魔法学園1年生入学編

第31話 ゲイル

魔法学園の馬車待機場で僕はゲイルと出会った。


僕はゲイルに憧れの眼差しを向けるが、カトリーヌは嫌悪の眼差しを向けている。


「お久しぶりでございます。ゲイル様」

カトリーヌは丁寧なお辞儀をするが、その顔には嫌悪感が滲み出ていた。そんなカトリーヌの表情は初めて見る。


「カトリーヌ・・・ 。

まあいい。カトリーヌの横にいる君は誰かな?」


そんなカトリーヌを見て一瞬動揺が走ったかのような表情を見せたゲイルだが、すぐに冷静な顔つきに変わり僕へ視線が移る。


カトリーヌとゲイルには過去に何かあったのだろうか?

ラノベではその辺りの話はなかった。

いや・・ゲーム設定でゲイルが使用人に酷い事をしていたと言うのはあったような・・・。


「初めましてお兄様。・・お父上の妾の子のカイトです。」


カトリーヌの態度に少し不安を感じるが、僕は憧れていたゲイルに自己の説明を兼ねた挨拶をする。


「お前が、やはりそうか・・。

どうやってあの父に取り入ったか知らんが、私は君を弟だと認める事はないな。」


「いえ、取り入ったわけではありません。正真正銘の兄上の弟です。」

やっぱり、いきなり弟だと言っても信用してくれるわけないよね。


「では聞くが、妾とは誰だ。」

「エリゼ? エリザ・・?お母様です」


「その女が父とは別の男に孕らされたと言う事も考えられるが?」

「そんな事はありません。母は身籠った後に父に捨てられ、この皇都から縁者を頼って出たのです。」


「まあいいだろう。どちらにせよ私が貴様を弟と認める事はない。

下賤な出の奴がAクラスに来るのも認められないな。学園長にそう言っておく」


ゲイルはそう言ってそばにいる侍女に鞄を預けると馬車に乗りこみ去ってしまった。


しまった。なんか最悪の出会いだ。

なんとか関係を回復する方法を考えなければ。


せっかくゲイルに会えたのに、好感度はゼロスタートだとは。

少しショックを受けてしまったが、まだ学園生活は始まってもいない。

これから挽回する機会はいくらでもあるだろう。ゆっくり好感度をあげていけばいい。


そう思うと、これから始まる学園生活に想いを馳せ急に笑みが溢れる。


ゲイルには嫌悪の目を向けていたカトリーヌだが、僕に視線を移すと呆れた顔をする。


「カイト様はそちらの方のご趣味もおありなのですか?」


「ないです!!」




***************



カイト・・・・。 私に弟・・・・?


父の手紙を読んだときには驚いた。

ゲーム「ルーンレコード」にそんな人物は出てこない。

ルンレコのゲームディレクターをやっていた時の記憶を遡るが、そんなキャラクターは出てこないし、裏設定にも出てこない。


いったい何が起こっているのか?

ゲイルは日本人の時の知識では予想できなかった事態に困惑していた。


***


日本人である美剣城真人みつるぎまひとの記憶を取り戻してから、私は4つのポイントを押さえる事で将来起きる不名誉な死を逃れようと行動している。


1、元のゲイルのゲス思考を封印する。

元ゲイルの人格は一言で言ってゲスだ。甘やかされたお坊ちゃまそのもので、暴力的で性欲も抑えることを知らないガキだ。


ヒロイン達を犯し自分が権力の頂点に立つ事しか考えていないのだ。そう我々が設定したのだから。

それでは死のルート確定だ。だからその衝動は日本人である美剣城真人が抑え込んでいる。40歳を超える人生の経験と死という未来が元のガキなゲイルを封印していると言ってもよい。

もちろんこちらのゲイルの持つ醜い感情がないわけではないが・・。



2、学園の生徒、特にヒロイン候補達は出来るだけ仲間する(攻略する)。

元のゲイルはことごとく学園生徒を敵にまわしていくが、結局それがゲイルを窮地に追い込む。


また、万が一パオロが悪魔召喚に成功しても攻略対象だったヒロイン達と力を合わせれば撃退できる。これもそのようにゲーム設定したのだ。


私の中で攻略の優先順位がある。

私には自分が設定した超お気に入りのヒロインがいるのだ。まずその子を是が非でも手に入れたい。最優先事項であり、その子さえいれば正直、美剣城真人としては他の子は攻略しなくていい。ただ、仲間にはしておきたい。



3、皇帝第二子(第二皇子)の皇帝擁立に反対する。

次の皇帝位争いが激しくなってきている。特に第4子であるエリザベスに魔法の才が発現してからは、エリザベスを皇帝に推す声も出てきたため一気に荒れている。


第二皇子は厄介だ、性格も能力も何もかも。この第二皇子の企みが皇国の大混乱のもとになる。もし皇帝に擁立できたとしてもいずれ混乱を引き起こし、ドレイン家の命取りになる可能性も十分にある。

ゲーム設定通り父とパオロ大司教は第二皇子を推し進めているが、どこかで父を説得する必要があるだろう。



4、パオロ大司教の思惑に乗らない。こいつはある意味ゲイルよりタチが悪い。悪魔崇拝者で、野心家でもある。

出来れば距離を取り悪魔召喚させないに限る。


この4つを押さえていればバカな死に方をするルートは防げるはずなのだ。



しかし・・・・・・・・・。


ここにきて不確定要素が4人に増えた。

ゲーム《ルーンレコード》では学園に存在しないキャラクターはカイトだけではない。


1人は同じ1年Aクラスになったアレッシオ。こいつはパオロ大司教の息子で、本来は教会に留まり影の組織「神の呼び声」の実行集団をまとめるポジションにいる筈だ。それが何故か学院の新入生として現れた。


さらに5月に入りBクラスに新たな生徒が2人、シャルロットとカミーユが入っている。

そして・・今回のカイトだ。

全てゲームにはない事だらけである。


どういった力が働きこんなイレギュラーが起きているのか?もちろん私の行動が変化したことが最大の原因だとは思うが・・・。


どちらにせよこの4人には気をつけなければならない。

カイトとは出来るだけ距離を取った方が良いだろう。もし敵ならば排除する事も一つの手だ。


「フフッ」

ゲイルはマイナス思考になっていた自分を笑う。

まずは出来ることから始めよう。



ドレイン家が所有する皇都の屋敷に住むゲイルの寝室は広い。

その広い部屋の中央に豪華なベッドがあり、天蓋から刺繍の入ったレースのカーテンが垂れ下がっている。


そのベッドの上、ゲイルの足元にかかるシーツがゆっくりと動く・・。


「どうした。起きたのか?」

ゲイルはベッドにあられも無い姿でシーツに包まる女に声をかける。


「・・・!? ゲイル様すみません! 少し眠ってしまいました。」


女はベットからしなやかなその裸体を滑らせそのまま起きあがると侍女服を手に取り袖に腕を通していく。


ゲイルは侍女に手を出していた。



**********

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