第50話 レストラン

シャンデリアとテーブルの上に置かれた蝋燭が意匠を凝らした店内を照らしている。


ゲイルとヨハンナが座るテーブルにウエイターが黒々とした鉄皿にのったステーキを持ってやってきた。


「すごーい。おいそうだねゲイル」

「ウッドボアだな。ここのシェフの腕は確かだ。」


「ゲイルのおすすめの店だったら間違いないよ。じゃあいただくよっ。 あっ神様・・とゲイルにお祈りしなきゃ」


そう言ってヨハンナは何かブツブツ呟いている。それが可愛い。

私はそれを眺めて見ている・・

ヨハンナは美しい・・・それでいて太陽のような笑顔・・・そして無邪気さ・・・完璧だ。


「ゲイルは食べないの?」

「ああ・・」


ちょっと見惚れていた。


「食べないならもらっちゃうぞ?」


「ハハハッ  まだ自分の分も食べてないのに私のウッドボアを取るのか?」


「ぼくは欲張りだからね。ゲイルのものはなんでも欲しくなっちゃうのかも」


「それは欲張りすぎだな ハハッ」


その何気ない会話を肴に私はワインに口をつける。


「今日の演劇はとってもよかったね。とくにさ、ローズ・テイラーは綺麗だったなあ。」


「そうだなローズは美しかった。声も表情も素晴らしい」


「ローズ?・・・。ゲイルがベタ褒めなんて意外だな・・・・。

えっ。口説いたらだめだよ。ドレイン方伯の子息に口説かれたらローズでも本気になっちゃうよ。」


「ばかだな。ヨハンナに叶う女はいない。君が一番美しくて可憐だ。」


「ゲイル・・・ 照れるから、、そういうのは後で・・ね」


「照れるところがまた素敵だ」

「ゲイルってばっ!」


「さあ、ヨハンナに取られないうちにウッドボアをいただこう」



そんな甘いやり取りを楽しんでいると店の入り口の方から新しい客がやってきた。



「お客様、2つ並んだテーブルをご用意できるのがこちらだけでして、この席でいかがでしょうか。」


「どこでもいいですよ」


「す!すごい!!こんな高そうな店入って大丈夫なの・・?」


そんなやり取りが聞こえてくる。

目線をヨハンナから声の方に向けると、そこには先ほど大劇場前で会ったBクラスの連中がいる。


「あいつらか・・・」


表情には出していないが、私が不機嫌になったのがわかったのだろう。ヨハンナも連中の方を向く。


「ゲイル・・? 弟くん達だよね。弟くんとは仲良くないの?」


「あいつは弟などではない」

「とっても可愛い男の子だけどなあ」



「お兄様!奇遇ですね。こちらの席よろしいですか?」

すると隣のテーブルに来たカイトが挨拶をしてくる。


「好きにすればいい」


「ではお言葉に甘えて。 みんな!お兄様の許可が出たから飲んで食べよう」


「やったぜ。俺も酒を飲んでみたいと思ってたんだ」


少し庶民臭さが残るこの男がルーク・・・。。

ゲームで主人公であった男だ。庶民の生まれながら私に優る才能の持ち主。そう設定している。

本来のゲイルはこの男に欲望・野望全てを阻まれる。



ヨハンナに視線を戻す。

「ヨハンナ、カイトとルークには近づくな。あいつらは怪しいからな」

「えっ、何が怪しいんだい??」


「私に弟などいなかった。つい最近までな。いきなりドレイン家の次男などというポジションに現れた事が怪しすぎる。」


「お父様の妾の子だったんでしょ??」


「そうだが・・・何か裏がある。」

「そっか。わかったよ。でもルークは関係ないよね?」


「そのカイトと仲がいい・・・」


「ハハハッ ゲイルって面白いよね〜。そんな事言ったらBクラスの子は皆んなそうだよ。ハハハッ あれでしょ。ルークがカッコいいからでしょ??」


「奴が男前なのは確かだが、色男なのも確かだからな。」


「そんな話聞いた事ないけどなぁ ハハハッ 大丈夫だよ。ゲイル以上の男前はいないから。」


さっきの仕返しだな? しかし悪い気はしない。むしろ嬉しい。




ビアンカ「カイトこれ頼んでいいー?」

カイト「何でも頼んでね。行けるよね?カトリーヌ」

カトリーヌ「先ほどのドレスと洋服の仕立ての支払いは、仕立てが終わってからになりますので十分余裕はあります。」


ルーク「金持ちは違うなあ。本当に奢ってくれるのか?」

カイト「ルークは貸しだよ!! さっき無理して剣なんて買うから。。。仕方がない」


ルーク「カイトみたいに帯剣したくなったんだよ。カイトのせいだ。」

アビー「カイトありがとね。ルークは学園からの支給金しか金がないからねぇ」


※学園に通う生徒には寮に入っていても、皇都での生活費としてそれなりの額が支給される。


ビアンカ「カイトこれも食べたいー」




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


隣が騒がしい。


ここはそんな店じゃないぞ!!

連中のせいで顔が引き攣ってしまったではないか。


「ハハッ カイト達はゲイルの天敵だね。ゲイルはあのアレッシオにも毅然としてるのにね」


「アレッシオは愚かだからな。 愚かな奴に屈することはない」


半分ほど残っていたワインを飲み干す。


「じゃあやっぱりカイト達は天敵だ。」

ヨハンナの美しく無邪気な笑顔が眩しい。


「そうかもしれんな」



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