魔法学園1年生〜夏合宿編
第56話 夏合宿〜船旅
皇都の夏はそれなりに暑い。日本のようにうだるような蒸し暑さはないけど、やっぱり暑い。
そして魔法学園にはその暑い夏に2つのイベントがある。夏合宿と夏休みだ。
7月後半から15日間が夏休みになるのだが、その夏休みの直前に行われるのが夏の課外実習授業。
いわゆる夏合宿と言われ、この魔法学園生活最大のイベントと言って間違いない。
なんと期間は半月の15日ほどもあり、毎年何人も負傷者がでるんだとか・・・。
といっても移動で往復10日ほどかかるので授業の半分以上は船旅だ。目的地での授業は5-6日間となる。
目的地は皇都ロンドアダマスから500kmほど離れたアインホルンの森だ。
アインホルンの森は別称ビーストウッドという名前がつくほど多くの猛獣が棲みつく未開の森で、森の広さはなんと100000km2 ほど(※ちなみにこの世界の距離の単位はkmではないけどわかりやすくkmで説明しています)。
北海道より広大な面積ってどんだけ広い森なんだよと。そのほとんどは全く開発されていないというから恐れいる。
アインホルンの森は太古からユニコーンが住む神聖な森とされているのだが、
その神聖な森は猛獣の発生源にもなっているので森の調査目的も兼ねて魔法学園の訓練をしちゃえと言うことらしい。
ユニコーンはこの世界でも有名な猛獣の代表だが、その理由は物語や伝承で良く登場する事と、貴族や騎士団の紋章に使われたりしているからであろう。
また皇国の近衛騎士団の一握りの騎士がユニコーンに騎乗していると言う。
だからではないだろうが、近衛騎士団の紋章にはそのユニコーンが中心にあしらわれている。
出発前に先生からはユニコーンに遭ったら逃げろ!と教えられた。
理由は3つ
1、ユニコーンは獰猛でしかも非常に賢い。
体格とスピード、強力なツノでの攻撃は脅威だ。しかも優れた知能で連携し人の行動を予測して行動するため非常に手強く恐ろしい。
人数が多くても敵対すれば大惨事は免れないだろう。
2、非常に賢いので、こちらが敵対しない限り襲ってくる事はない。
3、ユニコーンの殺傷や捕獲は原則禁止されている。唯一認められるのが皇帝への貢物とする場合だけだ。
献上されたユニコーンは近衛騎士団に預けられる。だから近衛騎士団のほんの一握りだけがユニコーンに騎乗することができるのだ。
そもそもこの猛獣を乗りこなすのはとんでもない労力が必要だそうで、近衛騎士団の一握りがユニコーンに乗っているのも実戦的な意味より権威付を目的としている(こんな獰猛な獣を乗りこなしているぞと)
そうそう、この世界のユニコーンに羽はないよ。空を飛ぶのはペガサスだからね。この世界にペガサスがいるのかは知らないけど。
また、アインホルンの森はユニコーン以外の猛獣もたくさんいて、中でも山岳地帯にはワイバーンというドラゴン種がいるらしい。かなり恐ろしい猛獣だからこいつに出会ったらすぐに森に逃げろ!と言われている。
ドラゴンですからね・・・。そりゃ魔法学園1年生じゃ歯が立たないでしょう。
警備兵が守ってくれるとっても安全な魔法学園から、突然とんでもところに連れていかれるものだ・・・。
合宿は学園もののお約束だけども・・。
と言う事で僕たちは、アインホルンの森/別名ビーストウッドに向かうために、近衛騎士団が所有する軍船をチャーターして船旅をしているわけだ。
ちなみにAクラスとBクラスは別々の船に乗船しAクラスの船に続きBクラスの船が進んでいる。
この軍船はなかなか大きな川船で帆と12の漕ぎオールがあり、風がないもしくは逆風の場合でもこのオールを漕いで進むことができる機動力がある。
特に川上へ進むのは水の流れに逆行するので、風があってもオールを漕ぐことが望ましいらしく・・・
そう。このオールを漕ぐのも授業の一貫であり、僕もちろん汗水流して漕いでいるのだ。
行きは川を上るため速度は遅く、約7日ちかくかかるが帰りは下りなので3-4日らしい。
狭い船内に寝室はあるが、一日目は街の近くに停泊して街で宿泊する。
寝泊まりする宿は一般の宿屋と教会の宿泊施設などになるが、30名近くも一度に泊まれる宿はない。
だから何ヶ所かに別れて泊まることになるのだが、一部の教師とB組男子生徒は船で寝たらしい。
2日目に入るとロードライズ川の辺りは森だらけになる。アインホルンの森に行かなくても色々な猛獣がでできそうな雰囲気だ。
なんでそんなに遠くの危険な森に行くのだろうか。不思議で仕方がない。
「あちーーー。こんなに暑いのにいつまで漕ぐんだよ。 腕がつかれてきたぞー」
僕の後ろでオールを漕ぐルークが泣き言を言い始める。
「おいそこー リズム合わせろー」
すかさずロビン先生から指示が飛ぶ。
オールを漕いでいる時は「いち に さん いち に さん」と小さく声を掛け合いながらリズムを合わせる必要があるのだ。だから会話もろくにできない・・。
今日は風もない晴天だ。この炎天下の中で延々と「いち に さん」と言いつつ漕ぎ続けるのだろう・・。
・・暑い・・川に飛び込みたい。。
(この川にはサメはいないけど、人喰いと呼ばれる巨大魚はいるらしい。釣り人がたまにたべられるとか。なんとか。。怖いね)
*******
船旅4日目の夕方
川の向こうに目的地アインホルンの森を従える高い山々がうっすら見える。
今日は朝から雨模様だったけど代わりに強い追い風が吹いてくれたので、久々に体を酷使しなくて済んでいる。
ただ、今日は近くに泊まれる街がないので野営だそうだ。
その野営で食べる食糧を確保するため雨上がりの川で僕とリオニー、サイモンは今、魚を釣っている。
「おっ!来たでぇ。はいはい待っててやぁ可愛い魚ちゃん!」
リオニーの竿に魚が食いついたらしい。
リオニーはセミロングの灰色の髪を持つ小柄な
光の加減で銀色に輝く髪は美しく、顔は少し童顔で可愛らしい感じかな。魔法学園は素敵な子ばっかりで困るよね。
入学当初は僕のドレイン家の家名からか距離を取ってたみたいだけど、今ではノリツッコミをし合えるほど仲良くなった。
「おおーー。スッゴイ引きやでぇ。100匹くらいついてるんちゃうかー?」
「そんなに!!って、ついてるはずないがな〜! 網持って来たから慎重に水面まで引きずり出そう」
「ほんまにすごいんやって。引くの手伝ってぇ〜や。」
確かに竿がすごい角度で曲がったり伸びたり激しい。コレは慎重にいかないと。
すぐさま網を置いてリオニーの背後に回って肩越しから手を伸ばし竿を持つ。
「なっ!100匹くらいついてそうやろ?」
「これは大物だね。糸は張り詰めすぎないように。でも竿を倒しすぎないようにね。強い引きの時は糸をさらに伸ばして。」
「カイトは何でもよう知ってるなあ。魔法の事もよう知ってるし。」
「ほら。竿を引くよ。あっ、やっぱり戻して」
「大お貴族様はやっぱり出来が違うんやろなぁ」
「時間をかけて魚の体力を奪うんだよ。」
「うちな、ドレイン家は嫌いやってん。」
「僕もだよ・・」
「ドレイン方伯の息子やのに?」
「だって母は捨てられたんだよ?」
「そうやったな ww ドレイン家は嫌いやったけど、カイトを知ってそんな「家」なんて関係ないなって思ったわ。」
「カイト!? リオニーの肩を抱いて何をしてるのかしら??」
アビーがこちらの騒ぎに気づいたようだ。
「見たらわかるだろ!大物だよ!」
「そんなに引いてるように見えないけど?」
「ちょっと落ち着いてきたんだよ。良いところに来た。そこの網で魚を掬い上げて!」
「わかったわ。随分仲良くなったのねリオニー」
「カイトは物知りやでぇ。港街育ちのうちよりも魚釣りうまいんやで。」
「引き上げるぞ。アビー頼む!」
「スッゴイ大きいわよ!!これなら全員で食べれるわね!」
アビーが驚いた顔をして網のついた棒を伸ばす。
「リオニーこのままキープな。」
そう言ってアビーにかけより一緒に網の棒を持つ。
「よし! 上げるぞ!!!」
釣り上げた魚はグレートキングサーモンという安直な名前の魚で、1mを裕に超えるほどの巨大な鮭だった。1.3mはありそうだな・・。
こっちの世界は野生の生き物がとにかくデカイ。そんな気がする。
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