第52話 朝食にて

ゲイルが襲われた事件は、ドレイン家の護衛が一人重傷を負ったが、皇都の魔法診療院にて治癒魔法を受け助かったので、被害は最小限に抑えられたと言えるかもしれない。


しかし首謀者達は逃走し、残りはゲイルの魔法で灰と化したため結局犯行グループが何者かはわからず仕舞いだった。




僕は今、寮の食堂でルーク、リオニー、シャルロット、カトリーヌと一緒に朝食をとっている。


テーブルは4人掛けなのだが、最近いつも無口なシャルロットが強引に割り込んで来るようになったのだ。


カトリーヌは遠慮して立とうとするが、5人でも座れない事はないので結局5人で仲良く座っているわけだ。


シャルロットは不思議な子だ。

「ここいい?」とだけ言うと僕とカトリーヌの間に入ってこようとする。


それで、強引にカトリーヌとの間に割り込んだからといって何か話すのかと言うと。何も話さない。

たまに僕の方を見つめてボソボソっと何かを話すが、会話にはあまりならない。


カトリーヌも「カイト様・・またお手付きされたのですね?」と言うだけでちゃんとシャルロットのためのスペースを開け、悪い顔ひとつしない。カトリーヌはいつも冷静沈着だ。

もちろんお手付きはしてないのだが。


また、シャルロットと仲が良くいつも彼女の側にいたカミーユは、なぜかシャルロットに声をかけるでもなく僕たちの座るテーブルの隣のテーブル席に陣取りこちらを睨んできている。


シャルロットさんや。カミーユさんが怖いんだけど・・。


「カミーユと食事しないの?」と聞いてもシャルロットは、「カミーユはそれでいいの・・・」と言ってなにも気にしてない様子だ。


シャルロットとカミーユ。この同郷の二人はラノベには出てこなかった。

僕が学園に入ったことで何かが変わったのだ。


少し怪しい二人だとは思っているが、杞憂かもしれないし、

可愛いクラスメイトだし、一緒に食事をする分には問題ないだろう。僕は女の子には弱いのだ。


シャルロットはもう少し会話に入ってくれたらいいのだけど・・。


さて食事にしよう。

木の器のスープにパンをつけて口に運ぶ。やはり焼きたてのパンはうまい。

農村で暮らしていた時は水分が抜けた硬いライ麦パンを食べることが多かったが、ここでは毎日焼きたてパンが食べられる。

昔を思い出すと学園の食生活は天国のようで、こんな生活していて良いのだろうか?と少し罪悪感さえ感じてしまう。


「ゲイルって襲われたんやろ?? ルークが救ったって聞いたで」


リオニーが先日あった襲撃の話を切り出す。


「そうそう。俺が駆けつけると剣を持った男達がゲイルを取り囲んでたんだぞ。俺がいなけりゃあれはやばかったな。そういえばカイトはあれからゲイルと話したか??」


「あの時以来話はしていない。もちろん火の魔法の授業で挨拶はしているけどね。」



******* 襲撃事件当日のことを思い出してみる *******


襲撃者が去ったあと僕はカトリーヌに命じて、貴族街にある皇立魔法診療院へ治癒魔法官を呼びに行かせたあと、ヨハンナと抱きしめ合うゲイルに声をかけた。


「お兄様!お怪我はありませんか!?」

お兄様はヨハンナを胸に抱きながら振り返る。


「大丈夫だ。すまん、助かった」


「奴らはいったい??? 何があったのです?!兄様」

「わからん。誰かが私・・もしくはヨハンナを狙ったのは確かだ。」


「お兄様を狙うなんてそんな奴が・・・・?」


ラノベの最新刊でもゲイルには敵対勢力と呼べるのはまだルークくらいしかいなかったので、得体のしれない賊に襲撃される展開はなかった。

しかも今の時期はルークとゲイルは全くと言っていいほど接点はないし、そもそもルークはそんな卑怯な真似もしないし、賊を雇う金もない。


「私には思い当たる節が・・少しある。 逃げたやつの顔は覚えたのでいずれはっきりするだろう。」


やはりアレッシオかな?なんかやり合ったと言う噂を耳に挟んだし。


「とりあえず今、魔法診療院へ治療魔法官を呼びに行かせました。」


「皇都の警備兵もルークが呼びに向かってますが、お怪我がなければ今は屋敷に戻られた方がいいかもしれません。ここは僕たちに任せてください。」


「すまんな。そうさせてもらおう」

そう言ってゲイルはヨハンナと共に馬車に乗り去っていった。



*** そんなやりとりをしたな ***


「ゲイルの奴は誰に狙われているんだ??」

「心当たりがあるようなことを言ってはいたけどね・・わからない」


「じゃあやっぱりアレッシオか?」

「どうだろう。アレッシオは相当ゲイルのことを恨んでいるらしいけどね」


「アレッシオってあのでっかいアレッシオのことやんな??」

「あのアレッシオだよ。リオニー」


「欲望丸出しのゲッすいアッレシオのことやろ。ヨハンナを口説いてもあかんから暴力を振るったって聞いたで。それを我らがゲイルが救ったんやって。やっぱゲイルは男前やんな。」


「ああ俺もそう聞いたぞ。 女に暴力振るうなんて男の風上にもおけないやつだ。」


「アレッシオは嫌なヤツなの・・」

久々に口を開くシャルロット


「シャルロットってアレッシオと話とかしたことあるの?」


シャルロットとアレッシオに接点があるようには思えないのだが・・。


「・・・・・・」


また黙ってしまった。


「カイトなら教えてあげてもいいの」


シャルロットは小さな声で呟く。何を教えるのだろう???


「何を???」


「・・・・・・」


また黙ってしまった。


「ゲイルにお近づきになりたいんやけどな〜〜。弟くんのカイトから紹介してくれへん?」


リオニーよ、お前もゲイル派か・・。

さすがのゲイル兄様ではあるけど、ちょっと嫉妬してしまうな。


「僕もまったく相手にされてないからなあ。僕の方が仲介して欲しいくらいだ」


「ルークはゲイルを救ったんやろ? その恩でなんとかならへんの?」


「俺がゲイルと仲良いはずないだろ〜。」


「そもそもゲイルはヨハンナと付き合ってると思うんだけど・・。」


「それはそれ、これはこれやん。ゲイルも火遊びしたい年頃やろ〜」


火遊びでええんかいな??


「カイト様・・ゲイル様は火遊びでは済まないとおもいますので、ご忠告された方がよいと思います。」(小声)


「ん?? どういうこと」


「私の口からは申せませんが・・ゲイル様はカイト様よりも鬼畜でいらっしゃいますので」(小声)


僕は鬼畜ではないとおもうけど・・そういうことね・・転生前のゲイルを知っているんだろうね。深くは聞かないでおこう。


「僕の忠告を天真爛漫なリオニーが聞くかなぁ」(小声)


「そこ!シャルっちを挟んでヒソヒソ話しない。シャルっち可哀想やろ〜」


いつの間にかシャルロットに「シャルっち」という呼び名がつけられている・・。


「私は大丈夫・・・カイトの会話はきこえてるの・・・」


問題ないという意味だろうか?シャルロットがカトリーヌとの間にいるとちょっとやりにくいけど・・。まあ可愛い子だしいっかな。



「それよりもアレッシオ・・。ムカつく奴だ。ほんと関わりたくないな!!」


ルークはアレッシオにまだご立腹のようだ。


「さあ授業行こうぜ!!」


ルークは強引に話を終わらせてテーブルの木のトレイを片付け始める。


「カイト。あとで2人になったら・・。」


シャルロットが何かを呟いたがルークの声が大きくて誰にも聞こえていなかった。



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