第32話 学園寮

次の日、僕は学園長と面会した。

ゲイルとの事も踏まえてカトリーヌの事を相談したかったからだ。


「ゲイルお兄様は私のことをお認めになりませんでした。

それどころかかなり嫌われてしまったようでして。Bクラスに入れと言われてしまいました」


「ゲイル君は気難しい側面があるようだね。まあ、彼の気持ちもわかる。彼からもカイト君とは別のクラスにしてほしいと申し出があったよ。

教師陣もBクラスで納得してくれた。今回はBクラスで我慢してくれるか?」


「もちろん。それで結構です。」


ゲイルとはゆっくり好感度を上げていけばいいと考えている。

よく考えるとAクラスはゲイルの魅力で女生徒が僕に見向きもしてくれない可能性が高いしね。それも困る。


Bクラスでゲーム主人公のルークやヒロイン達と仲良くしつつゲイルとも距離を縮める方が良いのでは?と考え方を改めた。


「それと・・・。

私の侍女のカトリーヌはドレイン家の屋敷から通わせる予定でしたが、どうも過去に何かあったのかゲイルお兄様とソリが合わないようでして。

私もカトリーヌを心配しています。どうにか学園寮に住まわせていただく事は出来ないでしょうか?」


カトリーヌの様子から過去に何かあった事は間違いない。屋敷に住まわせるのはカトリーヌに気の毒だし僕も心配だ。


学園長の許しが出なければ方伯の居城に帰ってもらうしかない。


そもそも、身の世話をする人間など僕には不要なんだし・・ほんと、侍女を学園にまで連れてくるなんて大貴族の悪いところだ。


「侍女を学園寮に・・?

まあ、君のような大貴族の子息が学園寮に入ることも前代未聞だからね。

よろしい。寮長に伝えておきましょう」


しかし意外な事に学園長はどちらもすんなりと認めた。


僕の入学するクラスはBクラス。

Aクラスは皇族、公爵家、方伯家、伯爵家の子息が優先して入るクラスだ。


Aクラスは毎年10名前後となっており、そこからあぶれた貴族家の生徒がBクラスに入ってくる。

今年の1年生にはCクラスは無いが、あればほぼ平民のクラスになる。


方伯の子息たるカイトがBクラスになる事は通常ない。今回は特例としてBクラス入りとなった。

次期ドレイン家当主たるゲイルを優先するのは当然なのだろう。


そしてカトリーヌについてもドレイン方伯の子息たるカイトに侍女が付かない事の方が問題だと考えたと思われる。


学園長の思慮に感謝だ。



侍女が貴族家の生徒の世話をする事は学園としても当然の事として受け入れられているが、授業棟や研究棟への同行は禁止されている。

当然ながら女性が男子寮に入る事もその逆も禁じている。


侍女が居てもやる事と行ったら洗濯や必需品の買い物などのコマ使いくらいしかないだろうな・・。


あっ、。カトリーヌに大事な仕事を思いついた。ビアンカの様子を見てもらったら良いんじゃない?


僕が毎日夕方にビアンカの様子を見に顔を出すわけにも行かないけど、カトリーヌは女性だから寮母さんにも受け入れて貰いやすいだろうし・・僕が授業を受けている昼間に様子を見てもらえれば・・。丁度よいんでないかい?


そう思ってカトリーヌに侍女業務として「食事を一緒に食べる事」と「洗濯」、「時々のお使い」それと「ビアンカの様子の確認」をお願いしてみたところ・・。


「カイト様は愛人の世話を侍女に命じるような外道でしたね。ですが、ご命令ですので承ります。」


人聞きの悪い・・・

そして、洗濯については・・


「カイト様は自分で服を着れるのですね。安心しました。浴場に脱いだ服を取りに行きますので、浴場に入る時間を決めてください」


「まって!まって!男子寮は女子禁制だからお風呂場には入ってこれないから。」


「それは残念ですね・・。ではエントランスまで取りに行きますので、そこで服を脱いでから浴場に行ってください」


「そんな変質者のような事出来ません!」


「そうなのですか・・・カイト様なら平気かと・・・。」


おいおい!!


とりあえず風呂に入った後、男子寮のエントランスに取りに来てくれる事になった。

風呂から出るのを健気にも待っているそうだ。やる事が無くて暇なのかな?



******


そうそう、寮には湯船につかれる浴場があるらしい。流石は皇立学園。リッチだ。


高級宿やドレイン方伯家にはもちろん湯船の浴場があったけど、大抵の宿屋にはなく、たまに街でサウナ風呂屋を見つけては入っていた。


ちなみに日本語の「風呂」って本当の意味はサウナの事なんよね。だから「風」の「呂」。

浴槽の水をお湯にするより、サウナ風呂の方がずっと安上がりだから普及したんだ。

もちろんバーン村には湯船どころかサウナ風呂もございませんでしたよ。

だから川で水浴びしてたんだよ。


そんな事を考えていると、天然温泉に入りたくなってきた。学園を卒業したら魔法で天然温泉を掘って一儲けできないかな。



******



入寮の日、先にビアンカを児童寮に連れて行く。

お出迎えに来た寮母さんはとても感じの良さそうな人だった。


児童寮といっても学校を兼ねていて1日数時間、読み書きや簡単な社会の勉強があるらしいので、寮母さんも貴族出身で学識もあるのだろう。


児童寮には14人の児童がいるらしい。

みな庶民の子らだ。

今入寮しているのは7歳〜14歳の子供達でビアンカと同じ9歳は2人いるらしい。


「ビアンカに友達いっぱい出来そうだなっ!」

ビアンカの髪を撫でてそういうと、

「友達たくさん欲しいな。あいじんはパパとカイトが居れば十分」

と、また勘違いを産みそうなことを言うが寮母さんは笑顔のまま気にも留めてない。

良い寮母さんだ。


そうやってビアンカの寮生活も始まった。



*******



朝、学園寮の食堂には生徒が集まってくる。


伝えられた食事の時間前だというのに僕がきた時には食事を受け取るカウンターには既に列が出来ていた。


ガヤガヤガヤ・・


このくらいの年齢はやっぱりテンションが高い。こんなに賑やかなのは日本の高校生活を送ってた時以来だ。少し懐かしい。


この食堂は男子寮と女子寮どちらからでも来られるようになっていて、カトリーヌとは朝食と夕食は一緒に食べる約束をしている。

侍女と一緒に食事。いいじゃないか。

と、女子寮側の入り口付近を見ていると丁度侍女服をきたカトリーヌがやってきた。


「カイト様おはようございます。とても制服がお似合いですよ」

珍しくカトリーヌが褒めてくれる。


「おはようカトリーヌ。お褒めいただき光栄だね。」

そう言って早速一緒に食事を受け取る列に並ぶ。


僕とカトリーヌが列に並ぶと急に周りの生徒たちの声が少なくなった・・気がする。

どうやら侍女服を着ているカトリーヌに注目しているようだ。


「本当にカイト様とご一緒に食事させていただいてもよろしいのでしょうか」

カトリーヌがまたも珍しく控えめだ。


「もちろん。1人だとここに並ぶのも気が引けるだろう?」

「たしかにそうですね。お気遣いありがとうございます。カイト様にも良い所があるのですね。」


そんな話をしていると後ろの列から声をかけられる。

「君、新顔だね??その女性は君の侍女かい??」

「昨日から寮に来たカイトと言います。授業は今日から1年B組で受ける予定です。」


「朝食から侍女を連れて歩く奴なんて初めて見たよ。1年Bか、と言う事はどこかに仕える子爵家だね?家名は?」

「え〜と」


「ああ、僕は2年A組のアレックス-トールテン。メーン領に所領を持つ子爵家さ」

「え〜と。。

言わないといけないですかね?」


「言えない家名なわけ?」

アレックスとその取り巻きはちょっとにやけ笑いした。


「この方はカイト- ドレイン様です。何か問題でもございますでしょうか」

カトリーヌが威圧的に割り込んできた。仲良くしたいのに。。


「えっ?! ドレイン?? どう言うことなんだ?」

アレックスと取り巻き達が動揺している。


あっ、列が進んでいる。さっさと飯をとって食べよう。

動揺するアレックス達を放って置いて食事を受け取りテーブルへ座る。


「カトリーヌありがとうね。」

「主人を守るのも侍女の役目ですのでお気遣いは不要です」


まあ、仲良くなれなさそうな奴だったしヨシとするか。

僕は神への感謝の言葉を軽く済ませるとすぐに食事を食べ始める。


「パンが柔らかいし、羊のお肉がとろけてるよ。朝から豪華だなあ。」


・・・??


しかし、カトリーヌは食事に手をつけようとしない。


「どうしたの?カトリーヌ」

「ご主人様と食事をする事など初めてでして、いつ手をつけていいのか・・。」


「すぐに授業だから早く食べて」

「かしこまりました」


今日はカトリーヌの新しい一面を見た気がする。ちょっと嬉しかった。




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