人では行動しない。これを徹底してください。

今回は治癒魔法のクラリス先生がこのキャンプ拠点にいます。負傷者が出た場合は即座に全員で負傷者を連れてキャンプまで戻るように。」


ザワザワ

ちょっとびびったのだろうか生徒たちがまたざわつく。



「みなさん静かに!!!

今回は重要な事を今から話します。」


ざわめく生徒達にアーサー先生が重要な話をするようだ。


「これから話すことは魔法学園の教師と、1年生だけの秘密事項になります。

違う学年にも、当然ながら学園外にも漏らさないように。わかりましたか?」


ザワザワ・・・

なんのことかわからずざわめく生徒達。


「秘密厳守!!わかりましたか!!!」


「はい」「はい」


「わかりましたか!わかったら大きな声で返事!」


「はい!!!!」


「ではお話しします。

・・・・

Bクラスのカイトくんは再生魔法の使い手です。」


「ええーーー!!!」「おいおいまじかよ!!」「カイトってだれだっけ?」「再生魔法ってなんだ?美味しいのかよ?」

「再生魔法!?」「おい!カイト!聞いてないぞ!!」

ザワザワガヤガヤザワザワガヤガヤザワザワ。

A組B組も大騒ぎになる。


「皆さん静かに!」

アーサー先生が大声で叫ぶ


「これは、学園だけでなく、皇国としても重要な事でしたのでこれまでは秘密にしていました。

しかし、今回は生徒の安全が最優先と判断しあなたたちにだけ伝えておきます。

カイトくんが卒業するまでは秘密を保持するとしていますので、ここにいる生徒の皆さんはくれぐれも安易に外部に漏らさないようにしてください。」


15歳の未熟な生徒達の口は軽い。そんなこと無理に決まっていると思うのだが・・。

生徒に厳命したというアリバイずくりだよね。


「と、言うわけでカイトくんの班には学園より再生魔法の杖を持って行ってもらいますが、とても貴重なものですのでロビン先生の預かりとします。

もし、重症者が出た場合カイトくんに再生治療を行ってもらう可能性も考えて行動してください」


「再生って!」「これで生きて帰れる!」「カイトってだれさ」「ゲイル様よりすごいの?」「カイトくんどういう事か教えてくれる?」「うわー。うちお嫁にいってもええかもな」

ザワザワガヤガヤザワザワガヤガヤザワザワ。


また1年生たち全員が大騒ぎになった。


**********

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