第46話 エマとヨハンナ

最愛のヨハンナと結ばれた。ヨハンナの姿、その仕草が脳裏に焼き付いている。


「ヨハンナ・・・」

その事実が私の心を天にも昇るほどの幸せで満たしていた。



今日はヨハンナと皇立大劇場で観劇した後にレストランで食事をする約束をしている。


先日の事件の後に傷ついたヨハンナを屋敷に呼び食事を共にしているが、ドレスを着たヨハンナを見られると思うと楽しみで仕方がない。


心躍らせていると、侍女のエマがタキシードのような正装を持って部屋に来た。


「ゲイル様、失礼致します」

「エマか。入れ」


「本日着用される正装をお持ちいたしました。お着替えさせていただいてもよろしいでしょうか」

「もちろんだ。よろしくたのむ」


「では失礼いたします」

エマが私の服を脱がしていく。


14歳で美剣城真人の記憶が蘇るまで、ゲイルと言うもう一人の自分は侍女のエマにかなり酷いことをしてきた。

変態的なことも強要した。ゲスに相応しいことをしてきたのだ。


しかし美剣城真人の記憶を取り戻した今、そのゲイルという自分に強烈な嫌悪感を抱いている。エマにしてきた数々の非道を反省し、それからはエマには優しく接するようにしている。


夜も優しく接している。


最初は驚いた様子のエマだったが、次第に私に怯えることもなく心を許すようになってきた。


今の私は献身的なエマを好いているし、ある意味償いとしてエマを愛でてはいる。


しかし、ヨハンナと結ばれたいま、エマとの関係も通常の侍女と主人に戻す必要があるだろう。そう考えていた。


「ご出立のご用意はできました。まだ時間がございますのでお茶をお持ちいたしましょうか?」


「そうだな。ローデライト産のリーフで頼む」

「かしこまりました。」


しばらくしてエマが茶セットを持って現れ、カップに注いでいく。

「エマも飲むといい」

「いえ、そんな恐れ多い・・・」


「私がこわいか?」

「・・いえ、ゲイル様は優しくしてくださっています」


「では、遠慮せずに飲むといい」


そうエマに茶を進めつつエマの入れた香り高い茶を口に運ぶ。


「エマの紅茶はうまいな」


エマの入れた紅茶はうまい。それは本当だ。結婚したとしてもエマは侍女として外すことは出来ないだろう。


エマはキッチンに戻り、自身のための紅茶を淹れるためもう一つカップを持ってきた。


「では頂きます・・。ありがとうございます。ゲイル様」


紅茶に口をつけるエマ。紅茶の味に一瞬顔が綻ぶが、数秒して真剣な顔になる。


「・・・・」


「ゲイル様・・・・・。」

「なんだ」


「・・・・・・・ひとつお聞きしたいことございます。・・・・・・・・よろしいですか?」


「言ってみなさい」


「ど、どうして私に優しくしてくれるようになったのですか?」


「・・・・・・」


私は少し考え込む。そして

「エマの魅力に気づいたからだ」

そう言った。


エマの頬が今度は少し紅らむ。

しかしまたすぐに表情が変わり、少し悲しい顔をする。


「ヨハンナ様とのお付き合いは全力でサポートさせていただきます。

いただきますので・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・

エマの事を捨てないでくださいませ・・・」


言葉の最後には少し涙が混じっていた。


「・・・・」


エマにはヨハンナの事で思うところがあるようだ。


「優秀な侍女を放り出すことはない。いつまでも私に仕えてくれ」


私はそう言うとエマのそばにより肩を抱きよせ口づけをした。



「ゲイル様 お慕いしております」



**********



昼過ぎにドレイン家の馬車はヨハンナの皇都の屋敷(アルムガルド伯爵邸)に到着した。


もちろん侍女のエマも一緒だ。


皇都のアルムガルド伯爵邸はドレイン家のものと比べると一回り小さいが、美しい花が咲く庭がありとても美しい。


「ゲイルありがとう!」


門の前につけた馬車から降りると青く煌びやかな生地のドレスの裾を持ったヨハンナが走り寄ってくる。


そのままヨハンナを抱き寄せると、口づけをかわす。数秒くらいだろうか。


ヨハンナの両肩を持って少し離れるとヨハンナの顔、胸元、つま先、全身を眺める。


「美しい・・・」

「ゲイル・・・ なんだか恥ずかしいな」


顔を赤くするヨハンナ

本当に綺麗で、可愛すぎる・・・・・・・


「さあ行こうか」


ヨハンナの手を取りエスコートして馬車に乗せる。

そしてその隣に座るとすぐさまヨハンナは腕に抱きついてきた。


「ゲイルありがとう!今日をとっても楽しみにしていたんだ!」


幸せだ・・・・そう感じるゲイルであった。



**********

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