第42話 ヨハンナ

ゲイルに転生した私(美剣城真人)の第2の行動基準は学園の生徒達を味方につける事だ。


特にゲームのヒロイン達を味方につけておきたいと思っているが、そのヒロイン達の中で真っ先に手に入れたい女性がいる。それがヨハンナだ。


ヨハンナはまさに美剣城真人ゲイルの好みでゲーム「ルーンレコード」に登場させたキャラクターだ。


彼女ももちろんゲームでの攻略対象の1人で、

ヨハンナルートに進むと、ルークとヨハンナはゲイルを倒しパオロ大司教の野望を砕いた後にアルムガルト伯爵領で結婚し幸せに暮らすという穏やかなハッピーエンドを迎える。


美剣城真人ゲイルとしてはこのハッピーエンドがトゥルーエンドだと思っている。ハーレムエンドなど糞食らえだ。

ハーレムエンドはその後の修羅場は想像に難しくないだろう。


制作会社では第二作目も企画が進んでいたが、ストーリーはアビーエンド等での設定を使う予定だった。


ゲーム企画としてのセンターヒロインはアビーであり、本命のアビーエンドではルークは悪魔討伐の功績により褒章された上で、映えある近衛騎士団に小隊長として入団することになっている。


とはいえ、近衛騎士団に待ち受ける困難な未来の事を考えても、アビーエンドよりもヨハンナエンドが正解だと言い切れるだろう。


まあそれはいい。重要なのはヨハンナの魅力だ。


ヨハンナの美貌は完璧で美しい。長く伸ばした茶色がかった金の髪はふんわりボリュームがあり、そこから覗く容姿は淡麗で美しく芸術品のようだ。その一方で少し男の子っぽいところがある超私好みの僕っ子設定だ。

しなやかな体型から仕草から、ヨハンナの魅力は語り出せばキリがない。


その完璧な少女がリアル世界で命を持って学園で生きている。

それは美剣城真人である私にとっては夢のような現実なのだ。


もちろん元のゲイルのゲスい欲望も併せ持つ私だが、その心は闇に沈め、真剣に自身の魅力で、ヨハンナを口説き落としそして愛でたい。そう思っていた。


学園が始まり、しばらくして学園生活に皆が馴染み始めた5月に入ったとき、1人で昼食を食べるヨハンナに声をかけることにした。


「ヨハンナ。と、よんでいいかな?」

「君はゲイルだったね。どうしたの?」


「いや、私はどうやら皆から嫌われているようでね。話相手がいないんだ」


「あのゲイルだもんね」

「あの?」


「ああ、気を悪くしたらごめん。僕が聞いた君の噂がとてもひどくてさ」

「どんな噂なんだい」


「ハハハッ とっても酷いんだよ。そんな事ないのにね」

「酷いと言われると気になるな。その噂とやらを教えてくれないか?」


「屋敷では暴虐無尽で、侍女や召使いをペットのように扱ってるとかさ。その扱い方が酷いんだよ。ハハっ

裸にしてロープで縛ったり。犬のように食事させたりとか。」


「それは酷い」


本当である。ゲイルはゲスであった。

思考は甘やかされたガキそのもので暴力的。性的衝動も抑えられないクズだ。


しかし、日本人の真人の記憶が蘇った今そのゲスは大人である真人の性格と記憶によって抑えている。

抑えなければ絶対に良いことにはならないのだ。


「酷いだろー? 本人を見たらそんな事するような男じゃないってすぐわかるよ」

「ヨハンナにそう言ってもらえると素直に嬉しいな」


「そう?ゲイルは方伯の長男でハンサムだからそういう陰口を言われるんじゃないかな。」


「父には政敵が多いからな」

「いや、君への嫉妬だよ」

「そうか。それなら大丈夫だ。慣れている。」


「ゲイルってちょっと大人っぽいよね。おっさんくさいと言うか。ハハハッ」

おっさんが転生したからな。とは言えない。


「おっさんはやめてくれ。まだ15だ。」

「僕たちは成人したんだから大人なんだけどね」


「そうだな。私たちは・・いや君は大人の魅力を持っているよ」

「ハハハッ そんなこと初めて言われたよ。ゲイルは面白いところもあるんだね。」


「笑わせるつもりはなかったのだが・・。」

「でも、そう言われるとちょっとうれしいよ。」


「本当のことを言っただけなのだがな」

「何だいそれ。フフッ」


「フッ その笑顔がいいな。

ヨハンナ。君とは気が合いそうだ。今度奢らせてくれ。

もちろんこの食堂じゃない。街のレストランでだ。」


「ハハハッ いきなりナンパかい??・・・まあでも良いよ。僕も友達少ないしね」


「では、次の、いやそれは急ぎすぎだな。2回目の休みの夕方馬車で迎えに行こう」

「わかったよ」


ヨハンナの笑顔はとても眩しく素敵だった。真人である私が理想とする女性そのものだ。


運命の女性だとそう確信する。


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