第54話 動の魔法実習

皇都ロンドアダマスに夏が訪れる。


ミーンミーンと蝉が鳴く事はこの世界ではない。日本の夏は蝉の声とともにあった事を考えると少し寂しいきもするが、

蝉が鳴かなくてもやはりこの国でも夏は暑いのだ。


「海いきたいなーー」

「海??海に行ってなにするの??」

アビーが海に行きたいという僕の言葉に驚いた顔をする。


「海水浴!!あつ〜い夏に海に飛び込むと楽しいぞ〜!」


「海は見たことはあるけど・・。海水浴って漁師みたいに海で泳ぐの?」

「漁師さんは仕事で泳いだりするだろうけど、僕たちは遊びで泳ぐんだよ。」


「私は川でしか泳いだことないんだけど・・。カイトが住んでたところは海が近くの村なんだっけ?」


「いや、バーン村って言って雪を被った南アルト山脈の峰々が近くに見えるところだよ。とっても綺麗な景色なんだ。アビーにも見せてあげたいね。」


「?? じゃあどこの海で泳いだの?」

「うーん・・・・秘密」


「フフッ。カイトって何か不思議なんだよねえ。」

「そう?」


「あのドレイン方伯の息子なのにまったく偉ぶらないし」

「ふむ」


「と思ったら、遥か遠くの農村で暮らしてたって言うし」

「ふむ」


「なのに勉強はめっちゃできて、、魔法は・・・全部できるし・・・そんな人は偉人にもいないし。」


「フフフっ すごいだろ」

なんか褒められたようでスキップになる。


「じゃあさ、夏の合宿が終わったら夏休みじゃない? 夏休みに海にいってカイトの言う海水浴をみんなで楽しまない?」


「それは(目の保養にも)良いね!でもこの辺に白浜の海はあるのかな?」

「白い浜ね・・。どうなんだろね?白い浜でないとだめなの?」


「綺麗な砂の浜があればどこでも海水浴はできるけど・・水着も必要だな」


「水着?? 泳ぐための服かしら? それは必要なの?」

「もちろん(目の保養のためにも)必要だよ!」


「じゃあマーガレットに頼むしかないわね。」

「それだ! じゃあ今度聞いてみよう。」


「でも・・、私は少し泳げるけど、ルークは泳げるのかしら??ちょっと心配かも」


「ルークはなんでもすぐに上手くなる体質だし大丈夫じゃない?」


僕は今、アビーと一緒に5限の「動」の魔法の授業を受けに校庭の北側に向かって歩いている。


「動」の魔法実習は今日が初めてになる。僕はそれまで火と水に専念してたからね。

そろそろ別の魔法も使って行かないとと思って「風」と「動」魔法を練習することにした。


アビーは「水」と「水」ばっかり。得意な水魔法しか実習授業を受けていなかったので、5限はそろそろ「動」魔法を習おうよって僕が誘った。


昨日、僕が皆にうんちく講義を行ったのは実はアビーが「動」の魔法を僕と一緒に受ける前におさらいして欲しいって言われたからである。


6月も後半になるともうすっかりクラスの皆んなとも打ち解けて、ノベルでもセンターヒロインであったアビーとの距離も縮まってきた気がする。

それでもルークのポジションは揺るぎないからね、『ルークはいいなぁ。』なんて思いながら歩いてたら「動」の練習場についた。


*****


「カイトくんとアビーさん「動」の魔法の授業を受けるのは今回が初めてだね。」

動の魔法の講師はB組担任のロビン先生だ。


「そろそろ次のステップに進まないといけないと思ったので。先生、今日からお願いします。」

「では最初は2人につきっきりで教えましょうか。 他の生徒は教えた通り実技の練習をしてくれ。」


「動の魔法がどのようなものか言ってくれるかな?アビー」

「物体を捉えて動かす魔法?です」


「そうだね。『捉える』と言う考えが非常に大事だ。カイトくんは昨日、風の魔法の授業を受けたね。風の魔法と動の魔法とどう違うと思うかね」


「どちらも動かすので「動」の魔法だと思っています。ただ風魔法は捉える対象が見えないので・・風をとらえるというよりも空間?を捉えるイメージだと先生に教えていただきましたよね。だから対象が物体か空間か?の違いではないでしょうか?」


「そうだね。実はどちらも動の魔法といえるね。ただ、実際風魔法を使えばわかるが全く違うとも言える。


風魔法は「気」のルーンが対象になる。

「気」とは見えないがそこにある何かだ。


風はその「気」が動く現象であり、通常は見えない。

今から教える「動」の魔法では見える「体」を捉えることが大きく違う。」


「では、ここに落ち葉がある」

先生が青々とした葉を何枚か地面に撒く。


「少し風が吹いているから動いてしまうかもしれないが、この落ち葉の1枚を私の目の前に運んできてくれ。

では2人とも杖をどれか一つの目標に向けて指し出しなさい。」


杖を近い方の落ち葉1枚に向けて指し出す。

「そして杖と対象が釣り糸で繋がっているイメージをもちなさい。そして動けと念じる」


『動け』

杖の先にある紫の宝石が輝く。

ふわりと、葉が持ち上がる。


「そのまま釣り糸がピンと張って繋がっているイメージを持って杖をゆっくり上にあげて・・・」


ゆるゆるっと葉が上に登っていく。

しかし、腰ぐらいの高さのところでフッと糸が切れたように葉がゆらゆらと風に靡かれて落ちていく。


隣を見ると、アビーは今から葉を上に上げるところだ。

アビーが向けた杖に支えられるかのようにゆらゆらと登っていく落ち葉。

しかし腰あたりでやはり風に流されて飛んで行ってしまった。


「あっ」

アビーが悲しい声を出す。


「2人とも初めての授業にしては上手ですね。いきなりそこまで持ち上げられるというのは杖のルーンとのつながりがすでにできている証拠です。

鍛錬すれば上手な「動」魔法使いになれますよ」


風の魔法の時は最初の授業でははなかなか捉えることができなかった。だって見えないんだから。

でも動は見える!これは風より意識しやすい。


「それではもう一度いきましょう。」


この日の授業は延々と落ち葉を運ぶことに専念した。


結果として杖の先から伸びる糸と言うよりも棒が目標を捉えつづける事をイメージすることで徐々にだけど上手く操れるようになってきた。これは楽しいぞ!!



葉っぱなんて動かして役に立つのか?と思うかもしれないが、もちろん上達してくれば手のひらサイズの石ころくらいは簡単に動かせるようになる。


ただ、そう言った物を動かす場合は質量も大事だけど動かす速度が重要になる。

これが動魔法の最大の課題だ。


早く動かすというのはそれだけ瞬間的なエネルギーが必要になるからだ。

上手く誘導出来なければ石ころが地面に落ちるだけだ。

 

例えば細い糸で重い物を早く動かそうと強引に早く引っ張っても切れるだけなのと同じ。


しかし、「動」には関連のルーンとして「速」と言われるルーンがある。この「速」のルーンは瞬間的に動の力をアップさせることができると考えられている。


だから戦闘用のものは「速」のルーンを組み込んだ魔法具が一般的なのだ。


「速」を使えない人は自努力で早く動かす訓練をするしかないが、もちろん「速」持ちに勝つのは至難の業だ。


また、この「動」魔法はすでにある物だけでなく、魔法で生み出した物体にでも応用できる。たとえば、誰かが「水」魔法で水を出した時にその水を飛ばすなんて使い方ができる。 


それだけではない。熟練すれば飛んできた物体を動魔法で叩き落とすことも可能だ。そう防御魔法としての使い方ができる。結構すごいでしょ?


いやあ「動」の魔法は奥深いよ。



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