第37話 初めての放課後

初の水の魔法実習が終わった。


その日は蛇口をめいいっぱい捻った程度の水が一度だけ出たのが最高だった。

魔法は練習あるのみだね。


さて、他のメンバーはと言うと、1Aのイケメン半狼人のハインツが一歩抜け出しているだろうか。蛇口3つ分くらいの水が1メートル先くらいまで飛び出していた。


エリザベス、アリーチェ、アビー、マーガレットは次点かな。水量は蛇口2つ分くらいだろうか?


授業が終わり、アビー、マーガレット、シャルロットと部屋を出る。


エリザベスはこちらをチラリと見ると和かに笑みを浮かべ警護の兵と共に先に出ていった。

何故かエリザベスに見られて頭を下げてしまった。



アビーは悔しそうだ。

「もー。うまく行かないわ。昨日より上手に発現できると思ったのに。」


どうやら成長してない事に腹を立てているようだね。


「そう言うものじゃないかな?

私なんて魔法が使えるだけでも御の字だしね」


綺麗な栗色の髪を持つマーガレットがアビーのグチに励ますように声をかける。


「それは僕もそうだよ。魔法が使えなかったら今頃どうなっていたことか。」


「カイトは気楽でいいわよね。大貴族の息子だし、火も水も使えるんでしょ。

私は地方の小さな街の領主の次女。水魔法で認められないと先がないのよ。」


「まだ一年生の最初だし、学園生活は始まったばかりだよ。これから毎日練習できるし大丈夫だって」


「ふーん。励ましてくれるんだね。カイトって本当にあのゲイルの弟なの?」


「ははっ・・・。 ゲイルもアビーの事を知ったら励ましてくれると思うよ。」


「あのイケメンに励まされても嬉しくないわよ。だって女の子侍らせてるのよ。」


「ゲイルに励まされたら私ならすぐついていくけどなあ。いいなあ、励まされたいよ」

マーガレットが本音をぶちまける。


「顔がイイだけじゃない。」

「それ!すっごく大事だぞー。どうやったらお近づきになれると思う?」


「はいはい。言ってなさい」


ふと、そんな会話に混じっていないシャルロットが気になり、振り返ると、普通の顔をして静かに後ろを歩いていた。


シャルロットは焦げ茶色のロングの髪が綺麗で背が低く目がくりっとして可愛いらしい子だ。

ノベルでは名前が出てこなかった子で、カミーユと一緒に最近入学したんだとか。


大人しいからノベルに出てこなかったのか?それとも僕が転生した事が原因で現れたのか?


「シャルロットはカミーユと一緒に最近入学したんだよね?同郷かなにか?」

「・・・カミーユとは同じ村で育った友達。」


「農村で育ったの!? 実は俺も農村にいたんだ。綺麗な山々が見える村だったけど、貧しくてさ」

「カイトが貧しいの・・・?」


「カイト? 君はドレイン家の妾の子だって言ってたじゃない。それがどう言う理由でそんな田舎村で貧しい生活してたのよ」

アビーが割り込んできた。


「はははっ。それには色々と理由がありまして。はははっ・・・」

「どんな理由なのよ?」


「うちの母はとある領主の子爵の娘で、父に捨てられた後実家に戻ったんだ。」

また口から出まかせが出てくる。


「ふーん。色々あるのね。でも子爵ならそこまで貧しい生活はしないんじゃない?」


「そ、そうだね。農民と比べると裕福だったかもしれない」


「お坊ちゃんかと思ってたけど、違うんだね。

私の家はこの皇都で貴族相手に仕立て屋やってるんだ。だから貧しくはない。

むしろ儲かってるんだけど、あのドレイン家の息子なんだから私たちとは比べものにならない生活をしてると思ってた」


マーガレットの家は仕立て屋さんなんだよね。儲かってるのか・・。


「いやいや、ほんとそんな事ないから。僕は今、寮に入ってるしね。」


「そうなの? ドレイン方伯の息子が寮暮らしなんてびっくりだよ」


「あっ!そういえばルークがそんな事言ってたわ。美人の侍女を連れて寮の朝食を食べてたって」


「なるほどー。そう言う事なのね。ドレインの血は受け継がれているって事だよね。」


アビーが話をややこしくし、マーガレットが裏読み始める。


「ドレイン家なんだから侍女を連れて当然なんだって」

僕はよくわからない言い訳をする。


「ふーん・・。侍女と朝食ねえ」

マーガレットはニヤニヤしている。これは会わせるしかないか。


「じゃあ今日の授業も終わったし、恐らく寮前で侍女が待ってるから、会って帰る?」


「うんうん。謎の美女の侍女!気になる!」アビーとマーガレットの声が揃っていた。

謎ではないけど、、


「シャルロットはどうする?」

「私は寮生活だから・・・見ていくの」



***************


「お帰りなさいませカイト様」

約束通り謎の美女侍女が寮の前で待っていた。


「待った?」

「いえ、授業の終わる鐘が鳴ってからここにきましたので、それほど待ってはいません」

そういうと、カトリーヌはカイトの横に並ぶ女性陣に目を向ける。


「えっとこちらは・・。」

僕は慌ててカトリーヌに説明をしようとする。


「カイト様はもうハーレムを築かれたのですか?」

おいおい。ハーレムってっ!しかもここで言う事か?


「はははっ・・面白い事を言う侍女でして・・。」

慌てて取り繕う。


「へぇ。カイトの侍女は噂通りめちゃくちゃ美人さんなんだ」

マーガレットが驚いている。


「カイト様の侍女を務めるカトリーヌと申します。」

「私はアビーよ。今日カイトの友人になったの。ハーレムではないから安心してね。」


「それは失礼いたしました。カイト様はあのドレイン家のご子息ですのでくれぐれもお気をつけください。」

そのドレイン家の侍女があなたなんですけど・・・。


女性陣はみんなクスッと笑みを浮かべている

「カトリーヌは場を和ますのが本当に上手なんだ。これで容疑は晴れたかな?」

うまい言い訳を考えついた。


「うん。カトリーヌとは馬があいそう。これからもよろしくね」

「美人で冗談もうまい。これは惚れても仕方がないよね。私はマーガレット。仲良くしてね。」

「シャルロット・・・です。」


三者三様の挨拶をして、そこで女性陣とは別れた。



「ビアンカはどうだった?」

「ビアンカ様は元気いっぱいでした。カイト様に会いにきて欲しいと言ってらっしゃいました」


「じゃあ、今から会いにいくか」

「畏まりました。お着替えはいかがいたしましょう?」

「このままでいいよ。」


******


「カイト〜〜。寂しくて会いにきてくれたの?」

寮の方にビアンカを呼んでもらうと、ビアンカが走って飛びついてきた。


「そうだね。寂しかった。ビアンカに会えて嬉しいよ」

「カイト様は歯の浮くようなセリフを簡単に吐けるペテン師ですね。」

こらこら。


「今日はどうだった?」

「友達いっぱい出来たよ!100人くらい!」

「ここの子そんなにいないだろ。。」


「とりあえずいっぱい出来たよ」

「友達が出来てよかったな!仲良くやるんだぞ。」


「でもあいじんはカイトだけにしとく」

顔を擦り寄せるビアンカ。こう言うところが可愛らしい。

あれ?パパは愛人から抜けたのか?


「僕はすぐ近くの寮にいるし、カトリーヌも毎日顔を見せるから、何かあったら相談しろよ。いいな。」

「カトリーヌありがとうね」

「カイト様のご命令ですので。」


「そうだ。授業に慣れてきたら僕も余裕出てくるだろうし、今度、買い物に行って食事でもしようか」

「デート!?」


「そうだね。デートしようか」

「やった!カイトとデート!」


「ビアンカ様は夜遅くならないように寮に帰しますので、今回は手を出すのはお控えください」

出しません!!


「日程が決まったら、ビアンカの外出手続きはカトリーヌに任せるね」

「畏まりました」



***************


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