第41話 ゲイルとアレッシオ2

学園内にある教会の鐘が2回鳴った。この鐘が授業が始まる合図になっている。


「整列!!!」

北授業棟の4階にある武技実習教室で剣術講師であるヘンリー-エバンズが号令をかける。


剣術の授業では魔法の授業とは違い、入学の際に支給された木刀を持参することになっている。


それぞれが木刀を手に持ち駆け足で2列に整列した。

私も駆け足で列の先頭に立つ。


アレッシオだけはなにかと動作が遅いが、それでも駆け足っぽい事はしている。

他の授業と違い剣術の授業の教師であるヘンリーは歴戦の強者であり、軍隊式の訓練を標榜しているので、従わざるをえないのだろう。


この授業に皇女たるエリザベスは参加していない。後ろのベンチにて護衛兵に守られて座って観るだけである。


理由は今日の授業では木の剣による打ち合いが行われるからで、エリザベスは次期皇帝になる可能性もある人物なので学園側も安全に配慮しているのだろう。


木の剣による打ち合いは木の剣といえど当たりどころによっては大怪我をすることがある。


実際、5日前の初めての撃ち合いの授業でアレッシオがハインツに力任せに打ち込んだため、ハインツは左腕を骨折し今日はベンチにいた。


この学園の医務室の医者は治癒魔法が使えるが、治癒魔法は生物の治癒の力を大幅に強化する魔法であり、即効性のある魔法ではない。

ハインツの腕の骨折は治癒魔法を毎日かけてもらっているとはいえ、まだ癒えていないのだ。

ちなみに治癒魔法のゲームでの効果設定は通常で5倍程度の治癒力アップである。


通常は外で行われる剣の授業も木の剣による手合わせがある場合は室内になる。


生徒たちは整列を終えると駆け足で教室の両側にある防具入れに向かい、それぞれ着用する防具を抱えて同じ場所に戻ってきた。


着用する防具は鉄のヘルメット、鉄の胸当て、鉄の肘当て。革の手袋。革の腰当と臑当だ。


胸当てや肘当ては一人での着用が難しいため生徒同士が協力しあって着用しなければならない。

10分くらいで着用が終わると、まずは基本の型の素振りを入念に行い、そして最後に生徒同士の手合わせとなる。


アレッシオは先日ハインツを負傷させたことから講師のヘンリーに強く叱咤されたが、その時からは手合わせではちゃらけた、いかにも手を抜いていますという態度を取るようになった。


特に相手が女性の時は手を緩めるのと同時に口も緩めまくっている。


「そんな弱々しい腕で剣を振えるのか?」


「関係ないわ。早く構えてよ。」

アリーチェが剣を構える。


「俺はもう構えてるぜ、打ってこいよ」

そう煽るアレッシオの剣は地面に着いたままだ。


「・・・・・。」

アリーチェは心底嫌な表情をする。そして、


「やあ!」

剣を真正面に振り下ろした。


アレッシオはその剣を後ろに飛び退きかろうじてかわす。


「へえ、怖ええ、怖ええ。

おーけー。じゃあ、もう一回同じ打ち込みしてみろよ!!」


アレッシオはニヤリとしながら人差し指をクイクイっと前に傾ける。


「いいわよ。今度は逃げないでね」

「いいぜ」


「やあ!」

アリーチェは再度剣を振り下ろす。


アレッシオは今度は下がらず上から来る木の剣に対し両手の鉄の肘当てをクロスにして止めた。


そしてそのまま前に進んでアリーチェにつかみかかる。


アリーチェは避けようとするが一瞬の出来事で避けられない。

アリーチェを捕まえたアレッシオはそのまま体重をかけると押し倒して乗り掛かった。


「イヤー!! やめてよーー!!」

「ヘヘヘッ こうされてる方がお似合いだぜ」


アリーチェは抵抗するが、大男であるアレッシオはそのまま顔をアリーチェの唇に近づける。


ドン!!!


講師ヘンリーの足の裏がアレッシオの横っ腹に蹴りをいれた。


「貴様なにをやっている」


横に転がったアレッシオはすぐに立ち上がり、

「すんません。打ち込みを避けようとしたらですね・・勢いで揉み合いになったんですよ。 ヘヘヘッ」

と腐った謝り方をした。


「1対1の実戦では押し倒すのは有効な手段の一つだ。

だが今は貴様たちに剣術の基礎を学んてもらっている。

押し倒しはルール違反だと説明したと思うが、聞いてなかったとは言わさんぞ。」


「覚えてますって。たまたま揉み合いになったんです。」


「二度とするな」

「気をつけます」


***


私の耳にアリーチェの声が響く、視線を声のする方に向けると小柄なアリーチェに巨漢のアレッシオがのしかかっているのが見えた。


「ゲスが・・」私はそう呟き止めに入ろうとするが、先に講師のヘンリーがきっちり場を収めてくれた。


アレッシオはある意味、元のゲイル以上の暴力魔だ。代わりに元のゲイルは陰湿ではあるのだが。

ヒロイン達に手を出してくるのなら対策を考える必要があるかもしれない・・。


そんなことを考えていると、面倒なことに私にアレッシオとの手合わせが廻ってきた。

同じクラスなのだから仕方がない。


「テメエと手合わせしたいと思ってたのよ。この前は軟弱なハインツの野郎がうめくもんだからやり損ねたしな」


先ほどの反省は微塵も感じないセリフを吐くアレッシオ


「私は練習ができればそれで良い」


「そのキザな態度。気に食わねえな」


「それは褒められたと思っておこう」

「クソが。」


アレッシオは構えもなしに突然木剣を振り上げ振り下ろす。

しかし、構えもなしに振り上げる時点で次の動作がわかる。


ゲイルはサッと後ろにステップしてその攻撃をかわす。


「ビビってるのかよ」


「トロールがこれだけよく喋るとは思わなかった」

「テメエ!!なんだとコラー!!!!」


今度は木剣を斜めに力一杯振り下ろすアレッシオ。

剣先でそれに合わせて斬撃を軽くかわすゲイル


「ちょこまかしやがって」

「隙だらけだな。大振りが酷いぞ」


「だったらビビってねえで打ち込んでこいやーー!!」


アレッシオは再度木剣を振り上げ大きな一歩を踏み込むとその剛力で振りおろすが、しかしその剣は空を切った。


アレッシオの遅い振りかぶりは剣筋を読むのは簡単だ。軽くかわしたゲイルはアレッシオの手元を木剣で軽く叩く。


カラーン!・・・


アレッシオの木剣が地面を転がる音が教室に響き、


「いてえーーーーーー!!! ウオォォォーーーーーーーーーーー!!」

叫び声をあげ、右手の甲を左手で抑えるアレッシオ。


「手を狙うなんて卑怯だぞー!!!! ウオォォォーーー!!」


「アレッシオ!大丈夫か?!!」

講師のヘンリーが駆け寄り、うめくアレッシオの籠手の防具を外しにかかった。


「大丈夫だ骨折はさせていない」

私はそう言うとその場を後にして、防具を脱ぎ始める。


学園の教会の鐘が3回鳴り響く。授業終了の合図だ。




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