第51話 ゲイルの火魔法
食事が終わり、ゲイルは席を立ち美しいドレス姿のヨハンナの手を取る。
「ゲイル。ご馳走様」
「ああ」
「お兄様おかえりですか?」
それを見たカイトが立ち上がり声をかけてくる。
また面倒くさい奴が声をかけてきたな・・。
「ああ、これから食事するようにみえるのか?」
「えっとっ。また火魔法の授業でお会いするのを楽しみにしています」
「そんなセリフは女に言え。」
「あっ。確かに。流石はお兄様です!アドバイスありがとうございます!!ではお気をつけて!」
何が流石だ。バカにしているとしか思えない。私とヨハンナの関係を揶揄っているのか?
「カイト君、またね! あっ!みんなもまたね!」
ヨハンナは全く気にせず嬉しそうに する必要もない返事をしている。本当に太陽のような子だ。
出口に向かうとエマが私の装備を持って出迎えに来ていた。
「馬車は表通りに用意しております」
「すまないな」
ヨハンナと共に表通りの馬車に向かう。
しかし馬車が視界に入ったところで異変は起こった。
「やれーーーーーーーーー!!!」
突然大声が響く。
その声と共に馬車の反対側の道から男が3人走り寄ってくる。離れてはいるが馬車の奥にも4~5人いるように見えた。
「エマ!!」 「はいゲイル様!」
私はそう言うとエマから剣と杖を受け取る。
「ヨハンナはレストランに走って戻れ!!!」
「いやだ!僕も戦う!」
「武器も無しにか!!!」
すぐにエマがヨハンナの手を引きレストランに向かわせる。
「ゲイル様!」
馬車にいた護衛の男が駆けつけてくると、すぐさま襲撃者と私の間に入り剣を抜く。
ガッチン!!
そのすぐ後に護衛の剣と襲撃者の剣がぶつかった。
襲撃者は暗い色のローブを身に纏っているが、中に革の鎧を身につけていることから傭兵だろうと想像がつく。
「おらー!死ねやー!」
さらにもうひとりの襲撃者が駆けつけてきて剣を抜くと、ゲイルの護衛に振りかぶる。
護衛はそれを見て剣先を新手に向けるが、これを受けると目の前のもう一人に斬りかかられるだろう。
ゲイルは迷わずエマから受け取った杖を後から来た賊に振り向けた。
ゴオオオオオオオーーーーーーーーー!!
「うわああああーーーー!!!!」
ゲイルの杖から噴き出た炎が一瞬のうちにその襲撃者の男の一人を包むと、悲鳴をあげて地面に倒れこみ、炎の中でのたうちまわった。
3人目の賊はその炎を見て警戒したのか足を止めると、最初に切り掛かった賊も少し後退する。
賊は少し距離を取り睨み合いになるが、その間に残りの5人が駆けつけ賊は7人に増え形勢は大きく不利になっていた。
最後に一人のローブ姿の男が急ぐ様子もなく現れる。
「貴様ら2人相手に何を手こずっている。」
この最後に現れた男はこの賊のリーダーなのだろか、ローブの下に鎧を羽織っている様子はない。
「全員で取り囲んで一気に蹴りをつけるぞ」
リーダー格の男が命令を出す。
「フフっ 貴様らには私は倒せん。」
賊は7人で距離を置きながら取り囲むように動く。
「この炎はな、持続できる。何人来ようとも敵ではない」
とは言え、7人に一気に近づかれると流石にまずい。
ゲイルは右手に剣。左手に炎の杖を持って、護衛に背を預けるように立った。
賊が完全に取りむように円になると、先ほどの命令をした男がナイフをゲイルに向かって投げつけてきた。
カキーン!
ゲイルの剣がナイフを弾く。
それが合図だったのであろう。賊は一斉に距離を詰めて動き出す。
ゲイルはすぐさま杖をかざし炎の魔法を発現させる。
ゴオオオオオオオーーーーーーーーー!
「うわああーーーー!!」「ぎゃああーーー!!」
炎は近寄る2人を一瞬で炎につつむが、別の賊の接近を許してしまった。
別の賊の剣が杖を持つ手とは逆の右側から振り出されるが、ゲイルは冷静に右手の剣を合わせる。
カキン!!
賊が振り下ろす剣を右手の剣で防ぐと、そのまま集中力を切らさず、杖から今も湧き出る炎を切り掛かった賊に向けた。
**
魔法を持続させるには杖の宝石と魔法のイメージに意識を集中させ続けなければならない。魔法学園1年生の生徒はまだ魔法を習い始めたばかりで、ほぼ全員魔法を維持させることすら怪しい状態だ。
剣を使いながら魔法を発動させるなど魔法学園を卒業する3年生ですらできるものはほとんどいない。
それをゲイルはこの時点で、しかも実戦で行えてしまっていた。まさに魔法の天才だろう。
**
ゲイルに切り掛かった男が炎に包まれ、うめき・・倒れる。
しかし、
「ウっ・・・・」
ドスッ・・
ゲイルの背後を守っていた護衛の男が膝を崩す。
その音で状況を察しすぐさま後ろを振り返ると、賊の剣がゲイルの目の前に振り下ろされてくるところだった。咄嗟に左手の杖で防ぐが、この体制では炎の魔法は使えない。
まずい!!!!! 死を悟ったその時、
「ゲイルーーーーーー!!!」
ヨハンナの声が聞こえた。
「お前ら! 刀の錆にしてやるぜーーーー!!!」
ヨハンナと共に剣を高く掲げたルークとカイト達が勢いよく走り寄ってくる。
「ッチ! 去るぞ!!」
賊は状況を瞬時に理解して走り去っていく。
「ゲイル!!」
ヨハンナは剣と杖を握りしめ立ち尽くすゲイルに駆け寄ると、そのまま勢いを緩めることなくゲイルの胸に飛びこんだ。
ゲイルの胸に顔を埋め、涙を流すヨハンナ。
ゲイルは右手の剣を地に落とし、その愛おしい女性の頭を無言で撫で続けた・・・。
そして、残されたのは血を流し倒れた護衛と黒炭になった焼死体が4体だった。
************
事件から10日ほど後・・・・・
パオロは大司教の執務室にいた。
「なに? どういうことだっ!」
大声が室内に響き渡る。
秘密結社「神の呼び声」の皇都の活動拠点で諜報役をしている修道士トムソンがとんでも無い報告をしてきたのだ。
ゲイル-ドレインを襲撃した?!!何をわけのわからない事を言ってるのだ!?
「ですので、アレッシオ様の命令でゲイルを襲撃したようでして・・・」
「なぜゲイルを襲う!? あのドレイン家の嫡男だぞ!!?」
「どうやらゲイルの恋人であるヨハンナ-アルムガルトを奪いたかったようですが・・」
よりにもよって女の取り合い!?しかもアルムガルド家の女性・・・・
「アルムガルトだと!? 有力な伯爵家ではないか! その2家を敵に廻す危険もわからんのか!!」
「私はお止めいたしました。しかし、何も聞いてはいただけませんでした。」
「あいつは無能なのか!!!?? それで、この件が露見する可能性は!??」
「幸い襲撃を行ったアレッシオ様配下の3人は逃げ延びました。返り討ちにあった4人は腕利きの裏側の傭兵で全員死亡しております。傭兵の1人は生き残っておりますが・・おそらくバレる事はないかと・・。」
「おそらくだと!? 3人は顔は見られているのか?」
「襲撃は夜でしたので、はっきりとは見えていないとは思うのですが・・・」
「3人は呼び戻せ。今後アレッシオの命令を聞く必要はない。
そうだな、こちらに戻る前に襲撃に加わって生き残った傭兵は殺すよう伝えろ」
「はい。かしこまりました。」
トムソンが部屋を退室していく。
アレッシオめ。とんでも無いことをやってくれる。
女の取り合いで襲撃?????
あいつはそんな無能ではなかったはずなのだが・・・。
学園入学前までは「神僕の召喚」にも積極的で秘密結社「神の呼び声」でも徐々に発言力を高めていた。
それがこんなバカな事をするとは・・・。
そもそもアレッシオには皇都の活動拠点のひとつを任せようと考えていた。
しかし急に魔法学園に入学すると言い出した・・。
私もその事にはびっくりしたが、アレッシオには魔法の才がある。一流の貴族が集う魔法学園で腕を磨きたくなるのもわからなくはない。
ゲイル-ドレインを是非とも「神の呼び声」に招きたいと言う思惑もあり入学を許可した。
それに学園にはゲイルの他にも有用なルーンを持つ人材が必ずいる。その人材の取り込みもアレッシオには厳命して送り出した。はずだったが・・・。
その結果がこれだ。
ドレイン家と敵対などしてみろ!災いどころでは済まない。
「・・・・・・・あやつめ!!!!」
苛立ちから噛み締めた唇から血が滴り落ちている・・・。
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